novels2

□結び目
1ページ/7ページ







想いの端を繋ぐのは


もう片方の想いの端。










「結び目」




















ごく稀という訳ではなかった。


だけど毎日のように、頻繁にというほどでもなく


思い出したように、気まぐれに、ちょっとした瞬間に、そういうときは訪れた。








「それでね、サンジくん…が………」




ふいに差し出された左手に、次に続けようとした言葉をゆっくりと飲み込んだ。




「……どうした?」


「え…?いや……」



正面の席に座ったゾロから無造作に伸びる手は手のひらを真上に向けたまま、テーブルの上で何かを待つ。

何食わぬ顔でチラリとこちらに視線をやった彼に私はただ閉口する。



「…………」


「…………」



近すぎず、遠すぎずの微妙な距離感、

ただ目の前に差し出されただけの無骨な手。


自ら握ってくるわけでもなく、かと言って引っ込められることもなく、

突然やってきては、静かに何かを待つ、彼の手。



前触れもないのに意識的で、だけど形のない合図の後、


決まって互いの視線が絡み合い、リズミカルな心音だけが私の耳に届く。


問い詰めるような瞳に吸い込まれて

大きく分厚いその手のひらに自分の手のひらをそっと重ねると

彼の表情は一瞬だけ丸みを帯びる。



「ちっせェな」なんて感想を言われることもあれば、

何事もなかったかのようにそのまま会話を再開することもあり、

しばらく無言のまま見つめ合うこともある。


指の腹で感触を確かめるように撫でられたかと思うと

芯の熱が届くか否かの強さで柔らかく包みこんだり

突然ギュッと強く握ってきたりもする。


不確かで覚束ない、不明瞭で意図の見えない曖昧さ。




ただひとつ、その手の温もりを感じる度に私の胸がきゅうっと高鳴ること。


それだけが規則的な事実であった。






「あ……、それでね、サンジくんが…えっと……」


「…………」




大きな手のひらに自分の手のひらを重ねた後、

私は先ほどまでの会話を思い出し、続きを口にしようとした。




「………えっ、と………ゾロ……?」



「…………」



ところがこの日のゾロは私の意識とは反対に会話を続ける気はないようで、

手を握り無言のまま強い視線だけを送り続ける。



「…………」


「…………」



いつもとは違う雰囲気に気圧されてまたもや口を閉ざすと

突然ガタリと椅子を鳴らして立ち上がったゾロは、空気の揺れが伝わるほど私の傍に近づいてきた。



「あ、の……サンジくんがさ…………」


「その話はもういい……」



掴まれたままの右手がギュッと握られたかと思うと

色を帯びた切れ長な瞳がゆっくり近づいてきてますます心臓が速くなり、よもや息が止まりそうになる。




まさに唇が重なる寸前、



そんなダイニングの緊張感にそぐわないクルーの声がゾロの身体越しに響いた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]