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□結び目
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「うーっす!ゾロ!見張り交代の時間だ…ぞー…って…………あ、すまん邪魔したか?」


「…………」


驚いてさっと距離を取ろうとする私とは反対に

ゾロはキスをしようとしていた体勢のまま無表情で私を見つめる。



「わ、悪ィ!んじゃ伝えたかんな!おれはこれでっ…」


「ちょ…、ウソップ!違うの!誤解よ!」



離れようにも右手はがっしり掴まれたまま。

目の前にはゾロの大きな身体があり、ウソップの表情は読み取れないが

慌て様からして恐らく誤解されてしまったに違いない。

個人的な色恋沙汰にクルーを巻き込む気もなかったし、気をつかわれるのもご免だった。


だからゾロだって、ふたりきりの時に気まぐれにスキンシップを取ってきても

はっきりとした関係を求めてきたり、それ以上の行動には移さなかったはずなのだ。




「お…、おう…そ、そうか…?」


「そう!そうなの誤解!…ほら、交代だって言ってるじゃないゾロ…」


「………」



かがめていた腰をゆっくり立てたゾロは
自分の手をどうにか無理矢理引き抜いた私にぐっと眉をしかめたが、

その表情は見ないふりをした。





「…あ、別に今すぐじゃなくても、ゆっくり来てくれていいからよー。やっぱりおれ、行くわ」


「ウソップ」



そう呼びかけてウソップが出ていこうとする扉の方を振り向くゾロの瞳が一瞬哀しげな色を見せる。


初めてキスをされそうになり、今まで曖昧だったゾロの気持ちの欠片が見えたことがどうしようもなく嬉しくて


だけど同時に、船での生活の中で越えてはいけない線まではっきり見えてしまったことが

今の私にとっては辛いものでしかない。




「交代だったな。茶でも飲んで休んでけよ」


「お…おう、悪ィな。じゃあ…頼んだぞー…」



バタンと閉まった扉の内側に私とウソップだけが残された。




「あ、あのウソップ、ほんとに誤解だから……」


「あー、いや、おめェらも大変だなー。サニー号の中じゃどこに誰が現れるかわからねェしな。ハハ」


「え…?いやだから、ほんとにゾロとは何にもなくて…」


「いや、だからおれらに気ィつかわなくても………」


まるでもう恋人同士という前提の言葉に焦りを覚える。


付き合っているという事実はないのだから、誤解されては本当に困る。



私の必死の表情に何かを感じ取ったのか

ウソップは険しい顔つきになってプッツリと言葉を切ってしまった。




「有り得ないわよ、仲間と恋愛なんて…」


「…………」




別にこの船に恋愛禁止だなんてルールはないけれど、

少人数集団の中で仲間同士が関係を持つと

目立ちすぎることは目に見えている。



ただ見つめ合って手に触れて、なんとなく気持ちだけを通わせ合う……


そんな今までの優しい時間だけではこの想いを持て余してしまうことは事実。


はっきりとした関係に踏み込みたい気持ちは私にだってもちろんある。



だけど、だけど、


でも、やっぱり…


どこかで一歩が踏み出せない。



好きだという自分勝手な我を通す前に、仲間たちの顔が頭に浮かんでしまう…


そんなジレンマを隠すように自嘲めいて笑う私を、


ウソップはただ訝しげに眉を寄せて見つめるだけだった。
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