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□魂を呼ぶ海にて
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ぎこちない手つきで赤ピーマンを切り分ける“おれ”を横目に、盛大に頭を抱えた。




どうしてこんなことに……!!














「魂を呼ぶ海にて」














side-Sanji





“ザ・グランドライン”





今後つとめて科学的根拠で説明できないことの全てをこの一言で済ませることにしよう。


なぜこんなことが起こってしまったのか。

いくらこの海が未知の海域を含む不思議の宝庫だとしても……だ、

どうしてそれがおれに………いや、よりにもよって“おれとあいつに”降りかかったのか。

その因果を考えるだけでも頭が割れそうなほど悩ましい。





「は…?なに?なんでゾロがサンジくんを手伝ってるの?」


どういう風の吹き回し?と目をぱちくりさせる愛しの彼女。

その彼女に笑顔を向ける、マリモ改めおれ。



「あー…なんつーかあれだ、腹…減ったし…その、たまにはコ、コックを敬おうと思って」



マリモの笑顔が訝しいのかマリモがおれを敬うのが訝しいのか

おれ…いやマリモを見てこれでもかってほど眉をしかめるのはナミさんだけでなく

隣で包丁を持つその手に力が入ったおれの姿をしたマリモ。



「……ちょっと、風見てくるわ。嵐になるかもしれないし」



頭に手をあてたナミさんがふらりと出て行った後、隣のおれがおれを睨む。



「……適当なこと言いやがって」


「あ?だったらてめェひとりで飯つくれんのか?」


「………」



舌打ちをして赤ピーマンに向き直ったマリモはぎこちなく手を動かす。

刀は使えんのに包丁はからっきしかてめェは!



「おい、そりゃてめェの手じゃねェんだからな?間違っても切るんじゃねェぞ?」


「おれの手ならいいのかよ!」


「構わねェ」



キッチンに誰もいない間にテキパキと作業をこなしていく。

繊細さの欠片もない無骨な手が使いにくいことこの上ないが

マリモに任せるわけにもいかない。









どうしてこんなことになったのか。


キッカケはわかっている。

わからないのはその原因。



朝食の準備を終えたおれはレディたちの紅茶のストックがないことに気づき速足で倉庫に向かっていた。


階段の影で視界に入っていなかったマリモと

降りきったところでちょうど鉢合わせ、互いの頭をぶつけた。


当然文句を言おうと目を開け睨んだ。

ところがどうだ、目の前にはマリモじゃなく、尻餅をついて頭を抱えるおれがいたんだから度肝を抜かれた。


つまり頭をぶつけたことがキッカケで

おれとマリモは身体はそのままに中身だけがごっそり入れ替わっちまったのさ。

だがその原因がわからない。


それ故とりあえず様子をみようとナミさんにはもちろん仲間にも内緒で解決策を探っている。

例えば他のクルーと入れ替わったならまだしも

とことん気の合わないおれらふたりが入れ替わったんだ。

からかわれるのも見せ物にされるのもご免だという意見だけは一致した。





「はァ…どうせ入れ替わるならナミさんと………」


「………エロコック」


「おれの声でその言葉を言うんじゃねェクソマリモ」


「こっちの台詞だ気色悪ィ」



だが問題は山積みだ。

おれの身体になったからといってもちろん

マリモが料理をできるようになったわけではないし、

おれは剣術なんて使えない。


まぁルフィやらはともかく

ロビンちゃんやウソップなんかは勘が鋭い。

ナミさんにいたってはおれの恋人だ。


こうして仲間の目を誤魔化すのにも限界がある。



「あっ!こらてめェそりゃ鍋に入れる用じゃねェ!」


「あ?入れろっつただろうが」


「鍋に入れんのはそっちのニンジンだ!」


「ヘイヘイ」



鍋に傾けようとしていたまな板を置いてニンジンを手に取りまじまじと見つめているおれ、

その隣でテキパキと包丁を操りフライパンを振るマリモ、


という違和感がなんとも言えない。



今後のことを思いやりため息をついたら

眉を寄せたおれが睨んできて


さらに深くため息をついた。





勘弁してくれ。
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