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□呼吸からはじまる
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「ナミさんってさ」



「んー?…なぁに?サンジくん」



「彼氏とか、いるの?」



「…………」

















「呼吸からはじまる」













サンジくんの唐突な質問に、飲んでいた紙パックのオレンジジュースをあやうく吹き出すところだった。




「……そ、それ知ってどうする気?」




昼休みの屋上、サンジくんが作ってきてくれる豪華なお弁当をありがたく頂戴する私。


そしてそれにたかるルフィとエース、時々ウソップ。




「決まってるだろう?その男を血祭りにあげるのさ」



類いまれなるフェミニストっぷりで王子様スマイルともてはやされるその笑みを、私に向けるサンジくん。


隣で興味なさげにエビフライの尻尾を豪快に噛み砕く男は、はたして彼の血祭り候補にあがるのだろうか。



「おいおいナミに彼氏なんているわけねェだろう!あり得ねェ!!」


「ちょっとエース!あんたそれどういう意味!?」


失礼極まりない先輩を睨むと自信満々な答えが返ってきた。


「ナミの男にはおれがなるんだからな!」


「そうだったのか?おれ知らなかったぞエース!」


目を丸くする弟に、そういう予定なのだと言って親指をぐっと立ててみせるエース。


「ちょっ、初耳だし!どういう予定よ!」


その小憎たらしい親指へし折られたいのか!私に!



「ほーう…、てめェか、おれの蹴りで張り倒されてェ野郎ってのは……」


ドゴゴゴォォォォッという効果音がサンジくんを包む。


どうやら私の隣で鮎の塩焼きに頭からかぶりつく男はサンジくんの血祭りから免れたらしい。



「へんっ!どんな奴が相手だろうと、おれは誰にも負けねェ!」


「おいルフィ!この訳のわからねェ自意識過剰野郎をどうにかしろ!てめェの兄貴だろうが!!」


「サンジー、飯足りねェー」


「ほとんどおまえら兄弟が食ったんだよ!!つーかおれは2年だ!たまには敬語でもつかってみやがれ!!」


「おい、あんたがそれを言うか?おれは3年だ。年上にはきちんと挨拶しろと習わなかったか?」






「おまえも大変だなァ……」


話が逸れ始めたころ、呆れ眼でふたりを見るウソップがぼそりとつぶやいたので、浅いため息で返し、隣で寝転がるゾロを見やった。









『おれも、おまえが好きだ』



そう言われ、降ってきた
触れるだけなのに熱く溶けてしまいそうなキス。

胡座をかいた腕の上に仰向けで瞼を閉じるゾロの

薄く色みのない唇を見るたびにその感触を思い出す。




想いが通じあって2週間、私たちは前と変わらず一緒に帰ったり、くだらない話をして過ごす。

違うのは、互いを見つめ合う瞳の甘さと

あの瞬間から鳴り止まない私の鼓動。





「………顔赤ェぞ?」



パチリと目をあけたゾロと目が合う。

見ていたのを見られたことにばつが悪くて目を逸らす。

瞬間、ニタリと笑ったゾロは囁き声で呟く。




「見惚れてんなよ」

「…っ!!」



もうあれよ、血祭られればいい。




筋肉質なお腹に肘鉄を食らわすと同時に予令が鳴って、ぐえっというカエルみたいな唸り声はかき消されていった。
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