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□呼吸からはじまる
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「だァァァァ!スカートが短いっつってんだろ破廉恥娘!!」


「ちょっと!だから生徒に対して何なのその呼び方!」


体育終わりに同じクラスのビビと教室へ戻る途中、生徒指導のパウリーにつかまった。

女子生徒に人気の技術教師だが、やたらと風紀維持に厳しく人をふしだら呼ばわりする。


「ま、まぁ先生、破廉恥は大げさなんじゃ…」


ビビのフォロー虚しくみんなの注目が集まる渡り廊下。


「てめェもだビビっ!てめェらふたり、あと15センチ丈を長くしやがれッ!!」

「えぇぇぇッ!?」


狼狽えるビビっに代わって反論しようと前に踏み出した足が

後ろから誰かに腰を抱き寄せられたことによってぶらりと宙に浮く。




「すまねェな。おれがちゃんとしつけとくから見逃してくれ」


「え……?」



背後から聞こえた突っ込みどころ満載の低い声に顔だけ振り返ると、

ゾロが真面目な顔でパウリーを見据えていた。



「……ま、まァ、おまえが言うならなぁ……いいか破廉恥娘共、明日までには膝が隠れるようにしておけよ?」



しぶしぶと立ち去るパウリーを見送る。




「…あいつに目ェ 付けられるとやっかいだ。気をつけろ」

「あんたって学校では真面目キャラなの?」

「はァ?パウリーがうるせェのは服装だけだ。特に女子のな」


確かにゾロは制服もあまり気崩すことなく着用している。

それなのに、なぜか様になっている。




「……ていうか、何飼い主面してんのよ?私をしつけようなんて100万年早いわ」


「飼い主…まァ、所有してるっつー点では間違ってねェな」


「なっ……!!」



所有……

おれのものってこと…?

う……嬉しっ……て違う違う!!



ゾロがニマリと笑うのに赤くなった私を見て、ビビが遠慮がちに訊ねてきた。




「あのー…、おふたりは恋人同士なんですか?」



無邪気って恐ろしい。

それはルフィやエースで嫌ってほど学んだけど、ここにも無邪気な罪人がいたとは…


「あァ、そう……「まさかァァァ!お、幼なじみっ!ただの幼なじみよ!!」……」


当然のごとく答えようとしたゾロの前に出て否定する。

ギャラリーの視線を少しは気にしてよっ!



「そ、そうですか?でもナミさん…」

「あぁぁぁ!ビビ!早くしないと6限遅れるわよ!ロビン怒らせると怖いんだから!」

「あ、そ、そうですね…」

「ナミ」


不機嫌丸出しのゾロが私の首根っこを掴む。


「放課後道場に来い。部活終わったら一緒に帰んぞ」


その顔はあれですか、「てめェ後で覚えてろよ」の顔ですか。

言いたいことがわかりすぎるってのも考えもの。


気が向いたら行くなんて、なんとも可愛くない返事をしてビビの背中を押した。






ーー−−







来るんじゃなかった。

体育館に隣接した道場の中には黄色い悲鳴をあげる女の子たち。


「集中できねェだろうが!騒ぐなら外で騒げ!」


そんな言葉にさえキャッキャッとはしゃぐミーハー共に、心底迷惑というふうにため息をつくゾロ。


いやいや元凶はあんたでしょうよ!


隅っこに座って練習が終わるのを待ちながら、

やっぱり来るんじゃなかったと、再度ため息をついた。





「ゾロくんこれ使って」
「先輩飲み物どうぞ」
「よかったら一緒に帰りませんか?」



あーあー、モッテモテ。

あんな仏教面マリモのどこがいいのかと自分のことは棚にあげて頬杖をつく。


ところが剣道着を脱ぎながら

タオルや飲み物を差し出す女の子たちを華麗に素通りして真っ直ぐこっちに向かってくるゾロに

不貞腐れていた心はあっという間にうるさくなっていく。



「ん」


目の前まで来て手を差し出したゾロが何を考えているのか、手に取るようにわかる。

タオルが欲しいのだ。私から。


「ん」


同じように短く返してタオルを差し出す。



「着替えてくっから待ってろ」

そう言ってゾロが私の頭をポンポンした途端、道場中の女の子たちが悲鳴をあげた。









ーー−−






「もうっ、なんでみんなの前であんな態度とるのよ……あッ!」

「よっ…と、どんな態度だ」

「も〜うっ!今絶対わざとぶつかったでしょ?!」

「おまえのデイジーがぼさっとしてるからだろ…いや、おまえがぼさっとしてたのか」



2週間前のあの日以来、久々に家に上がりこんできたゾロと色気もなくゲームで遊ぶ。



「つまんな〜い。全然勝てないんだもの、賭ける気もおきないわ」

「下手くそ」

「いいわよ。次私がマリオ」

「教えてやるよ」

「え?」


そう言って後ろに回りこんで足の間に私の身体を入れ、コントローラーを持つ手に大きなゾロの手が重なる。


「ほら、しっかり持てよ」

「ちょっ、!!」



近い近い近い近い!!!!




確かに、お互い想いあっている男女が密着するのはごく自然。


だけどはっきり付き合うと決めた訳でもないし、そりゃあ手はたまに繋ぐけどキスだって……あのとき以来なくて。


そんな私には背中に感じる熱も耳の裏を掠める吐息も、たどたどしい鼓動となって胸から余る。



「ここもっとおもいっきしハンドル切んだよ」

「…っ」



さっきまでの幼なじみテンションはどこに行った!?


陽気な音楽がかえって白々しいほど、あちこちに熱がこもる。





「あ………あー、ちゃんと見てねェから…」

「あ……」


情けない機械音と共にゲームオーバーが告げられ、部屋は静寂に包まれた。
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