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□君という運命と
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薄い唇が切なく歪むのを見届けた瞬間、



ずっと探していたこの気持ちには行きつく場所なんてなくて、



ただ真っ直ぐに、あなたに向かうだけなのだと



いつかも感じた海の音を聴きながら、




存在しない愛の最果てに想いを馳せた。














「君という運命と」


















「………遅ェ」


「待っててなんて言ったかしら?」


「おれがここで待ってると思ったから、来たんだろう?」


「……別に、たまたま通りかかったから、寄っただけ」




無愛想にそう言って意味もなく遠くのシャボンを目で追っていると


スッと立ち上がったローは迷いなく私に歩み寄り、熱さで震えてしまいそうなこの身体を痛いくらいに強く抱きしめた。





「それが、たまたま通りかかったってやつの面かよ……」





あぁこんな日は潮風に、心を丸ごと持っていかれてしまいそう。





「……男なんて、待たせてなんぼでしょ?」


「おまえの待たせるが年単位なんて想定外だ。……気の長いおれに感謝するんだな」


私の肩にすっぽり埋まった低い声は

ふたりの衣が擦れ合う音と共に斜め後ろからやってくる。



「気…長くないじゃない……」


「なんで……」


冷静なようで余裕のない言葉の端々に、心までもがぎゅっと締め付けられる。



「逢っていきなり熱い抱擁なんて……あんたらしくないわ」


「うるせェ。おれの気が本当に短かったら、今ごろ新世界の海は海賊共の血で深紅に濁ってる」


「……物騒な男」


「危ういおれがいいんだろう?」



狂おしそうに私の頬に手を這わせて鼻先を擦り合わせるローの瞳は、

あの日と同じように切なく揺れて

露となって消えてしまいそうな儚さに

罪深く冷たいその手を放さぬようそっと自分の温もりを添えた。









そう、今から2年前のあの日、


露よりも儚く淡雪よりも跡形もなくまっさらに


消えてしまったのは



私の方だった。











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「海軍に囲まれてるってことは、あの男も賞金首なのかしら?どっからどう見ても徹夜明けの引きこもりにしか見えないけど…」



その日、新世界への連絡口であるシャボンディ諸島に到着した私たちは各々物資調達や観光にいそしんでいた。

私は朝からロビンとふたり買い物を楽しんでいたところ、

海軍に囲まれて不機嫌そうに眉をひそめるその男を見かけたのだ。


「ふふ。彼、あぁ見えても2億のルーキーよ?手配書で見るよりずっとハンサムね」

「2億…?!…そんな額の奴がこれから新世界にごろごろ入ってくるってわけね……」


じりじり捻り寄ってくる海軍に焦るでもなく近くにいた白熊に声をかけたっきりその男は

腕組みをしてただ不機嫌そうに突っ立っている。



「あら、白熊さん強いのね」

「ほんとだわ…あ、でも見て、応援部隊が来てるわよ!私たちもそろそろここから離れましょう?」

「そのほうが良さそうね」


野次馬の人だかりの中、最後のつもりでその男に目をやると

藍色の瞳が繰り出す視線と私の視線が何故か一本に繋がって

ニヤリと口の端を持ち上げたその男は私から視線を逸らさないまま戦い途中の白熊に後ろから抱きついた。



「……毛皮マニアなのかしら?」


「……こんなときに?とにかく悪い予感しかしないわ。掴まってて?」



一刻も早くここから離れなければと思い急いでハンドルを切ったはいいが、




次の瞬間には足が地面についていて

前方には海軍、喉元には長刀の刃 、

私がさっきまでいたはずのロビンの目の前にはツナギを着た白熊がいて、

ナミ、いつの間にこんな冬使用になったの?なんて冗談を言っている呑気なお姉さんに

オレンジ違いです。と心の中で冷静に突っ込みを入れた。






「それ以上近寄ってみろ、この女の首が跳ぶ」




この状況からして、後方の声の持ち主は徹夜明けくんだろう。

どうやって私と白熊の位置を入れ換えたのかはわからないが、

視界の端でちらつく刺繍は間違いなくさっきの徹夜明けくんのものだ。



「…ア、ハハ、だそうです……か弱い一般市民をどうかお助けてください…」



前も後ろも敵という状況に冷や汗をかきながら

善良な市民のふりをしてみたが……



「おまえ…確か手配書で見たぞ。トラファルガーの手先か?」

「どちらにしろ海賊だろ!まとめて捕らえろ!」




……やっぱり遅かった。




「あ?……あんた、島のもんじゃねェのか?」

「いつ誰が、街娘ですなんて言ったのよ」


ため息混じりにそう言うとチッという舌打ちが聞こえてきた。
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