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□裸足の君は物言う花
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side-Nami




憮然としたしかめっ面を私に向けて、「似合わない」と彼は言った。



どこがどう似合わないのか私のために作られたような宝の一着は、愛くるしいの一言に尽きる。



なのにニコリとも、ヘラリともせず「似合わない」なんて、方向感覚に加えてファッションセンスもどうかしている。


思い返してみると久々の陸でおまけに偶然ゾロと一緒に出掛けられるとあって

はずむ心のまま浮き足立っていた今まで。

途中鬱陶しい連中に出くわしたりもしたけどその度に造作無くなぎ倒していく彼に何度も惚れ直した。

お洒落なお店を見つけてお洒落な服を見つけて、普段はあまり着ない雰囲気のワンピース姿の私を、

どんな顔で見てくれるのだろうと期待しながら試着室の扉を開けた。

だから、まさか、あんなに苦々しい顔をされるなんて微塵も予想していなくて、

それまでの高揚した気分は一瞬にして波立つ反発に変わった。






だけどもまぁ…………






「靴………置いてきちゃったわ……」




とにかくこのワンピースは意地でも手放すまいと、あとは何も考えず出てきてしまったのでいつものサンダルは試着室の前だ。

夢中で走っていたので足は砂まみれでジンジンと痛むが、まさか今さら戻るわけにもいかない。


困りあぐねてふと顔を上げた先のショウウィンドウの中、 深いネイビーのシンプルなサンダルが目に入った。

しつけの良い箱入り娘みたいに慎み深く座するその靴の前まで行ってケースの中を、覗きこむ。

単色のワンピースのアクセントにもなるが、主張しすぎず品のあるデザインと色合いが気に入った。

とりあえず店に入ろうと背を伸ばしてようやく気がついた。


手ぶらだ。

靴どころか財布すら持っていない。

おまけに武器も元着ていた服も、置いてきた。


唯一身に付けていたログポースとリングがはまっている腕を反対側の手で力なく擦った。



苦笑。


丸腰のまま素足を汚して突っ立っている私。


うーん、よく言えば………













「シンデレラ………?」



「………えっ?」






私の心にぴったりと調和した声に耳を疑う。

ショウウィンドウに映る背の高い人物とパチリと目が合った。





「あ……でも、両方ともないな」


「は……?」


「ガラスの靴」



振り向くと私の足元を見て首を傾げているのは黒髪で短髪の、白いシャツに細身のジーンズというラフな格好の男。

歳は2、3上だろうか。

戸惑う私と目線を合わせてくしゃりと笑う屈託のない笑みは

先日麦わらの船にひょっこり遊びに来た船長の兄を彷彿とさせる。






「じゃああれだ、百合の花?」


「はっ…はい?」


「その服、白い百合みたいだ。立てば芍薬、座ればボタン、歩く姿は………って、それじゃあ歩けないんじゃないか?」


「いや……あの………」




切ない顔で私の足元をしばし見つめたあと、ふとショウウィンドウに目をやった彼は子供っぽさを宿した爽やかな笑顔で言った。




「ガラスじゃないけど……魔法かけてあげるよ」
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