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□海のくちづけ
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「ねぇルフィ、私も乗せて?」


「おう、いいぞ!」



船首に胡座をかくルフィの足の間に座って海を眺める。

遠くではやけに大きなイルカが群れでおいかけっこをしている平和な午後だ。




「……落ちる」

「落ちねェって」

「やだ。怖い」

「じゃあもっとこっちこいよ」

「…………」



私の弱いところも強いところも脆いところもなにもかも包み込んでくれるルフィの前では


素直になれる。今も昔もこれからも、ルフィ限定だ。




「ねぇルフィ……」


「んー?」




海を眺めるルフィを振り返り、キスをする。


目を丸くして眉を下げて笑ったルフィに、またキスをする。


影になって見えないように、ルフィの身体に隠れて下から見上げる。



「ナミ……っ」



また甘い雰囲気をかき消して爽やかに笑おうとしたルフィに


今度は唇を濡らすようなキスをする。



「……っ、ナ…ミ」



ルフィの服にまとわりついて舌を絡める。


私の腰に置かれてい手にぐっと力が入って

その反応に気を良くしてもっと深くキスをする。




「……は、…っ、」


「ん……っ」



されるがままだったルフィが今度は私の身体を強く引き寄せ熱い口付けをしてきた。

こんなことは初めてで、不器用な息づかいと温かい舌触りが気持ちよくて目眩をおこしそうだ。




「る…ふぃ………」


「…っ!!」




甘い波に酔いしれながら名前を呼ぶと突然ルフィは私の肩を掴んで引き剥がした。




「………ルフィ?」


「ナミっ………」



私の肩に手を置いたまま眉を寄せて荒い息を整えるルフィは

不機嫌ぎみに唇を噛み締めて責めるような眼差しでこちらを伺う。




「…………なによ」


「…………っ」




ルフィが険しい表情で口を開きかけた瞬間、キッチン前からよく通るサンジくんのおやつの声がかかった。




「………私、行くわね」


「…………」





何も言わないルフィを尻目にするりと甲板に降りてお茶をセッティングし終えたサンジくんの元に向かう。


背中に感じる突き刺すような視線を無視してチェアに座ると

視界の端にルフィの赤い服が目に入る。


船首から降りて甲板のど真ん中で胡座をかいてこちらを見上げるルフィとの距離はけっこう近い。


ただでさえ意識しなくても目で追ってしまう癖がついたその姿が、嫌でも目にとまる。






「オレンジのオムレットとダージリンティです」


「ありがとサンジくん」


「いえいえ」と恭しく礼をしたサンジくんと、むすっと唇を引き結ぶルフィに見つめられながら、オムレットを口のなかに入れる。




機嫌が悪くなるといつもこうだ。


普段の、五月の風ですみたいな爽快な笑顔を封印して

黙りこくって貧乏揺すりでもし出しそうな態度で見てくる。



「爽やかイライラ」



そんな言葉がぴったりな男の子。


だいたい今回は勝手に不機嫌になったくせに私を責めいるようなその視線はなんだ。

あんなところでキスしたことを怒っているというのなら、海に突き落とす。



ルフィの視線には気づかないふりをして、はむっとオムレットを口に入れるとサンジくんが耳打ちをしてきた。
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