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□君までの距離
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紙の上なら短く感じるふたりの
実際の距離をおれは知りたい。
「君までの距離」
「それで、あの恒星と水平線の角度を……」
「うん……へへ」
「………………」
一瞬にして訝しげな目になったナミさんは、夜空を指し示していたペンでおれの眉間をコツンと小突いた。
「へへ、痛いなァ、もう、ナミさんったら」
「あんたね、真面目に人の話聞いてる?こっちじゃなくて、あっちを見てほしいの、私は」
ビシッビシッと空に向かってペン先を突き立てながら言うナミさん。
「聞いてますよー、天測航法の話だろう?天体と水平線の高度角を計測するんだよな」
「…………聞いてるじゃない」
再び夜空に向き直ったナミさんの横顔に見とれるおれ。
星空を背景にした彼女は普段見る昼の顔とは違ってまた一段と魅力的だ。
「…………サンジくん顔緩みすぎ」
「そりゃ緩みまくりもするさ。昼でも夜でも可愛いんだもん、ナミさん」
「…………はいはい」
おれが今、どうして夜の見張り台でナミさんとふたりきりという
美味しすぎるシチュエーションにおかれているかというと……
「いやーしかし、おれにして正解でしたね。ナミさんから航海術習うの」
「……どうかしら」
天候や波のことなんてからきしなクルーの中で、考えたくもねェがナミさんが緊急事態の時に
まがりなりにも航海術を持っているクルーがいた方が安心だろうという話になった。
もちろんナミさんとふたりきりになれるチャンスを、おれが逃すはずもない。
「えっ!?けっこう飲み込み早いでしょう?おれ」
「その視線を空や海や海図に注いでくれたらもっと飲み込めるわよっ!」
そう言っておれの顔を無理矢理空に向けるナミさん。
そして空に向いた顔を自然とナミさんの方に向けてしまうおれ。
「それは無理ってもんだ。おれの指針はいつでもナミさんを指しているのさ。どこにいても南を指し示してしまうサウスバードのように!」
「誰が上手いこと例えろって言ったのよ」
はぁぁっと大袈裟にため息をつくナミさんも素敵だ。
「ナミさん寒くねェ?」
「…………ちょっと」
おれは自分の上着を脱いでナミさんの肩にかける。
そして後ろからお腹に手を回し、緩く、優しく、包み込む。