novels2

□前編
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いつも私を助けてくれるあなたを


今度は私が


どうしても、助けたいと思ったの。




ねぇゾロ…………




私のこの身体が…………




心が、どうなろうとも…………





あなたを愛する気持ちだけは…………





決して忘れないわ。














「捨て石防波堤」













side-Zoro







油断した……?


いや違う、 むしろ神経を尖らせすぎていた。


店を出た瞬間からつけられていることにはおれもナミも気づいていたし、

たいした質の相手ではなかったから、普段通りにやれば問題はないはずだった。


思い上がりの実力もない数人の賞金稼ぎを伸すことなんて

おれにとってみれば赤子の手をひねることよりも容易い。



それなのに…………




「ゾロ……っ!!」




ふたりという少ない人数で、その中に女がいるとなればどうしても

相手の狙いはナミになる。



おれはずっとナミを気にしていて、後ろを取られそうになったナミを庇って敵を斬った瞬間、

横から近づいてきたもう一人に脇腹を斬られた。




「……………っ」


「う、うそ……ゾロ……っ!」


水のように地面を濡らしていく血液に気が動転したのはナミだけではなかった。

まさかこんな単純な攻撃で膝をつくことになろうとは……

ナミだって、後ろの気配にも気がついていたのかもしれないのに、

思わず足が動いてしまった。




「…っ、おまえ、いいからっ、逃げ、ろ…………」


「ゾロっ、ち、血が…!や、やだ……どうしよ……チョッパー……」



それでもナミは必死でおれの脇腹を押さえて止血しようとするが

真っ赤な血が手や服を濡らすだけで一向に止まる気配もない。


チョッパーはおれらと同じく街に出ているが行き先なんて聞いていない。

広いこの島で探し出すことは困難だ。

仮にサニー号に戻っていたとしてだ、

ここからどれくらいの距離だった……?



「おれは……平気だ……とにかく、はぁ、……行け」


「うそ……すごい傷じゃない!ちょっと待って、今助けを……」



深く斬られているらしい。

久しぶりの血の気が引いていく感覚に身体も冷え、意識が朦朧とし始めたが、

まだ敵は残っていたはずだ。

とにかくこいつだけは逃がさなければとおれの腹に添えられている手を握る。



おまえ、武器はどうした。敵がいるんだ。持っていなくちゃだめだろうが。まがりなりにもおまえだって賞金首だ。背中を見せるな。とにかく走れ。助けを呼んでもいい。色仕掛けは……やめとけよ。



言わなくてはいけないことがいろいろあるのに声に出そうと口を開くと虫の鳴くような切れ切れの息しか吐けなくて。


頼むから、逃げてくれ。


そう願っていると無情にもナミ以外の男の高らかな笑い声が霞む意識の中にガンガンと響いてきた。



「ダッハッハッハ!1億超えの実力もこんなもんか!興ざめだぜ!」


ナミの腕がピクリと動いた。

忌々しい。女を囮にしようなんて輩に何を言われる筋合いもない。



「ほら姉ちゃん、あんたも賞金首だろう?大人しく捕まれば生きたまま海軍に渡してやるよ!だがそっちの剣士はダメだ。暴れられたら困るからな……息の根止めさせてもらう」


「動けないほどの重傷者に何言ってんの!?相手なら……私がするから!ゾロには指一本触れないで!!」



やめろ。おれのことはいいから、騙してでも逃げろ。

海軍に捕まったって、生きていればなんとかなる。




「ほーう、あんたも痛めつけねェといけねェみてェだなァ……」




ナミが敵と向き合う後ろ姿。

まさか戦闘中にこいつの背を見ることになるとはな……

守られるってこういう気持ちなのか……。




「大人しくしてりゃあ生かしといてやったのになァ!!」



だめだ。意識が……




大剣豪を目指すと決めたときから

とうに命なんて捨てていたはずなのに

まだおれは……死にきれない。



ナミに、好きだと伝えていない。



こんなことになるんなら、意地はってないでとっとと伝えておけばよかった。


もし、この場を生きてサニー号に戻れたらそのときは……



消え行く意識の中


視界の片隅ではおれの剣を握りしめたナミの後ろ姿と



口元だけを吊り上げ不敵に笑う男の影が見えたような気がした。
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