novels2

□後編
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いつもおれが守ってやってるものだと思ってた。


おまえを後ろにして前ばかりを見てきた。



だけど本当は、実際は…………



おまえを守るために強くなっていたおれは



結局はおまえの存在に守られていた。












「捨て石防波堤」










side-Nami








「あれ?キャプテンいないや……」



昼食にしても遅い時間だったためか食堂にはまばらにしか人がおらず、


その中にローの姿はなかった。




「ナミ、おはよう!」


食堂の奥で食事していたシャチが箸を持ったまま手を振っている。

ベポに連れられてそっちに行くと隣に座るよう椅子を引いてくれた。




「今起きたのか?」


「うん……」


「……そうか、おれもさ、実は今起きたんだ。夜オペ室についてたから」


椅子に腰かけるとそんな話題が聞こえてきて思わずシャチの腕を掴む。


「ゾロは…?無事なの?目は覚ました?いつになったら会わせてくれるの?」



ベポが二人分のトレーを持ってシャチと反対側の私の隣に座る。



「お……おいおい、気になるのはわかるけど、そんないっぺんに聞くなよ」


ごくんっとご飯を飲みくだして、差し迫る勢いで見つめる私にシャチは困ったように説明する。




「あー、おれが居たときは意識はまだ……それから何も聞いてねェし、目覚めてねェと思う。容態は安定してるときもあればそうじゃないときもあって……たぶん面会は船長の許可がないと無理かもなァ……」


「そんな…………」


「てことはキャプテン今オペ室?」


もぐもぐ魚を食べながらベポがシャチに聞くと、私を挟んでシャチが答える。


「あァ、ペンギンと一緒に朝から張り付いてるぜ?けど今代わりの奴行ったから、直に飯食いに来ると思う」


「………………」



シャチの腕から離れて目の前の白壁をぼーっと眺める。


身体が痛いのか、心が痛いのか、もうよくわからない。



「ナミ……食べなきゃだめだよ、昨日の夜から何も食べてないんでしょ?キャプテン心配してたよ?」


「……っ、心配なんか、してないわよ」



朝まで好き勝手身体を酷使しておいて、白々しいにもほどがある。



「ナミ……面会のことならおれからも船長にお願いしてやるからさ、飯は食え。あいつが起きたときにナミが元気ねェんじゃ逆に心配されちまうだろ、な?ほら、」


「………………」



そう言ってコップにお茶を注いでくれるが胃に入る気がしない。


口を真一文字にして一向に手をつけようとしない私を見てベポとシャチがため息をついたとき

シャチの目の前に見覚えのある帽子の男が座った。



「ようペンギン!お疲れ!」


「…………あァ」


昨日あのときオペ室にいて、さっきまでゾロについていた男だ。

チラリとこちらを見たペンギンと呼ばれたそいつは私が口を開く前に

まるでこちらの言いたいことがわかっていたかのように淡々と言葉を発した。



「まだ目覚めてはいないが比較的容態は安定している。面会には船長の許可が必要だろうな…船の中のことは全てあの人の一存で決まるから」


「……せ、」


「船長なら、一旦自室に戻ると言っていたぞ。直に飯を食いに来るだろう」


「…………」


「まァ……今日のあの人の様子じゃあ面会は厳しいかもしれない……覚悟しておいた方がいい」


それは、どういう意味かと聞こうとしたら食堂の空気が変わってローが現れた。




「お疲れさまです船長」

「お疲れっす」

「キャプテンご飯持ってくるね!」


昨日と同じく隈を携えた目で私を一瞥し向かいに座ったローと視線を合わせることができず

意味もなく目の前の鮎の目玉を見る。



「……ほら、ナミも食べて?鮎が食べてーって言ってるよ?」


「おまえけっこう残酷だな…」


ローの前にトレーを置いて戻ってきたベポが私に箸を持たせてくれようとするが、身体が固まってしまって動けない。



あれだけ私を弄んで、ゾロには会わせてくれない……





「…………ちゃんと食え。身体壊すぞ」





おまけにこうやって歯の浮くような空々しい台詞を平気で吐いてみせる。




悪魔にしか見えない。目の前の男が。
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