novels2

□できそこないのハート
2ページ/11ページ







「船長、在庫リストの確認していただけました…………か?」


「あァ、必要なもんは後で調達班に伝えておく」




久しぶりの顔が現れた。

甲板で抱き合う私たちの前で固まったその男は

深くかぶった帽子の下で目を細めて私を凝視している。

夏島の日差しが眩しいせいだろうか。



「あ、そうですね、えーっと……………どこから聞けばいいでしょうか?」


「あァ、こいつか?こいつはおれの女だ。手ェ出したら殺す」


「知ってますよ、何を今さら。何度そのフレーズをおれに言いましたか。耳にタコです」


「おまえが毎回手ェ出そうとするからだろうが」


「それができたらこんな場面を見せつけられて、今ごろふつふつと黒い感情を沸き立たせたりしていません」


あ?とドスをきかせたローを無視して歩み寄ってきたペンギンは、逢うたびに肝が据わってきている。


「元気にやってたか?」

「もちろんよ、あっちの船じゃ釈迦力じゃないとやっていけないわ」

「そうだろうな、ますます海軍に追いかけ回されていることだろう。お互い苦労が絶えないな」


ふふっと笑ったペンギンから遠ざけるようにローが私の身体を隠す。


「見んじゃねェ」

「見るくらい容赦してください。もう盗ったりできると思ってませんから」

「オイ、昔は思ってたのか」

「そりゃあおれもあの頃は怖いもの知らずでしたから」


眉を寄せたローにペンギンは苦笑いをしてみせる。


思い返せばローの右腕のこの男ともいろいろあったが、今はこうして丸く収まっている。



「それで、在庫リストは?」

「……あの辺だ」


は?という顔でペンギンがローの指差した海の方を見下ろす。

同じ方に目をやると乗ってきたウエイバーの上で

今にも飛ばされそうにゆらゆらと紙切れが踊っていた。


「……あんなところに置きっぱなしにしないでください。海風に持っていかれます」


「凪だろうが。それに心配いらねェ、全部頭に入ってる」


そうでしょうけど、と言って船からウエイバーに乗り移ったペンギンは紙切れを手に取った。




「ナミ、船内にベポたちもいる。顔を見せてやれ」


アイアイ!そんな返事をする熊の姿が頭に浮かぶ。

彼はきっとこの暑さでへばっているに違いない。















「あ、船長お疲れさまでー……えぇぇっ!?」


「もーシャチうるさいよう。キャプテンがどうしたの」


「ナミ!ナミじゃねェか!ナミだろッ!」


「えーえーそうよ、何度も確認しなくても正真正銘ナミよ」


「えっ?ナミ……?」



サングラスも帽子も取り去りツナギの上も下げたシャチの奥で

むくりと起き上がった白い巨体は私を見て目を丸くした。

動物園のパンダにでもなった気分だ。



「ひっさしぶりだなァ!最後に逢ったの1年前くらいか?」

「ナミー!!何でこんなところにいるの!?」

「たまたま風の噂で聞いたのよ。今隣の島に滞在しててね、暇だから遊びに来ちゃった」


久しぶりに逢ったからか幾分大きく見えるベポと、明らかに逞しくなったシャチ。

きっとローにしごかれているのだろう。


「なんか冷てェもん持ってこい。暑くてかなわねェ」


偉そうに浅く腰掛けるローの隣に座るとシャチが冷たいお茶を持ってきてくれた。



「あんたたちこそ何でこんな辺鄙なところにいるのよ?無人島だって聞いたけど」



相変わらず派手なこの船を目視するまで半信半疑だった。

北の海出身で暑さに弱いこの集団が

何の売りもない無人の夏島なんて。



「珍しい薬草がね、取れるらしいんだー。今探索班が出歩いてるんだけど……おれもうだめ、暑くて死にそうだよ」

「外出ても日差しが強ェだけで風もねェしよー、見つかったらさっさと離れようぜ?」


いつも涼しげなローさえじんわりと汗をかいている。

うちの一味と刃を競い合ってきたこの一味を血眼になって探している海軍は知っているのだろうか。

ハートの海賊団は暑さによって思考力も戦闘能力も30%はダウンすることを。




「あんたたち、夏の楽しみ方を知らなすぎるわ」

「はァ?この暑さの中何を楽しむんだよ」

「アイスも切らしてるんだ。シャチががばがば食べるから」

「おまえだよ!!」

「スミマセン……」


こんな日差しの強い日なんか、うちの船の連中はおおはしゃぎだというのに。




立ち上がりTシャツを脱ぎ出した私にローの不機嫌な声とシャチの驚きの声が聞こえた。




「うわ…ちょ!いいんすか船長!?」

「いいわけねェだろ、何サービスしてんだ」


「海水浴よ」


「「は?」」



ベポが倒れふしたまま、目をぱちくりさせている。








「夏の海を涼しく楽しく過ごす方法なんて、海水浴に限るじゃない!」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ