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□どこにも行かずにここにある
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過去と未来ってどっちが大切なんだろう。
涙が枯れるほどの辛い胸の痛みや
心が引き裂かれるほどの苦しい思いを
何度も経験した。
ベルメールさんが死んだとき……
やっとできた仲間と離れ離れになったとき……
これ以上の苦しみはないんじゃないかって、
どうしてこんなに辛いことが起こるんだろうって、
ずっとずっと、考えてたけど……
ようやく今、その答えがわかったの。
「どこにも行かずにここにある」
side-Nami
「オイてめェぼさっとしてんじゃねェッ!!」
「……っ、…………」
サンジくんの怒鳴り声が甲板に響いた。
目の前の男に雷を落としてそちらを見ると、大きな金棒を持った敵を足蹴にしている彼の近くで
座り込んで頭の後ろを押さえているゾロの姿が目に入る。
「ゾっ…………」
反射的に駆け寄ろうとしたが、私はその足を止めた。
「ゾローっ!平気かー?」
「おいおいおめェが不意をつかれるなんてスーパー珍しいじゃねェの」
「打ち所が悪かったら今ごろ……」
「おいッ!やめたまえロビンくん!相変わらず物騒だぞ!」
「ヨホホホ!ロビンさん、身の毛がよだちましたよ。私、髪の毛しかないんですけど!」
クルー以外の敵は全員倒れふし、殺伐とした広い甲板の隅っこに
今しがた激しい戦闘を終えたばかりとは思えないほど陽気な面々が集まり出す。
「………………」
意識もはっきりとしており見たところ大きな外傷も無いように見えるゾロだが、
なかなか顔を上げる様子がない。
私はそんな彼をクルーたちの輪の後ろから眺め、眉を寄せた。
何か、いつもと違う。
簡単に敵にやられてしまうのもそうだが、丈夫さが取り柄のゾロが首の後ろに手を当てたまま、クルーたちの言葉にも反応しない。
様子がおかしい……。
「……ったく足手まといになるくらいなら引っ込んでろ。……おいチョッパー、一応診てやれ、これ以上頭に異常をきたしてたらたまったもんじゃねェからな」
「お、おう!……ゾロ、痛いのか?ちょっとみせてくれ」
私と同じ違和感に気がついたのかサンジくんがチョッパーをゾロのところに促す。
チョッパーは芝生に手をついて下からゾロを覗き込み、いつものように診察を始めようとした。
するとそれまで黙っていたゾロがゆっくりと顔を上げ、
目を大きく見開いて、こんなことを呟いた。
「……………………たぬきが喋った」
え…………?
「…!おれはたぬきじゃねェ!トナカイだッ!!………………って……え?」
「「「「……………………」」」」
変な生物でも見るかのように目を瞬かせながらチョッパーを見ているゾロに
先程と打って変わって辺りは静まり返る。
なんら普通の反応だ。
そう、これが初対面なら…………
「…………お、おいおい今さらかよ!こいつがたぬきなのも、喋れるのも今に始まったこっちゃねェだろ!」
「違ェッ!ウソップ違ェ!喋れるのは昔からだけど、たぬきになったことは一度もねェ!!」
「まぁ鹿でもたぬきでも、肉には変わりねェ!」
「ルフィッ!!?」
「まぁまぁチョッパーさん、あまり毛を逆立てず、穏やかに、穏やかに……」
「骸骨…………本物か……?」
「「「え…………」」」
今度こそクルーからは笑顔が消え、私の胸は嫌な予感と胸騒ぎにさいなまれる。
「…………ちょっとちょっと!いくらなんでもお遊びがすぎますよゾロさん!私腹立てますからね!立つ腹ありまんけど!」
「…………っ、それ以上近づくんじゃねェ!!てめェら何者だ!?」
カチャリと刀を構えて距離を取ったゾロの物凄い剣幕に
ブルックとチョッパーが悲鳴を上げて飛び退く。
「……オイ、冗談きついぜ」
「いいえ、どうやら冗談では済まなそうよ。だってこれじゃあまるで…………」
何者も寄せ付けないような鋭い目付きで仲間を威嚇しているその様子は
とてもふざけているようになんて見えない。
嘘……
嘘でしょ……
ゾロは私のことも…………
「………………ゾロ」
「………………」
ポロッと口からこぼれたその名に反応したゾロが私を見据える。
苦しさに眉をひそめる私を捉えたその瞳の中に一瞬だけ
哀しみの色を見た気がした。