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□幸せの香りがやってくる
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「あ…………あれ?」
なんでこんなところに……?
一通り挨拶し終えた後、夕飯まで時間があったのでサンジと一緒に男部屋へ入ると
雑然粉然と散らかった床の隅っこに、さっきナミにやったはずの花ゴムが落ちていた。
「んー?どうしたエース?なんか気になるもんでもあったかー?お!もしかして空島で大活躍したおれの最新作、オクトパク…」
「いやそうじゃねェんだが」
「いや最後まで聞けよ!」
「タコか……タコ飯もいいな」
「おいこらサンジ!おれの相棒で今日の晩飯を思いつくのはやめろォ!」
「……てめェの相棒はピノキオだろうが」
ウソップたちの声を遠くに聞き流しながら突っ立ったまま首を傾げる。
男部屋に入ったときに落としたのか?
けど腕にはめてやったのに落としたりするもんか?
つーか普段男部屋とか普通に入ったりしてんのか?だとしたら、微妙だなー……
「おめェ言ったな!?ピノキオは偉大なんだぞ!あの鼻の長さは気高さと純粋さと…」
「嘘つきの象徴だろ?」
「だ〜ッ!おめェのぐるぐる眉毛よりよっぽど人間らしいっつーんだッ!」
「あァ?!自慢のその鼻蹴り折られてェか?」
「嘘ですゴメンナサイ」
「てめェらうっせェぞ」
おれが右に左に首を傾げていると、ガチャリと入り口を開け部屋に入ってくるなりそう一喝した剣士くん。
「あァん?てめェの鼾の方がうっせェんだよ、藻!」
「藻じゃねェ!エロ眉毛!」
「…………似たり寄ったりだろー」
「「あ……?」」
「ひっ!睨むなッ!」
ついでなのかなんなのか、騒いでもいないおれまで睨んで、
チッ……と舌打ちをしてタオル片手に部屋を後にした剣士くんに
白い目をしながらサンジがポロッと溢した。
「あーあ、あんなクソマリモのどこがいいんだろうなー、ナミさん……」
………………ん?
「……おめェみてェに隠し撮りとかしねェとこじゃねェのか?」
「……………は……はぁっ!?」
「あ、いや違うんだお兄さん、隠し撮りっつってもこう、チラ見えを狙ってるっつーだけで……ナミさんには内緒にしてくれよ」
ち…………
「違ェッ!そこじゃねェ!……っつーかそこも気になるが……そうじゃなくてッ!!」
「お、おいおいどうしたんだよそんなに慌てて」
「チッ、ほら見ろウソップ。借金上乗せさせられたらてめェのせいだからな」
「いやなんでだよッ!!」
どうでもいいやり取りをするふたりを凝視して心臓をバクバクさせながら、おれは形の定まらない口から声を出す。
「ナッ……ナミは、剣士くんを、その…………はァァァァッ!?」
「なんだよッ!?」
あり得ねェ!だってナミはおれのこと乙女の目で見るんだぞ!?なのに……えぇぇッ!?聞き間違いだろ!!?
慌てふためき頭を抱えるおれを見て、不均等な形に眉を変えたウソップがポンッと手を打って清々しく言った。
「おーそうか!エースが前回この船に来た後だったもんなー、あいつらが付き合いだしたの!」
は…………
「はァァァッ!!!?」
「っだッ!?びっくりさせんなよ!さっきからッ!!」
両手をぐーにして荷物を持つみたいな形で固まったおれに、サンジはふーっと息を吐き、ウソップは身構えして静止した。
「…………おーい、エースー……?」
「………………」
「……さ、おれはそろそろ飯でも作りに行くとするか」
「ちょ、ちょぉ!?サンジくん!?宴の主役放心状態ですけど?」
「知るか。おれはレディたちのためにこれから新鮮なタコを相手にしなきゃならねェんだ、野郎なんて相手にしてる暇はねェ」
「おれのオクトパクツを見ながら言うんじゃねェ!そして逃げんな!!」
マジかよ…………
嘘だろ…………
サッチの顔の方がよっぽど笑える。
「………………」
「……おーい、エース?」
「………ほっとけほっとけ、そりゃあのマリモとだ、ショック受けんのも無理はねェ。……ったくマリモの野郎も調子乗りやがって……」
上着を羽織って扉に向かったサンジは後ろ姿のままポツリと呟いた。
「……にしても、ナミさんも罪作りな女だな…………」
ひゅうっと口笛でも聞こえてきそうな歯の浮く台詞回しにウソップが冷たい視線を向けた頃には
バタンと扉の閉まる空しい音だけが部屋に響いた。
「…………どいつもこいつもナミに浮かされてんのか、この船の連中は」
「………………」
憐れな目でおれを見たウソップにいろんなことを突っ込む気力もなく頭をかきむしると、
置き去りにされた髪ゴムが再び視界に入っておれはそれから逃げるように部屋を離れた。