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□誰にも想像できないほどの、素敵なこと
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若葉の手のひらが、



この船に運んだもの。















「誰にも想像できないほどの、素敵なこと」
















海風というのはまったく、


穏やかに波の上を滑っていったかと思うと次の瞬間には体当たりしてくるかのような突風に変わったり、

太陽の匂いを滲ませた清々しいもののようでもあれば塩辛く攻撃的なものに感じるときもある。



今晩の波は比較的穏やかで、どこからともなくやってきた生暖かい風はそのどちらでもないような気がしたが、


冒険づくの騒がしい毎日の片隅に時折訪れるこんな夜に、

ゾロの心はゆっくりと、静かに脈を打っていた。






「…………は?」


「………………」



夜のトレーニングを終え、軽くシャワーを浴びて男部屋に戻る途中、

闇の中にうずくまる小さな影を見つけて一瞬ドキリと肝を冷やす。

とっくに夜も更けて、見張りのウソップ以外は皆寝静まった時分、

まさかこんな場所で、クルーと出くわすなんて微塵も思っていなかった。



「…………酔ってんのか?」


「…………ん……?」



しかしよく見るとその影が自分の女であることに気がついて、ゾロは首にタオルをかけたまま呆れ半分で歩み寄る。



「おい、こんなところで寝るな」


「…………ゾロ……?」



船の酒豪の座を自分と争うほどの酒好きなナミがこうして酔って部屋以外で眠りこけるのは今に始まったことではない。

一緒に飲んでいて酒に飲まれたのを運んでやるのもたいがい自分の役目だ。

だが、一人でこんなになるまで飲むのかと妙に思いながら近づくと、

しゃがみこんで膝を抱えているナミからはアルコールの匂いなんてしなかった。



「…………具合でも悪いのか?」


「………………大丈夫」



まさかまた何か変な病にでもかかっているのかと不安に思いながら訊ねると、

ナミは抱えた膝から瞳だけを覗かせてゾロを見た。



「…………じゃあどうした?眠れねェのか?」


「………………」


冷たくなってしまっている頬に手を当てて静かに訊いても、ナミは無言で瞳を伏せる。

そんな様子にゾロは眉を寄せ、一歩ナミの傍に近づいてその顔をよく見ようとしたが

その前に再び俯いた仕草に不安を煽られる。



「……眠れねェならコックに何かつくってもらうか?それともチョッパーに睡眠薬でも処方してもらうか?」


「………………」



ナミが顔を上げずに黙ったままでいるものだから、やはり体調が良くないのを無理しているのだろうと判断したゾロは

早急に船医を呼び出すことにした。

しかし「ちょっと待ってろ」と言って立ち上がろうしたゾロの服の裾を、ナミの小さな手がきゅっとつまむ。



「…………どうした?」


「………………」



本当に、どうしたのか。

普段迷いなんて見られないナミの、どうにも不安定なその行動に

ゾロは形のない嫌な予感めいた黒い塊を腹の中に落としていく。


それと同時にぎゅっと自分を掴んで放さないいじらしいその手が可愛くて、

不謹慎にも口元が緩みそうになるのをなんとか堪えながら

再びナミの正面に腰を下ろし、俯いているその額に自分の額をコツンとつけた。
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