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□お昼寝リレー
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よーい…………




スタート!










「お昼寝リレー」








side-Nami






「サンジくん、忙しそー……」




ポツリと呟いた他人事のような一言は、波の音に拐われた。




「……あんなに忙しいなら、無理しておやつつくってくれなくてもいいのに……」


視線を向けた船尾の方には洗濯物をパンパンとはたきながら

おやつおやつと食べ物をせがむルフィを足蹴にしている恋人の姿。

「これが終わってからつくってやるから大人しく待ってろ!」

そんな声が、ここまで聞こえてくる。



「他のやつらなんて誰一人忙しそうにしてないのにねー……」



見渡せば、

釣りをしている者、

見張りをしている者、

瞑想している者、

なにやらつくっている変態、

薬草を天日干ししているトナカイ、

音楽を奏でている骨、


どいつもこいつも「のんびり」と形容するにふさわしいのんびりぶりだ。



「ま、分散されないからひとりが忙しくなるのは当たり前かー……」


そんなことを言うのなら、手伝ってあげればいいのだけれど、私はそうしない。

ここでサンジくんに自分から近づいて行ったら

「寂しいです。構ってください」と言っているようなものだから。

……別に、寂しくなんかないけどね。


「……にしても穏やかな気候ねー」


今朝から恐ろしく気候が安定している。

きっともうすぐ次の島に着くのだろう。


「……あ、布団も干すのかしら?」



全員分?


男部屋から持ち出したであろうタオルケットを両手いっぱいに広げ出したサンジくん。


「そんなのいいからおやつー」とせがむルフィに

「誰のためにやってんだ!!」とガミガミ言いつつ、

まるでお母さんみたいに手際よく作業を進めていく。


まったく……世話焼きなんだから…………



今日彼は、朝起きてまず始めに朝食の準備に向かった。

……ううん、ベッドでぐだぐだしている私にキスをして、

「朝飯つくって待ってる」と言ってから朝食の準備に向かった。

そして全員が食事に取りかかると昼のメニューを思案しつつ倉庫から大量の食材を運び、

私とロビンの食後のお茶を準備。

その合間に軽く食事を済ませればあっという間に食べ終わった連中の皿を洗いだし、

私とロビンが食べ終わるのを見計らってお茶を出す。

カップを洗い終わると今度は昼食の仕込みに取りかかり、合間にウソップの釣りの具合を見に来たりする。

それから仕込みが一段落したら昨日の嵐で女部屋の前が汚れているからと掃除を始め、

ついでならと通路という通路の汚れを取り除き始めた。

掃除が一段落するとガーデニングの土仕事をしていたロビンを手伝って、

それからあっという間に昼食の時間に。

同じように皿洗いや夕飯の仕込みをしつつ、

晴れている今のうちと、合間にこうやって洗濯をしている。


ちなみにさっき大量の洗濯物を抱えながら、

「これ終わったらおやつつくるから待っててね〜!」と言ってきたサンジくんに「うん」と返したのが

今朝からして初めてのまともな会話。




「おやつなんていいから……」



こっちに来なさいよ。


ねぇ……


こっちよ、こっち。


私は、ここにいるのよ……




「サンジー!おれ腹へって死にそー」


「てめルフィ!まとわりつくな!危ねェだ…ろ………」


「……………………」



パチリと視線が繋がった。

ドキリと心臓が脈を打つ。


え?え?

もしかして今の、声に出てた……?



サンジくんは、いつもの珍妙な動きを封印して

私だけにわかるようににこりと笑って小さく手を振ってきた。





“待っててね、今行くから”




彼の唇が、そう動いたような気がした。




「サンジー、肉ぅぅー!」

「うるせェ!既におやつでも無くなってんじゃねェか!!てめェは洗濯かごを戻してこいッ!」


せかせかとルフィを追いやったサンジくんは、キッチンの扉をパタンと閉めた。





「まぁ、ねぇ……」


何がまぁねぇ……なのかわからないけど、

私は頬が熱くなって、そんな意味のない独り言しか出てこない。




膝に乗せていた本を閉じる。



世話焼きで人一倍仕事熱心だし、スタイルもよくて、女好きだけど、案外一途なのよ。

器用で底無しに優しくて、顔も、まぁまぁだし……

何より一流の戦うコックさん。



「あれが、私の男……ねぇ……」



まぁ、あれよ、


合格点じゃない?


認めてあげてもいいわよ。


そう、私の隣にふさわしい男は……




「…………だから、早く、」



私のところに来て。




サンジくん。
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