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□真冬の一等星
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「うおぉぉーーっ!!」



ダイヤモンドを反射させたような瞳の輝きを見せたチョッパーを何気なく見やって、


サンジくんは得意気に微笑んだ。


「今日の主役はてめェだ。たらふく食えよチョッパー」


「いいのかぁ!?おれこんなにいろんな色のわたあめ見たの初めてだっ!!」


ずっと甘い匂いがしてたから、楽しみにしてたんだと声を高くして

甲板に散らばったわたあめの間をくぐり抜けてくるチョッパー。

ここはまるでスーパーボールの海の中

……なんて、ちょっとファンタジーすぎたかしら?



「…………ま、実際毎日がファンタジーだけど」


「ん?なんか言ったかナミ?」


「なんでもないわよ」


「んナミすわん!聖なる夜にシャンパンなんてど〜う?それとも君のサンタからキスのプレゼントがいいかなぁ〜?」


「シャンパンちょうだいサンタくん」


「そう言わずに〜!」


下心剥き出しのサンタからエゴの詰まったプレゼントを受け流してグラスを受け取ると、

男部屋の扉がバタバタと騒がしく開く。


「お……?おぉぉぉっ!!なんだこれ!?」

「すっげーなっ!!ビー玉の海みてェだ!!」


似通った発想を持つ唯一の常人仲間であるウソップがカラフルな甲板を見渡しながら歩いてくると

先に駆け出していたルフィが緑色のわたあめを頭に乗せて振り返った。


「ゾロの真似ー。『おれは、神に祈ったことはねェ』」

「ぶはーッ!!そりゃアフロじゃねェか!!マリモ増殖してっぞ!!」

「てめェらたたっ斬るぞ!!」

「お、おお、いたのかゾロくん!わたあめに紛れてわかんなかったぜ!」


ギャハハハハハ!!!



どこが聖なる夜だ。

神に祈るなんて慎ましやかな行い、こいつらにできるはずがない。


「…………ファンタジーじゃなくて、ノイジーの間違いだったわ」

「いやいやナミさん、マリモの頭はファンタジーだぜ」

「それを言ったら方向音痴はファンタジスタ並みよね」

「てめェらも黙れッ!!」


美味しそうだとチョッパーがルフィの頭に飛び付くと、

祭り囃子の予感に誘われて残りのクルーたちもやってきた。


「なんだなんだァ?スーパーなことになってんなァ!ここはキッズエリアかァ?」

「ヨホホホホ〜!これはこれは!あまりに幻想的で、一瞬天国かと!私もう死んでますけど!」

「たとえ死んでも地獄行きだと思うわよ?私たち全員」


どうしていつも、かわいくて潔白な私まで危険な目に遭うのかわかったわ。


「……あんたたちのバチの巻き添えになってんのよ、私は。……あー神様、私は何も悪くありません」


「どの口が言ってやがん……ガハッ……!!!」


奪い取った瓶でゾロの頭を殴ってやった。


「あんたが一番バチ当たりなんじゃない!!腹巻きにばっかり巻かれてないで!少しは長いものにも巻かれなさいってのよッ!この向こう見ずども!!」


「ナミさんナミさ〜ん!おれは神様信じるよ〜!そう、おれの女神は君さ!!そして君に巻かれたいッ!!!」


「ねぇ、ところでチョッパー」


「え?」


「冷ややかなナミさんも、好きだー!!」と舞うサンジくんを鼻にもひっかけず、

緑とピンクのわたあめを手にしたチョッパーに訊ねる。


「プレゼント、何がいい?」


「プレゼント?くれんのか?」


「えぇ、最近買い物できる島がなかったから用意できてないんだけど……」


「見ろよウソップ!ゾロに緑のわたあめくっつけた!」

「ぷぷーッ!もはや森だ!!」



「次の島で私たち全員から何か贈ろうと思って……」


「てめェらいい加減にしろ!くそッ!ベタベタする!!」

「おっ!この赤つけたらどうなるかなー?」

「クリスマスカラーすぎるだろッ!!」



「だから、あんたの好きなものを……」


「食い物で遊ぶんじゃねェ!!」

「「……ずびばぜんべじだ」」

「ヨホホホホ!サンジさん、手厳…いえ、足厳しーッ!」



「買ってあげようと……」


「なんでおれまで蹴られなきゃならねェんだエロコック!」

「そこで寝られると邪魔なんだよ!立ってツリーにでもなってろ!緑マン!」

「んだとォ!?」

「やんのかァ!?」



「思って…………」


「ゾロの頭にサンジ乗せたらいいんじゃねェか?」

「ぷぷーッ!おま、そりゃどう見てもツリーの上に星だろ!」

「ナイスアイデアだぜルフィ!スーパー人間クリスマスツリーだ!」

「「あ……?誰がこいつと!」」

「あ、息ぴったりですね」

「も、もうツリーにしか見えねェ……!」

「おいおい、星はてっぺんに挿さねェとだめなんだぞ!」



ギャハハハハ!!!




…………………あんたら




「ちょっとは静かにしろーーーッ!!!」



「「「「……ごべんなざい」」」」


「血みどろね、今年のイヴは」


拳骨を6発もお見舞いしなきゃならないこっちの身にもなりなさいよ!

けっこー痛いんだから!!


「…………お、おれ、プ、プレゼントいらねェよ、ほ、ほ、ほらっ、ナミこの前金欠だって言ってたし……!いらねェ!全然いらねェよ!」


「「「チョッパーが、長いものに巻かれてる!!!」」」

「ナミに怯えてるだけだろ…ゴホッ!!」


懲りないゾロにもう1発食らわせて、チョッパーを抱きしめる。


「船の経済状況心配してくれてんの?あんたが一番優秀だわ、この船の男どもの中で」

「いやいや自分の身を案じてるだけだと思うぞー……」

「ゆ、優秀だなんて言われても…うれしかねェぞっ!コノヤロが〜!!」

「んナミさァ〜んっ!おれもおれもっ!プレゼントいらねェよ〜っ?だからぎゅってしてェ〜!」

「あんたサンタなんでしょ?配る方じゃない、プレゼント」

「あっ!そっかァ!じゃあキ…」

「現金。サンタくんの愛の分だけ」

「…!!うぉぉぉぉッ!君への愛を金にしたら、間違いなく破産しちまう!!」

「身を滅ぼせエロコック」

「んァ!!?」


可愛らしいわたあめの中で張り合うふたりをよそに、チョッパーに向き直る。


「お金のことなら心配しなくていいから、言ってみなさいよ、欲しいもの」


(((ナミが金をいとわないなんて……!)))


嵐がくるぞと失礼なことを叫ぶルフィにつられ、チョッパーは空を見上げた。


「おれの、欲しいもの…………」


「えぇ、あんたの欲しいものよ」


一度瞬きをしたチョッパーは、短い腕を懸命に伸ばして言った。



「おれ……!あれが欲しいなァ!!」


「あれ……?」


チョッパーが示す先を見上げてみると、そこには夜空いっぱいの……



「あそこの星たち……すげーキレーだっ!」


「星…………」


まさかそうくるとは思わなくて、どぎまぎしながら頬に手を当てる。

さて星なんて、どうやってプレゼントすればいいというのだろう。

高価なものなんかより、こっちの方がよっぽど難問だ。



「おうっ!それならやるぞ!」


「ホントかぁ!?」


器用なウソップあたりにプラネタリウムでもつくってもらおうかと思っていると、

口いっぱいの肉を飲みこんだルフィが自信満々に言い放った。


「ちょっとルフィ!無責任なこと言わないで!」


悪戯にあげるなんて言ってしまえば、

チョッパーの夢を壊すことになりかねない。

ところがルフィは掴みかかる私を宥めるように笑って、持っていた骨を放ると

まるで世界を抱え込むように両手を空いっぱいに広げた。




「おれが、海賊王になるときにはよ…!この空遮るもんなんて、ぜーんぶ!!ぶっ飛ばせるくれェに強くなってる!!!そしたらあとは、星だって月だって、ぜーんぶおまえの好きにすりゃあいい!!!」





力強いその言葉にクルーが一人残らず見上げた真上の海は、

冬島の気候海域だからかひどく澄んで、遠く遠く広がっていた。




「おぉぉぉっ!!ホントかルフィ!?あの星、ぜんぶおれにくれんのか!?」

「あァ!肉じゃねェからぜーんぶやる!ししっ!」

「おいおいそれってつまりおれたちにも責任あるよな…」

「腹括れウソップ。どのみちおれたちはこいつを海賊王に導かなきゃならねェ」

「ン〜!スーパースター!!」

「やるなトナカイ、てめェなかなか情緒のわかる男じゃねェか」

「ヨホホホ〜!なんと胸踊る贈り物…!私胸ないんですけど!」



うははっと白い息を吐いて頬をほくほくさせたチョッパーは、

足をパタパタさせながらまた一口わたあめを頬張った。




「夜空の星をプレゼント……ロマンティックね」


相変わらずわたあめで遊んでいるひっちゃかめっちゃかな男どもを横目で見て、

ワインを飲むロビンに頭を抱えてみせた。


「……まったく、自分が言ってることの壮大さがわかってんのかしら?」

「ふふ、それはどうかしらね?けど……彼なら本当にやってしまいそうで、私は楽しみよ?」

「………………」



遮るものを全て晴らしてくれたとして、

この世界の夜空の星は

いったい誰のものになるのだろう。

きっとそれは、自分のものだと手を伸ばした人のものになる。



「ねぇチョッパー」


「お?なんだナミ?」


はむっとわたあめに夢中なチョッパーに、ひとつだけ質問を投げ掛けた。


「あの星をもらって、それからどうするつもりなの?」



教会の鐘の音よりも高らかに笑う仲間たちの輪の中で、チョッパーは言った。




「おまえらにあげるんだ!」



「わ…………私たちに……?」



目を丸くする私に気づくことなく再び空を見上げた彼は、

両手をいっぱいに広げて、ダイヤモンドよりも眩しいその煌めきを瞳の中に映した。




「あの星、おまえらの笑ってる顔にそっくりなんだ!!キラキラしてて!!」



だからおれは、あの星をもらったら、それをおまえらに配るんだ!エッエッエッ!





その笑顔が、それこそ真冬の一等星みたいにキラキラしてて、



私は思わず声を上げて笑ってしまった。









輝いてるのは星か、君か












「おーいチョッパー!おまえもアフロにしろよ!」
「そうだぞチョッパー!アフロにするとパンチ力が上がるんだぜ?」
「ホントかぁぁー!?かっちょいいなぁーッ!!」
「あんたらチョッパーに変なこと吹き込むな!!」
「ナミもするか?アフロ!」
「おうイエー!ブラザーソウルが燃えたぎるぜ!」
「するかぁっ!!」
「食い物で遊ぶな!!」
「「ずびばぜんべじだ」」
(怖ェェェッ!!!)






Happybirthday,Chopper♪

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