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□その男、高額賞金首につき
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昼間返り討ちにした海賊船から奪取したらしい財宝を元手に

モビーディック号では今、祝賀にふさわしい盛大な宴が催されている。



「ナミ、これやるよい」



突如として首にかけられた綺麗な金のネックレスに、私の心は一瞬にして奪われた。


「えっ……!いいの!?」


「……おめェ、目が輝きすぎだよい……あァ、今日は無礼講だ。お年玉ってやつだよい、もらっておけ」



振り返ると目を細めたマルコがいつもの大人の余裕を醸し出しながらニヤリと笑った。

この島では新年の始めに目上の人が目下の人に金銭を渡す「お年玉」という素晴らしい風習があるらしい。



「キャーッ!ありがと〜!素敵っ!マルコ!」

「おめェは相変わらず現金なやつだねい」


ぽんぽんと私の頭を撫でるマルコに最上級の笑みで返すと

その様子を隣で見ていたエースがむすっとした顔になってお酒を飲み干す。

おまりにわかりやすくて、かわいい。



「……どうせ昼間の海賊船から奪った代物だろー」


「そうだよい、だがそいつの価値は本物だ。いいだろナミ?」


「もっちろん!わかってるわマルコ〜!」


ちぇっと唇を尖らせたエースに「主役がシケた面すんなよい」とケタケタ笑って、マルコはサッチの元に去っていった。



「すごーい……本物だわー……」

「……ナミ、ナミ、おれ酒ないんだけど」

「……はいはい、わかったわよ」


ネックレスから意識を引き剥がすかのごとく覗き込んできたエースに、仕方なくお酒を注ぐ。


「おまえってほんと金に目がないよなー」


「そうよ、私の好きなものはお金とみかん。一度でいいから窒息するくらいのベリーの束に埋もれてみたいもんだわー……」


「なんだよそれ……」


「まぁそれも叶わぬ夢よねー、誰かさんの弟くんが、あんな調子だもの……」


サッチに煽られて次々と皿を白くしていく誰かさんを一瞥し、ため息。

麦わら一味の貯蓄の大半は、彼のお腹の中に消えていくのだ。


「……あー、ありゃ確かに世話かけてんなァ……」


「そうね、世話賃請求してもいいくらいよ……だけどまぁ、今日のところは許してあげるわ?」


「許してあげるわって………じゃあその手はなんだよ」


「え?お年玉に決まってるじゃない」


両手を皿にして催促する私をエースは怪訝な顔で見つめた。


「おまっ……今日なんの日か知ってるか?」


「エースの誕生日でしょ?おめでとう」


「お、おう……」


「で、新年よ。あんたの方が、私より歳上」


「誕生日のやつからも金とんのか!?」


「失敬ね、風習よ、風習。れっきとした」


「おまえこの島の出身じゃねェだろ!!」


「郷に入っては郷に従えよ」


「ここ船の上だよ!!」


「けど着港してるわよ?」



エースは若干冷や汗をかきながらいやいやまてまてと私の手を押し返す。

半分は冗談なのに。

本当にからかいがいがある。



「おれ、誕生日プレゼントもらってねェ!だからチャラだろ!」


「あら、あげたわよ。私がこうしてあんたの隣でお酒をついであげてることが一番のプレゼントでしょ?」


エースはぴたりと動きを止め、ハッとした顔になった。


「お……おおっ!確かに!すげーな!おれの欲しいもんちゃんとわかってんじゃねェか!」


素直にそう言っちゃうところ、天然に輪をかけてもはや妖精だ。



「でしょ?だからハイ、今度はエースが私にくれる番よ」

「……そ、そうだな、よしっ!すげェ高ェもんくれてやるよ!」


男がちょろいのか、それとも私が巧みすぎるのか、

サンジくんといい、エースといい、こうも簡単に操られてくれると気持ちがいい。



「ほんと?なになに?」

「ほら!」


差し出した手をぎゅっと包む温かい感覚に、笑顔のまま首を捻る。



「…………この手はなに?」


「ん?おれ」



…………で?



「お年玉は?」


「だから、おれがお年玉」


「………………」


「なんだよその目はッ!!」


「はいはい、あったかいあったかい」


「カイロじゃねェ!」


すごく高いものだと期待を煽られた分がっくりしてため息をつくと

エースは何故かニヤリと得意気な顔を作って、握ったままの私の手をぐっと引き寄せてきた。




「おまえ、おれの首にいくらかかってるか知ってるか?」


「……そりゃあ“火拳のエース”って言ったら、世界中の賞金稼ぎが目の色変えるくらいのとんでもない額がかけられてるわね」


「欲しいだろ?5億5千万の、この首」



イケナイ話でもするかのような低い声に、周りの喧騒が少しだけ遠くなり、心臓の音が近くなる。



「…………欲しいに決まってるわよ。けど、お金に換えなきゃ意味ないじゃない」


「金にしたくなったら海軍にでも引き渡せよ」


「……あのね、私だって一応賞金首なのよ?」


「換金ならあのアラバスタの王女にでも頼めばいいだろ、一般人だってなんだって利用すりゃいい」


「………………」



姿勢を低くして私の瞳を覗きこむ漆黒。

単純なようで、何を考えているのかさっぱりわからない。

ルフィのそういうところは兄譲りらしい。



「ちなみにこのお年玉は、持ってるだけでどんどん額が跳ね上がっていくんだぜ?」


「……へぇ、すごい自信じゃない」


服を着ていたってわかる逞しいエースの腕が私の腰に回される。

向こうでは白髭海賊団に混ざってうちのクルーたちが大騒ぎしている。


「当たり前だろ、おれは誰にも負けやしねェ。男に生まれたからにはどんなものにも立ち向かう」


「………………」


「5億なんて大金手にすりゃおまえも一躍時の人だぜ?どうだ?悪い話じゃねェだろ」


「………………」


「嘘はつかねェ。のるかそるか……ナミが決めろよ」



したり顔が生意気だ。

グラスを口につけ、わざと一旦考える素振りをしてみせてから素っ気なく言う。



「……まぁそうね、そこそこ額が上がったところを見計らって海軍にしょっぴいてもらおうかしら」


「あァ、好きにしたらいいさ。その代わり飽きるまで、おれをおまえの傍に置けよ?」


交渉成立だ。そう言って握られた手はやっぱりすごく熱かった。



「よしっ!話もまとまったことだしもうひと飲みするか!」

「……ちょっとエース、」

「お?なんだナミ?」


上機嫌になった彼に急に抱き寄せられ、内心ドキドキと胸が鳴る。

触れあった部分はすごく熱くて、間近にはエースのさわやかな横顔があって、

どこかに行ってしまいそうな冷静さを保つために、しれっとそっぽを向いた。


「いい?あんたは私の担保なの。こんなに密着する権限は与えてないわよ」


「何言ってんだよ、おれがおまえのものなら、おまえだっておれのものだろ?」


「なっ、何その理屈!!」


「言ったじゃねェか、金に換えたくなるまでおれを傍に置いておけって」


一見彼の首を思いのままにできる私に分があるようでいて、

実際のところいいように乗せられたのは私の方だということか。

だとしたら、プライドが許さない。


だけど、おれのものという響き……


って何考えてんの私!!



「……調子に乗らないで。だいたいね、そんな軽々しく命握らせといて、私がすぐにでも海軍に引っ張って行ったらどうするつもりよ?」


「それはねェな」


ぽつり、確信的な否定でもって返してきたエースを見やる。



「……どうしてそう言い切れるわけ?私の十八番は騙しと裏切りなのよ?」


ぐびっと喉仏を上下させてお酒を煽ったエースは、


ちょっとむすっとした私の顔にぐっと近づいて、彼らしい迷いのない表情で囁いた。







「窒息するほどおまえを溺れさせることができるのは……5億の札束なんかより、おれに決まってる」










その男、高額賞金首につき











一瞬にして、私の心を奪い去る。








「…がっ、額が上がったら海軍に引き渡すんだから!」
「金に換えるのが惜しくなるくらい心酔させてやる!」
「やれるもんならやってみなさいよ!」
「おうっ!臨むところだ!」
(なんの張り合いをしてんだよい)








HappyNewYear&HappyBirthday

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