過去拍手御礼novels

□恋は胃もたれ
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「ねぇねぇ」




その声に顔をあげると、テーブルに肘をついてにこにこ顔で身を乗り出すサンジくん。



「…………」



目だけで話の先を促して手元のシュークリームに視線を戻す。





「ナミさんにとってさ、恋ってなに?」



「…………」




さっくりとした生地を一口かじると端っこまでまんべんなく満たされたカスタードが鼻腔に甘く広がった。





「おれ?おれにとっての恋はね、ナミさんが全て!」



「………聞いてない。よくわかんない」



興味ないわ。という素振りでさらに一口かじると、気にすることなく続ける。



「だっておれの恋人はナミさんだろう?
おれが恋してんのはナミさんだけだし、恋っていう単語はナミさん専用!」


「………」



もぐもぐ。甘い。美味しい。




「で?ナミさんにとっての恋は?」



二口目のシュークリームをごくんと飲み込んで、期待した表情のサンジくんを見る。





「………胃もたれ」




「へ?」




「だから、私にとっての恋、胃もたれ」



遠い目になったサンジくんが首を少し傾きかけたのを見て、三口目を口に含む。




「……あ、そっか。胃もたれするみてェに苦しくなったりいろいろ考えちまうくらい、おれのことが好……」


「サンジくんと一緒にいるときっていつも胃もたれしてる気がするのよね」


「……それ実際に?」



頷いて、四口目。



「………だって考えてもみなさいよ、サンジくんっていったらいつも美味しい料理や私好みの甘いおやつとセットじゃない?
ついつい食べ過ぎちゃうの。そりゃあ胃もたれもするわよね」





切なそうに寄る眉を無視して、また一口。



「……ごめん、今度からもっと胃に優しいもんを…」


「だけど恋だと思うわよ?それが」



一瞬ぱぁっと明るくなった表情にクエスチョンマークが浮かぶ。



「……ナミさんそれってさ、おれに恋してるっていうより、おれがつくる料理に恋してるみたいじゃねェ?」


「そうかもね」



6口目も、まだまだ甘いカスタード。胃の中にすとんと落ちる。



「……まぁ女心をつかむにはまず胃袋からって言うしなァ」

「……逆だと思うけど」



いいの、おれはコックなんだから!
と少し拗ねたサンジくんをよそに、最後の一口を、ぱくり。



「ナミさんのためにつくるものには愛をたくさんこめてあるからな」


「ふーん…」




あぁそうか、だからこんなに…………。




サンジくんはおもむろに席を立つと紅茶のおかわりをもって私の傍にきた。




「あ、…」


「…?」




私の顔を見たサンジくんがくすりとご満悦に笑ったかと思うと


ポットをテーブルに置いてかがんで顔を近づける。





「クリームついてる」


「…っ」





ぺろりと口の端を舐めとる生暖かい不意打ちに


思わず呼吸が止まりそうになる。




先程と同じにこにこ顔で自分の唇も舐めとったサンジくんは、誰もいないのにわざと声を殺して耳打ちする。





「おれのつくったもんに夢中になってるナミさんも、……かわいい」



「…〜っ!!」





甘い囁きにぎゅうぎゅう締め付けられてどうしようもなく苦しくなるこの胸の中の想いを



ストレートな言葉に乗せることなんて到底できなくて。




ただ顔を真っ赤にする私の………








恋は胃もたれ、









愛は胸焼け







いつもいつも、身体の中からあなたに焦がれる。













END

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