過去拍手御礼novels
□警報
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「………ねぇ」
「…………」
トントントントン--…
返事をする代わりに規則正しく踵を鳴らす不機嫌ぎみな恋人を前に、うんざりする。
声をかけて、無反応。
さっきから何回これを繰り返しているだろう。
「……ねぇってばっ」
「…………」
イラつきを語尾に宿すと腕組みをして突っ立ったままのルフィが眉の寄った視線をチラリとこちらに寄越した。
「……なに怒ってんの?」
「…………」
…………。
理由を言ってくれなきゃわからない。
今日は波が穏やかなうちにと思って昼間からゆっくりお風呂に入った。
あがってお水をもらおうとキッチンに来たら
おやつを口に入れようとしていた状態で固まったルフィが突然血相を変えて
制止するサンジくんを振り払って私の腕をがしりと掴んで女部屋まで引きずってきた………。
その訳を
「……言ってくれなきゃわかんないじゃない」
「…………」
今朝まで機嫌よくそれはもうにこにこと甲板を駆け回っていたというのに、なんだこの変わり様は…
困り果ててため息をつくと、ルフィの唇が、だんだんと尖ってくる。
…もうっ、ほんとに子ども。
気に入らないことがあったら我慢できないくせに
いつもは正直すぎるくらいなくせに
こんなときばっかり黙りこくって拗ねちゃったら、わかり合えることもわかり合えないじゃない。
「……ルフィ」
「…………」
…なによ、そうやって勝手に拗ねて、そのままアヒルにでもなっちゃえばいいんだわ。
「……もういい。何もないんだっら私行くか…ら…っ?!」
「…………」
はっきりしないルフィに嫌気がさして
くるりと振り返って勢いよくドアへ一歩足を踏み出すと、
腕を力強く引っ張られたことによってルフィの固い胸板に背中からぶつかった。
「…ちょっ、ちょっとなに?!なんなの!!」
「行くんなら---……着替えていけよ」
…………は?
「はぁ………?
………あんた、何言ってんの?私お風呂入って着替えたばっかりなんですけど」
背中から包むルフィの腕が私の胸の前で交差された。
「……おまえなァ、…透けてんだよ…」
「………え?」
自分の身体を見やるとお風呂あがりの湿った状態だからか確かに白いシャツからわずかに下着が透けている。
「………サンジが見てた」
「……見てないわよ」
「ゾロも見てたぞ」
「あいつは寝てたわ」
「いーや、薄目で見てた」
それでか………。
「…もう、これくらいなによ?タオル一枚で現れたわけじゃあるまいし」
ルフィが私の肩に顔を埋めて腕の締め付けをさらにきつくする。
「下も…ズボンはけよ」
チラっと下を見ると短めのスカート。だけどこれくらいの長さなんてざらなのだ。
「あのねぇ、どっかの造船所のお兄さんみたいなこと言わないでくれる?」
「…………ナミぃ」
捨てられた仔犬みたいに首筋にすりついて、くうんと鳴くように情けない声を出す、年下の男の子。
「……あのねぇルフィ」
放してくれる様子のないルフィを諭す。
とにかく私は今喉がかわいているのだ。
「気にしてんのはあんただけよ。わかったなら放し……」
「わかった」
「…………」
はっきりとした声でそう言うのに、未だ動く気配のない後ろの重みに戸惑っていると、さっきとはうってかわって怒気を纏った声で続ける。
「だったらおれがこのままおまえの身体隠してなら、行ってもいいぞ」
「はぁ……?」
片手が下に降りてきて、スカートの裾を前から覆う。
「いやなら着替えろよ」
「…………」
なんであんたに決められないといけないの?なんでルフィのくせに命令口調?!
府に落ちなくて黙っているとスカートを押さえていた手がむき出しの太ももに触れた。
「どうすんだ?………おれとこのまま外に出るか、おれにここで着替えさせられるか……」
は……?
「選択肢…変わってない?」
「んん。今変えた」
「あんたね……」
太ももを触っていた手がスカートの中にゆっくり入ってくる。
「ヤベー…おまえがそんな格好してるから……なんかムラムラしてきた……」
「……っ、バカっ!いい…っ!き、きがえるから!だから放し……」
「やっぱりおまえ、ここから出んなよ」
な---!??
強い男の声と這い回る熱い手に抗議しようと顔だけ振り返る。
「ちょっと、何言って……っ!」
鋭い眼差しのルフィとパチッと目が合った刹那、唇を奪われた。
「……おまえ、たまにはおれの言うこと聞けよ」
……あぁついさっきまで
あんなに穏やかだったのに
変わりやすい海のようなこの人の機嫌は、大型低気圧の接近により少々荒れ模様。
警報、不機嫌のち、ときどき服従命令
一部地域、キスの嵐にご注意ください。
「ちょっ……、待っ…、わ、わたしお水もらいに……」
「もう黙れって。おれが潤してやる」
「んん…っ!」
END