過去拍手御礼novels

□愛する君の
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「なぁなぁナミー」


「んー……?」


航海日誌の上でさらさらとペンを踊らせるナミの向かいに突っ伏したまま上目遣いで問いかける。




「ナミが愛してるものってなんだ?」

「お金とみかん」

「即答かよ……」



せっかくの再会なのに、一向にかまってくれる気配のない恋人の

予想通りで期待外れな答えに目眩がした。





「他にもあるだろう?」




おれとか…

おれとかおれとか…!!




「あるわよ?」



当然よというような返答に、目を輝かせる。



「おうっ!なんだ?」



おれだろ?!




「この紅茶。すごく美味しいのよ?エースも飲む?」

「………」




紅茶に負けた……。



飲まないの?と首を傾げるナミにそっぽを向く。




「……おれ、紅茶きらい」

「あら、そうだったの?」



別にきらいじゃねェ。でもなんか今はきらい。




「他には?」

「そうねぇ……」



ペンを止めることなく考える器用なナミをじっと見つめる。


目の前にいるだろう!!



「可愛い服とお洒落な家具、それから豪華な装飾品に良い香りのシャンプー」

「…………」



だめだ。気が遠くなってきた……



「…どうしたの?天井なんか仰いで」


「……おれ、服も家具も飾りも良い匂いのシャンプーも、別に好きじゃねェ」




不思議なものでも見るかのような変な顔をおれに向けたナミは

「そう?別にいいけど」と素っ気なく言って日誌に視線を戻した。




「も、もっと他にあるだろ?例えばほら、愛する人とか…!」


「…………あー、そうね」



やっと思い出したか!

灯台もと暗しだったんだろう?




「ゲンさんとノジコ元気かしら?それからベルメールさん」



違うッ!そうだろうけどッ!そうじゃなくて!!




「……ゲンサンもノジコもべるめーるサンも、おれきらい」

「張り倒すわよ?」



ナミのバーカ!鈍感女!!



「他に、他にいるだろ!愛して止まねェ奴!!」


「あっ!忘れてたわ!」



そうだ!おれだよ!おまえの恋人であるおれ!!




「この船も、それから仲間もすごく大事よ」


「…………」




忘れてたわーとけらけら笑うナミを前に、ガックリと肩を落とす。




「この船のクルーなんてみんなきらいだ」


「はぁ?あんたさっきから何言ってんのよ?」


「だいたい人間じゃねェの混ざってるじゃん!」


「そこは否定しないけど……」



サンジとかゾロとか、他の男が対象なのも気に入らねェ。



ルフィより、おれを愛してるって言えよ!






「おれ、ナミの愛するものなんて、全部きらい」


「…………」




子どもみたいに拗ねたおれを、困った顔で見つめるナミ。




おれはこんなにこんなに好きなのに。


ナミはちょっとの愛もくれねェのか?


……もういい。もう知らねェ。







「じゃあ………」





コトリとペンを置いたナミは、不貞腐れてテーブルにべったり顔をつけるおれを真っ直ぐに見た。












「エースは、エースのこともきらいなの?」




「え………っ?」






ガバッと勢いよく顔をあげる。





それって………!







情けない顔のおれと目が合うと、つぶらなその瞳をめいいっぱい細めたナミは、

身をのりだしおれの頭に手を置いて、優しく笑った。













「愛してるわよ、エース」











愛する君の、愛するものたち







「お金もみかんも紅茶も服も家具も飾りもシャンプーも、ゲンサンもノジコもべるめーるサンも、この船のクルーも全部大好きだっ!!おれ!!!」

「ふふ、現金なんだから」












END

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