過去拍手御礼novels

□布団の中で、一緒に泣こう
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ガブリッ



浅黒い喉元にかぶりつく。





「…………盛ったネコか」


「喉仏が美味しそうだったのよ」




「なんだそりゃ」と言って仰向けのまま医学書を閉じ、私に視線をやったロー。



嘘。



美味しそうだなんて、嘘。


不健康そうな身体のどこをどう見ても、美味しそうなところなんて一個もない。




「かまってほしいならそう言え」


「…………ねぇ、ところで」



図星をつかれていきなり話を逸らした私に少しだけ眉を寄せたローに

宿の布団の上、上半身を預けたまま言葉を紡ぐ。

やっとこっちを向いてくれたのだ。話がしたい。



「この前貸した本読んだ?」

「……あァ、これか?読んだ」


そう言って無造作に腕を伸ばし、荷物の中から以前私が貸した本を取り出す。

彼の興味をひく話題が読書ネタというところに、なんだか少し情けなくなる。


「面白かった?」


ありきたりな私の質問にやや真剣な表情で考えを巡らせた後、いつもの上から目線の評価を下す。


「まぁまぁだな、俗な内容にしちゃあ悪くねェ」


読めなくもなかった。と付け加えたローの言葉を、この本の作者が聞いたらなんと思うだろうか。



「どこが良かった?」


誰も面白かっただなんて言ってはいないが、つまらないものはボロクソにけなすローの今の言い方はかなりの好評価だ。



「おまえはこの小説のどの場面が好きなんだ?」



少しレトロな趣の近代小説は私のお気に入りの一冊で、

普段専ら医学書づくのローと同じ話題をつくりたくて半ば強引に押し付けたのだ。



「ヒロインに想いが届かないことを知った主人公が、布団の中で泣くシーン」


想いを遂げられなかった主人公が彼女の匂いのついた布団に顔を埋め、さめざめと泣く。

この小説は悲恋の恋に終わるのだ。



「…………へェ」



切なく情緒深い私のお気に入りのシーンを聞いたローは、何故だか口元をニヤつかせている。



「で?ローは?」

「そうだなァ……」



仰向けのままパラパラとページを捲ったローは、しばらくしてピタリと手を止め、

くるりと本を私の方に向け、人差し指である文字を指差した。



「…………あらし?」

「あァ、ここのあらしの場面が好きだな」



激しい嵐の一コマは恋に苦しむ主人公の心の乱れを比喩しているようで、なんとも熱く、切なくなる。



「ふーん……私も好きよ、このシーン」


感情的な場面を選んだローに意外性を感じていると、

先ほどかぶりついたローの喉の辺りがくつくつ震えているのに気がついた。



「……何がおかしいの?」


「いや……まァ……」



焦らすのは彼の十八番。

ニヤニヤと緩む口元は余程楽しいことを見つけた時の表情だ。



「ねぇ何?私何か変なこと言ったかしら?」

「なァおまえ、読書家なんだろう?」



いきなりそんなことを聞いてきたローに首を傾げる。



「まぁ……それなりに、本は読むけど……」


「そうか、じゃあ知ってて言ってるってことだな?」



からかうように下から覗きこんでくるローに「何を?」と聞き返す。

思い当たる節がない。

するとローは半抱きになっていた私の腰を突然いやらしくなで始めた。



「えっ、なに?どうしたの?」

「惚けんな。誘ってんだろ?」

「はっ!?なんでそうなるの?」



服の裾から侵入してきた手がゆるゆると地肌を這う。

小説の話をしていただけで、どうしてそうなるのかと問えば、

いやらしい笑みを浮かべたローは言った。








「布団の中で泣くっていうのは、性行為を意味してる」





え………………



「嘘でしょ!?」


「ほんとだ。まァこの小説の場合はヒロインじゃねェ別の女か……もしくはひとりでヤッてるか…だが」


「…………」





服を半分以上めくりあげたローは呆気にとられる私をよそに下着の線をなぞる。




「ちなみにあらしは激しい性行為の比喩だ」


「え、えっ!?」


「漢字の嵐の場面は文字通りだが……おれが示した平仮名のあの場面だけは、おそらく嵐のように感情任せの激しいセックスのことだ」


「そ、えっ……え、」


「おまえ、どっちも好きだと言ったよなァ……?」




顔を赤くして目を見張る私に悪戯な笑みを向け、


下着のフックをぷちんと取り去ったローは


くるりと身体を反転させ、熱くなる私をあっという間に組み敷いた。









「狂おしいセックスがお好みか?」








布団の中で、一緒に泣こう






「ちが……っ!誤解!!」
「身体は嘘つかねェ」
「…〜ッ!!」






END

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