過去拍手御礼novels

□見せかけ天使の罪なき嘘
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キャラメルのように甘い囁きよりも、


淡雪のように優しいキスよりも、


ガラスのようにきれいな指先よりも…………










「…………ルフィ?」


「………………ん、」



どうしちゃったの?そう訊ねても、私の肩に顔を埋めたままルフィは何も言わずじっとしている。




「…………具合でも悪いの?……って、あんたに限ってそれはないか…」


「ナミ…………」



仔犬のような声で私の名前を呼んだルフィは、先程から身動きの取れないこの身体を抱きしめる腕に力を込めた。


甘えん坊の子供のようなその仕草に小さくため息をつき、回した背中にそっと手を置く。

服越しに触れた筋肉が想像していたのよりもずっと逞しくて、条件反射的に心臓が鳴った。




「…………あんた今、自分が何してるかわかってる?」


「…………ぎゅってしてる。ナミを」




それだけなら、いい。

ルフィの私に対する真っ直ぐすぎる好意には、ずっと前から気づいていた。

だけど、今まで私があえてそれを見て見ぬふりしてきたのは……



「惚けないで。あんたは、仲間の女を抱きしめてるのよ」


「………………」



少し強めの口調で言うと、再び黙り込んだルフィは更にきつく私の身体を締め付けた。



「もう、…………私が誰と付き合ってるか、ルフィだって知らないわけじゃないでしょう?」


「知らねェ」



そんなわけない。ほとんど公認の私たちの仲を、知らないわけはないのだ。

いくら純粋なルフィにだって、仲間の女に手を出してはいけないことくらいわかるだろう。

なのに、何が彼をそうさせるのか。




「知らないなら教えてあげるわ。……私は、サンジくんの恋人なの」


「…………知らねェ」



絞り出すように喉を鳴らして再度しらを切ったルフィは、私の首筋に鼻先を強く押し付ける。

柔らかい髪の毛と肌がくすぐったくて身を捩ると、

無防備だった手首を壁に縫い付けられて、間近には切なげに眉を寄せた童顔の男の子。


そうして密着した瞬間、ふわりとやってきた海の匂いに頭がくらくらした。



「…………や、やめなさいよ、ふざけないで、誰か来ちゃう」


「…………あいつなら、さっきキッチンに行ったからしばらく戻って来ねェよ」


「は、……あんたさっき、知らないって…………」



探し人の居場所をこんな形で知るなんて思ってもみなかった。

サンジくんを訪ねて男部屋に来たら

ルフィが珍しく島にも降りずひとりでいて、いつのまにかこんな状況になっていたのだ。




「おれ以外の男のことは、今はいいだろ…………」


「ちょっ、……ッ!」



闇に黒目を大きくしたルフィは、ためらいもなく貪るように私の唇を吸い上げてきた。



「……は、……ナミ……」


「……っ、や、だめだってばッ!」


「…………なんで、ナミはおれのこときらいか?」



顔を逸らしてルフィの唇から逃れると、その唇をツンと尖らせて上目使いで聞いてくる。

眉を下げて瞳をうるうるさせたねだるようなその表情に、また私の胸が鳴った。




「……私はサンジくんと付き合ってるの」

「知らねェ」

「じゃあ今教えたわ」

「忘れた」

「ルフィ……」

「知らねェ……ッ!!」



息を荒くしてぎゅうっとしがみついてくる身体はすごく熱くて、

いつもの甘い甘い砂糖のようなサンジくんとは、目線も言葉も態度も違う男の子の力のまま、

すがるように服を掴まれれば思わず抱きしめ返してしまいそうになる。


でも、だめ。

これはただの母性本能。

そう言い聞かせてルフィの肩にそっと手を置く。




「いつも……サンジくんからだって言われてるじゃない。人のものを、横取りしたらだめだって」


「………………」


「だから、ね?やっぱりこんなの……」


「とるつもりなんてねェ」


「………………」




「とるつもりなら、とっくにとってる」そう独り言のように呟いたルフィは、太陽みたいな朗らかな顔で私を見つめた。



「誰からもとったりしねェからよ、……だからおまえ、おれのもんにもなれよ……」


「……だめ、だめよ……」


「………………なんで?」



低い声でそう言って、子供っぽい顔をコロッと男の顔に変えたルフィは

私の身体を壁に押し付け服の中に手を入れてきた。



「……っ、ルフィ、やめ……」


「なんでだ?理由聞くまでやめてやらねェ」


「……だってあんたは私の恋人じゃ……」


「関係ねェ」



耳をペロッと舐めながら服も下着もまくりあげて胸を撫でるルフィの手は

壊れ物を扱うように優しく触れてくるサンジくんのものとは全然違うのに……何故か、身体の芯がじくりと疼く。




「……あっ、……や、あッ!」


「やべっ……ナミ、おれのも……触って?」


ひどく熱を持って硬くなっているものに手を押し付けられて、どうしようもないくらい身体が熱くなる。



「……っ、ルフィ…………」


「……っ、んん、我慢できねェ……」



ルフィとは思えないほどの熱っぽい声が鼓膜に響いて、

次の瞬間にはガブリッ、と首筋に痛みがはしった。



「……ッ!だめっ、痕つけないでッ!」



首筋から顔を上げたルフィは私の潤んだ瞳を見て口元に弧を張る。




「痕、つけなきゃいいんだな?」


「……っ!」



知らず知らずのうちに乗せられていたことに狼狽して真っ赤になると、

ルフィは愛しそうに眉を寄せながら、上から包み込んだ私の手を、猛る熱にゆっくりと這わせていく。


甘い誘惑にのまれそうになる私を見上げたその瞳は



淀みも、濁りも、迷いもない、



きれいな漆黒。





「おれは、おまえが誰と付き合ってるとか、誰が好きかとか、何も知らねェから…………」



「う、……うそ……」



「ホント」



「うそ……うそよ……っ」




チュッと可愛らしくキスをして子供みたいに歯を見せて笑ったルフィの表情と、

今行われている卑猥な行為とのギャップにくらりとくる。


額や鼻先を擦り合わせてうるうると潤ませた瞳をゆっくり細めて私を射抜く目の前の少年。


彼に対して沸き立ってくるこの感情は


母性愛だけではない、何か……。









「嘘じゃねェ。おまえに触れたいこの感情以外…………何も知らねェ」








甘い言葉や優しいキスや長くてきれいな指先よりも…………





まるで本当に、何も知らないかのような純粋な眼差しが



私の中の小さな氷をカランと溶かした。





はぁっ




と熱い息を吐いて、その熱で溶けてしまいそうなこの身体を強く壁に押し付け逃げ場を塞いだルフィからは、





そのとき確かに、潔白な海と太陽の匂いがしたはずなのに…………











見せかけ天使の罪なき嘘













あざむかれたら、堕ちるだけ。








END

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