過去拍手御礼novels

□わがままLipの黙らせ方
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ベポの怪我も診てやれるよう書庫の奥深くに眠っていた動物学や獣医学の資料をあさっていたとき、

何気なく目に入った「鳥類」「飛べない鳥一覧」の文字に、はたと思い出した。



そういえば、ペンギンに用があった……



すたすたと長い足で廊下を渡り、ペンギンの部屋の前まで来るとノックもせずに要件だけを言い渡す。



「ペンギン、島で買い物をしてこい。リストは医務室の引き出しにある」



………………。



「……おい、聞いてんのか。返事をしろ」


いくらなんでも了解したのかわからないまま立ち去ることはできない。

いつ何時でも即答のペンギンがすぐに返事を返してこないことを不信に思い、

非番のためにもしかしたら既に島に降りたのかと舌打ちをしながら扉を開けた。



「………………」


「…………いんじゃねェか。何寝呆けてやがる……遣いだ。さっさと行ってこい」


「………………」



二段ベッドの下の段にはまったく起きる気配のない布団にくるまった塊。

おれの呼び掛けにぴくりとも反応しないそいつに再度舌打ちし、ベッドの横に立って殺気を送る。

神経質なこいつにしては珍しい。こんなんじゃ寝首掻かれるぞ。




「てめェいい加減にしろ……!」




ガバリッと片手で容赦なく布団を剥ぎ取ると、


そこにいたのがベッドの持ち主どころかこの船のクルーでさえなかったことに、


おれの思考と動きは一拍ほど停止した。




「……………………」


「は…………………あァ?」



……なんでこいつがここにいる?



ふわりと浮かんだ布団の端が重力に従ってゆっくりと爪先に触った瞬間、

即座に状況を把握したおれの眉間には困惑、疑問、怒り、呆れ、そういった類いを示す皺が刻まれた。



「………………」


「…………てめェ……いつの間に……」



すやすやと健やかに寝息を立てて眠る自分の女。

その安心しきった寝顔を狐につままれたような気分で上から見下ろす。

そもそもこの船に忍び込んでいたことさえ、たった今知った。

しかし、問題はそこじゃない。



「なんでペンギンのベッドで寝てやがる…………」


「………………ん、……」



答えもしないで呑気にコロンと寝返りをうってこちらに向いた顔は、

どこからどう見ても、間違いなくおれの女だ。




「………………起きろ」


「………………ん、ぺん…ぎん……?」



とにかく起こして他の男の寝床の上にいる訳を詰問……いや、尋問するのが一番早い。

そう思い肩を揺すると紡がれたおれ以外の男の名。


こいつ…………覚悟はできてんだろうな…………



「ナミ…………」



おれはペンギンによく似た穏やかな声のトーンでナミに近づき、その唇にキスをした。





「…………………なんだ、ローか……」




開けた目を一瞬丸くした後、目の前にいるのがペンギンではなくおれだと気づくなり

ため息をついて再び寝返りをうったナミ。


そのあまりの無頓着さにおれの額には数本の筋が浮かび上がる。



「なんだ………じゃねェ!てめェ、今のがペンギンだったらどうするつもりだ!あァ?!」


「んも〜、うーるーさーいッ!寝起きなんだから静かにしてよねっ!」


そう言っておれの手から布団を巻き取りくるまって、壁側を向いたナミに詰め寄る。


「いつこの船に潜り込んだ!?どうしてペンギンのベッドで寝てやがる!?」


「あっ!ちょっと布団!!」


「うるせェ答えろ!」


再びガバリッと剥ぎ取った布団を取り返そうとこちらを向いたナミの肩を

鞘に納めたままの刀で仰向けにベッドへ縫い付ける。



「…………うわ……怖っ、顔怖いわよ、あんた……」



ま、いつものことだけど。

と悠長に眠気眼を擦っているどこ吹く風のマイペース人間を睨み下ろし、

地を這うような低い声で言う。




「答えろ……でなけりゃ先にペンギンが死ぬ……」


「…………それって次に私も殺すの?」


「おまえには情があるからな……バラしてホルマリン漬けにでもして傍に置いてやるよ」



おれのせせら笑いに唇を歪めたナミはしばし沈黙した後、ため息をついた。



「本、返しに来ただけよ。借りてたの」


コツコツ、と指先で叩かれた枕元の本に視線をやる。

ナミは「それだけよ。文句ある?」という顔でおれを見て、再び布団を掴んだ。



「まだ話は終わってねェ。……なぜペンギンのベッドで寝る必要がある」

「待ってたら眠くなっちゃったの。……もうっ、いいから布団返して」

「………………」


この期に及んでまだ睡眠を続行しようとするのはおれの怒りの訳をはかり違えているからか、

それともただ単に肝が据わっているのか……



「昨日船番だったから無性に眠いのよねー」


おそらく後者の方であろうナミからおれは再び布団を奪って手の届かないところに投げ捨てた。



「だったらおれの部屋で寝りゃいいだろうが!」

「痛ッ…!いやよ!すれ違いになっちゃうじゃない!」

「そもそもなんで最初におれのところに来ねェ!」

「行ったけど、いなかったの!……ていうか頭揺さぶるのやめて…!」

「探せ!てめェの男だろうが!」

「ローには用事なんてないもん!い、いたっ、……痛ッ!痛いってば!」


ガシリと掴んだ頭をぐりぐりと揺するとナミは涙目でおれを見上げた。


「いいから早くそこから出ろ!てめェはおれ以外の野郎のベッドで寝るんじゃねェ!」

「いやよ!私はここでペンギンを待つの!」

「ふざけたこと言いやがって!襲われても知らねェぞ!」

「ローじゃないんだから!いきなりそんなことしないわよ!」

「だったらてめェはどんな男のベッドでも易々と寝るのか!?あァ?!」

「ちょ、……変な言い方しないで!」



鬱陶しそうに眉を歪めたナミはおれの手から逃れてそっぽを向く。

そのまま身体を丸め、目を閉じ大きく息をつくというふてぶてしさに、おれはますます苛々を募らせる。




「…………船長室に来い」


「やだ。私ここのクルーじゃないし、船長命令とか無効だから」


「…………ガキじゃねェんだ。言うこときけ」


「しつこいわね。ここで寝るったらここで寝るの!」


「…………てめェバラされてェのか」


「いやよ。邪魔しないで、私の睡眠時間」


「………………」



眉間に深く皺を刻み目の下をひくつかせたおれを


余裕綽々の態度で見上げてニヤリと生意気に笑った怖いもの知らずの傲慢女は




ゲーム開始の合図を告げるように愉しげに呟いた。





「私のわがまま、あんたに阻止できるのかしら?」





その瞬間、ボッと音を立てた心臓に


おれは目を据わらせたまま口元に弧を描く。




「くくっ……おれがおまえのわがままを、阻止できるか……だと……?」


「……何がおかしいのよ」



突然笑いだしたのが不気味だったのか、ナミは妖怪でも見るような目をおれに向けた。



「簡単だ」


そう発すると同時に刀をぱらりと床に落として服の上を脱ぎ去り

無防備に仰向けで寝転がるナミの上に跨がる。



「ちょっと!なにする気よ!?」


「なにって見りゃわかんだろ、挿れる」


「はぁ!!?な、なに言ってんの!?」



暴れるナミの身体をがっしりと足で挟んでガチャガチャとベルトを緩める。



「だから、我慢できねェから今すぐ挿れる。何度も言わせるな」


「ちが……っ、そういうことじゃなくて!ここペンギンのベッドなのよ!?」


「あ?そんなの知るか。おれは出してェんだ。ヤらせろ」



ズボンのボタンを開けてじりじりとねじり寄ると、ナミは唖然としたまま顔を蒼くした。



「冗談やめて!こんなとこでできるわけないでしょ!?」


「おれはいきなり襲ったりしねェペンギンとは違うんだよ。さっき自分でそう言ってたじゃねェか」


「ま、ちょっ、ちょっと!だめに決まってるじゃない!」


「仕方ねェだろ?欲情しちまったんだから」



シュルルッと抜き取ったベルトを床に捨て、両手で細い腰を掴んで行為を連想させる動きをすると

ナミは蒼かった顔をたちまちに赤くした。



「……っ、バカ!やめて!」


「やめねェ」


「どきなさいよ!」


「イヤだ」


「な…っ!子供じゃないんだから……」


「しつこいなァ……“ここで寝るったら、ここで寝る”んだよ……」



口の端をつり上げてついさっきのナミの真似をすると、

とうとうおれの思惑に気がついた様子で、ナミは声を上擦らせ明らかな動揺を見せた。




「…………ま、まさか、あんた……」


「まァ最大の譲歩をしてやるとすれば、おれの部屋で抱かれるか、今すぐここで抱かれるか……おまえに選ばせてやってもいい」


「……………………」


「目には目を、歯には歯を……って、言うだろ……?」


「……っ!」




ナミの「やられた」という表情が可笑しくてたまらないおれはくつくつと喉を鳴らし、


ふるふると震えるその唇をツーッと親指でなぞり、



ゲーム終了の合図を囁く。








「おれのわがまま、おまえに阻止できるのか?」



「!!」






息を呑んで目を見張ったとんでもなく聞き分けのない可愛い女の唇を



もうそれ以上生意気な口ひとつもきけないように、



わがままに妥協なんてしない吊り上がったおれのここで、



容赦なく、黙らせる。











手に負えないなら唇で











ガチャリ


「ペンギン!」
「ちっ……今ごろ来やがったか」
「………あんたら人のベッドでなにやってんだ」
「た、助けてお願い!!」
「ペンギンてめェは買い出しだ。この部屋を明け渡せ」
「わ、わかったわよローの部屋に行く!行けばいいんでしょ!?」
「くくっ……それでいい。可愛がってやるよ」
「……〜っ!」
(…………勝手にやってくれ)






END

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