過去拍手御礼novels

□見せかけ天使の愛ある罰
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「せっかくだからさ、どこかで宿とらねェ?」


「え…………?」



穏やかすぎる、そんな一日だった。


早朝島に着いた私たちはそれぞれ街に繰り出した。

私がサンジくんと出かけることについて、

ルフィは「行ってこい」とも「行くな」とも言わず

「飯は用意してあるから安心しろ」と言うサンジくんに満足げに笑うだけで

早々に船を降りて行ってしまった。



「明日の朝飯の心配ならいらねェよ?ちゃんとつくってきたからさ」


「あ、そ、そうなんだ………」


何故かしどろもどろになる私の腰を抱き寄せるようにして、

サンジくんは蜂蜜みたいな声を出す。



「……この前のナミさんがすげェ刺激的で、忘れられねェんだ……今夜も、寝かせたくねェな……」


「…………なっ、」



くびれを這うその手つきは相変わらず繊細で


「さ、行こう」と言う優しい笑顔に促され

夕日も落ち始めている街を、私たちは船と反対の方向に歩き始めた。



サンジくんも、街も、風も、穏やかなのに

私の心の中だけは、まるで何かが駆け回っているかのように

落ち着きなく掻き立てられている。


足を踏み出す度、手を動かす度、

ジャリ、ジャリ、

そんな鎖の音が聞こえ、いくら振り払っても、繋がれたままなのだ。





「………………え?」



ふと、自分を呼ぶ声がしたような気がして振り返った。


「……何?…どうかした…の……」


サンジくんもつられて振り返ると、私たちの視線の先には見慣れた麦わら帽子。



「おーーいっ!おまえらーーっ!!」



「………………あ、ル…?」


「ルフィ…………?」


遠くの方から意気揚々とこちらに走ってくるルフィに、

人違いではなかろうかと、私たちふたりは一瞬目を細めた。


「こんなとこで何やってんだーーっ!?」


「てめェが何やってんだ…………ってオイッ!!海軍引き連れてこっち来んじゃねェーッ!!!」


大量の海軍を背負って向かってくるルフィに

アラバスタでのデジャブかと思ってしまう。


「えーっ!?聞こえねェー!なんつったサンジー!?」

「だァァッ!こっち来んな!!ナミさん、ここは危険だ、逃げ…」


サンジくんが私の手を取って走り出すよりも早く、

伸びてきたルフィの手が腰に巻き付いた。


「逃げるぞ!ナミ!!」


「え…………きゃぁぁぁっ!!!」



一気に浮いた身体はビルの屋上に下ろされ、

下ではサンジくんに迫る海軍と、こちらに銃を向ける海兵たち。



「てめェルフィーッ!!ナミさんに危ねェ真似してんじゃねェー!!」


「おうっ!あとよろしくなーサンジー!」


「ふざけんなァァァッ!!」


ルフィはニカッと笑って私を片腕にビルからビルへと飛びうつる。


「ちょ、ちょっとルフィ!サンジくんが!」

「あいつなら平気だって」


走りながら叫んでいるサンジくんがどんどん遠ざかる。

私たちはさっきの現場からだいぶ離れた廃屋の中に身を隠した。





「…………行ったみたいね」


「いやー!びっくりしたー!まさかあんなに海軍がいるとは思わねェもんな!アハハ!」

「びっくりしたー!…じゃないっての!!」

こっちがびっくりしたわよと一発殴ると、ルフィは頭を抱えながら私を見上げた。


「おまえ探してたらよ、海軍の基地に迷いこんじまったんだよ」

「……何?私に何か用だったの?」


白々しく呟いて立ち上がった私を

ルフィは悲しそうに眉を下げて見上げた。


「……別にそういうわけじゃねェけど、サンジが明日の朝飯もつくってったから、今日はおまえら、もう船に戻ってこねェんじゃねェかと思って……」


「………………」


気まずく顔を背ける私の手首を、熱い手が掴む。



「なァ……約束しただろ……?」


「そう、だけど……だって……」


子供っぽいしゃがれたルフィの声に、何故か罪悪感を感じてしまい俯くと

思い切り腕を引かれて糸も簡単に引き締まった胸板に引きずり込まれる。


「今日も…おまえ……サンジと、」


「っ、宿……とるだけよ…」


「泊まるんなら、寝るだけじゃすまねェだろ、フツー……」


「………………」


固く締め付ける腕とぎゅっと服を握りしめる手のひらに、きゅんと胸が鳴く。



「……あいつとシてるとき……おれのこと思い出す…?」


「っ、何言って…!」


「思い出せよ……」


「……っ!」


埃っぽい床に組み敷かれて、見上げた先の光る眼差しにぶるりと身体が疼く。

口元を僅かに吊り上げたルフィは私の首筋に顔を埋め、熱い舌を這わせた。



「あいつに抱かれてるくせに……」

「……っ、んっ、やめてルフィ!」

「おれにも感じてんだろ……」

「……っ、や、ルフィ…っ」


服の上から這ってくる刺激に抵抗の力が弱まると

ルフィは私の両手首を頭の上で拘束して服も下着も捲り上げた。



「……それとも、もうおれじゃねェと感じねェか……?」


「やっ……!見ないで……!」


暗闇に光る黒目がちな瞳が私の肌を、まるで撫でるように見つめてくる。

羞恥に耐えきれず身を捩るとルフィは赤い舌先で遊ぶように突起を舐めた。


「すげェ勃ってんな……見られて興奮してんのか?」

「っ、あぁっ、やぁっ」

「いつサンジがくるかもわかんねェのに」

「ルフィ……!んんっ…!」



ルフィの手がいやらしく膨らみを這って、

ルフィの唇がキャンディを溶かすみたいに私の耳を含んだ。





「悪い女…………」



「……っ」



ゾクリと全身に痺れが駆け抜けた。

両腕で強く抱き込むくせに

「おまえもおれも、サンジに怒られんな……」

そう囁く声は甘くて。


両の手首が解放されたって


私は、とっくに……






「ナミさーーーん!!」



「っ!」


その声に私とルフィはぴたりと動きを止めた。



無事かー!?いたら返事をしてくれー!!


外からそんな必死な声が聞こえてきて、息を飲む。


「ル、ルフィ……サンジくんが……!」


「……………………」


どんどん足音が近づいてくるのに、ルフィはいっこうに私を放さない。

「おっかしいな、こっちの方向に行ったと思ったんだが……あのクソゴムナミさんをどこに連れ回してやがる……」

そんなぼやきまで聞こえるほど、サンジくんが近くまで来ていて

たまらずルフィの肩に手を置いた。



「ルフィ、サンジくんが来ちゃう…」


「来ねェよ。今は、あいつのこと忘れろ……」



おまえの前にいるのはおれなんだ。



そう言って私の身体を抱きしめたまま、ルフィは唇を合わせてきた。



「ナミさーん?おーい、ルフィーっ!……クソっ、……ナミさんになんかあったら承知しねェぞあの野郎……」


ふーっと煙草を吐き出す息づかいが古い木板の窓越しに聞こえ、


どんどん侵入してくるルフィの舌に、こちらの息づかいも聞こえるのではないのかと


心臓が早鐘のように打ち始める。



「……参ったなァ……あー、船にでも戻ってんのかもしれねェ…………」



「……ん、っ……ふっ」


「はぁ…………ナミ……」



すぐそこで止まったサンジくんの足音。


微かなリップ音とルフィの熱。


「行かせない」と言うようにぎゅっと強くなった腕の力と


深くなったキスの角度をきっかけに



気づけば私は


ルフィの首に自分の腕を回していた。




「………………一度船に戻ってみっか……なんもなけりゃ帰ってくんだろ……」




聞き慣れた革靴の音が遠ざかる。

ずっと繋がったままだった唇をゆっくり離すと

ルフィは至極穏やかな顔で笑った。



「約束破ったお仕置き、まだだったな」


「な…っ!結局サンジくんじゃなくてあんたとこうしてここにいるんだから、いいでしょ!?」


「だめだ。おれが来なかったら今ごろあいつとこういうことしてたんじゃねェか……」


ルフィは拗ねたようにそう言って、際どいラインにくっきりと痕を残し始めた。


「やっ!だめ!ルフィ、だめだってば!」


「うるせェ。言っただろ、あいつにばっかり構うんだったらもう……」



縛り付けちまうぞ……って。



チクリ、チクリと刻まれるのは、

見えない手足の枷よりも重厚な、ルフィの気持ち。




「おれ以外には見せられねェカラダにしてやる……」


「……っ」



眩しい金髪とは違う闇に溶ける柔らかな黒髪をくしゃりと掴む。


いくら近づいたってやっぱりルフィからは、潔白な海と太陽の匂いしかしないけど


あのときと違うことは、ルフィが私の逃げ場を塞いでいるのではなく


外に繋がる扉から、私が目を逸らしているということ。



「ルフィといると……あったかい……」




甘い痛みに耐えながら体温の高いその背中に腕を回し


ぎゅっと服を握ってしがみつくと


そんな私に気がついたルフィは、大きくて澄んだその瞳を


愛しそうに細めた。







「好きだ、ナミ……今は、おれだけのおまえでいろよ……」











見せかけ天使の愛ある罰










痛みと共に、生まれたもの。









END

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