過去拍手御礼novels3

□流れ弾注意!
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海賊は、いつも何かと戦っているものだ。


食事、睡眠、遊び、戦闘、逃亡……


生活のどの部分を切り取ってみても、ほんの些細な油断が命取り。

だから私たちは、全てのことに全力疾走。

和やかなはずの宴の席だって、この船では血みどろの戦場へと変わってしまう。

たとえ相手が信頼できる仲間であっても、やられる前にやらないと、煮え湯を飲むはめになる。

旬な話題に飢えたクルーたちのターゲットにされた男が、ここにもひとり……




「……そうか、おめェ、まだだったのか…」

「まぁそうよねー。相手があのお嬢様なんて、あんたにはハードルが高いわ」

「ヨホホ!大丈夫、人生は長いのです!チャンスならこれからいくらでもありますよ!」


私たちが続けざまに砲弾を浴びせた後、胡座のままスパーッと煙を吐き出したサンジくんが、とどめとばかりに大砲を撃ち込んだ。



「なんだおまえ、まだ童貞だったのか、ウソップ」


「だァァァッ!!みなまで言うなァァ!!」


ぐわしッと手をバッテン印にしたウソップに慈悲のひとつもかけず、私の皿におつまみを取り分けるサンジくん。

狙撃をさせたら百発百中の名人も、酒の入った物好き連中の中では集中攻撃の的となってしまっている。


「まァまァ!コーラでも飲んでスーパー元気出しやがれ!」

「そうですよ!そうだ!何か楽しい曲でも歌いましょう!」

「慰めんじゃねェ!余計惨めになるわッ!!」

「その、メリー号を譲ってくれたお嬢様って?気になるわ?」

「あーそっか、ロビンは知らないのね。そりゃもう清楚なお嬢様でねー、ウソップなんかにはもったいないくらいよ。お金持ちだし」

「そこそこそこー!勝手に相手を決めんじゃねェ!!」

「はぁ?あの子以外に誰がいるのよ?」

「そ、それは…」

「あんた、20歳までに卒業しないと妖精になっちゃうわよ?」

「ならねェよッ!!!」

「ナミさんの仰る通りだぜ。おまえも早く男にしてもらえ、ウソップ」


珍しく真顔のサンジくんに、大人組が神妙な面持ちで頬杖をついた。

こんな話ができるのも、チョッパーがロビンの膝の上で鼻提灯を膨らませているからだ。


「よ、余計なお世話だってんだ!何を隠そう男ウソップ!過去に島中の女を虜にしたという伝説を持つ…」

「あ、ナミさんロビンちゃん、おかわりいる?」

「私カシスオレンジ」

「私はキールで」

「了解〜っ!おいルフィ、てめェは食い過ぎなんだよ!」

「はふ?はっへぼ!はんひもへみ、ふべェんまほんよ!」

「ヨホホホ!違いありませんルフィさん!サンジさん!私もおかわりで!」

「通じあってんじゃねェよ!」

「……ってオイ!!おめェらおれの話を聞けェェッ!!」

「おー、聞いてる聞いてる。そりゃウイスキーピークの話だろ?」


既にいくつかの風穴を空けられた負傷の戦士が、無傷で酒をつくるコックを次の標的として選んだ。


「そういうおめェはどうなんだよ、サンジ!」

「あ?」

「恋多き男気取ってる割にゃ女の尻ばっか追いかけてるじゃねェか!実はおめェも未経験だったりするんじゃねェのか〜!?」

「あんたバカね。サンジくんから恋をとったら料理しか残らないでしょ?」

「んナミすわんっ!そうさ!おれは君にフォーリンラブ!!」

「どこにこんなスケカラシの男がいるのよ。こいつこそ女の敵よ」

「ぐは…ッ!!な、ナミしゃん…こう見えておれけっこう一途なんだけど…」

「それもそうだな。サンジはいつか女に刺される」

「ふん、アホくせェ」


今の今まで傍観していたゾロが、ぐびぐび酒を煽ってそうこぼした。

みんなの視線が、一斉に注がれる。剣一筋、女とは距離を置くそのスタンスが、かっこうの餌食となる。


「さてはマリモ、てめェチェリーボーイか?」

「あァ?」

「確かに、ゾロさんが女性と親しくしているところは見たことがありませんね。修行一本という感じで…あ、私目はないんですけどね」

「あの女海兵は?」

「どちらも生真面目だもの。立場上、あり得ないと思うけれど…」

「「「…………」」」

「……オイ、その目はなんだ…」


だって、考えてもごらんなさいよ?

世間では血も涙もない魔獣だと、まことしやかに囁かれているこの男がまさか、女のひとりも抱いたことがないなんて。


「ぶっ、ハハハハッ!!ゾロおめェ、その顔でか!?」

「あははっ!あんたその出で立ちで!?ちょ、おかしーっ!!」

「ううっ…おれにはわかるぜ!?それが男の道っでもんよ!ス〜パ〜!!」

「なんだか私、ますますゾロさんに一目置いてしまいそうです…目ないんですけど」

「ひーっ!てめェマジで刀が恋人とか言う気か!?横腹クソいてェ!!」

「あら、つまりこの船には既に妖精さんがひとり乗っていたというわけね」

「ちょ、ロビンっ!やめてっ!笑いすぎて腹筋痛くなるじゃない!アハハハハッ!」

「てめェらたたっ斬る!!!」


ボォォッとよじり不動のように火炎を背負うと、ゾロが刀に手をかけた。

怖い顔をすればするほど、面白くって仕方がない。


「てめェ、くそマリモ、冗談は腹巻きだけにしやがれ!その面で純情ってなんだよ!」

「誰が純情だ!誰が!!」

「あァ?だったら経験あんのかよ?相手はどこのレディだ?ほら、言ってみろ」

「てめェにゃ関係ねェことだ!!」

「くくっ、そうかいそうかいヘイヘイチェリーくん」

「ちょっとサンジくんっ、そ、そのへんにしてあげなさいよ、かわいそうじゃない、……ふふっ、アハハ」


至近距離で狙い撃ちにされたクルーは、まず間違いなく多大なダメージを受ける。

わかったでしょう?海賊は、なんだって戦いなの。

甘いことなんて言ってられない。

油断禁物。やられる前にやらないと、痛い目見るのよ。


「……さっきから偉そうな口叩いてるが、そういうてめェはどうなんだよ、………ナミ」


仕返し、とばかりにゾロが私に狙いを定めた。

だけど残念、こんなピンチは最初から想定済みよ。


「レディにそんなこと聞くなんてルール違反だわ?」

「そうだぞマリモ!ナミさんの貞操はおれが守る!!」

「……なんなのよ、それ」


チラリ、食べ物に夢中でこっちの話なんて聞いてやいない秘密の恋人を横目で確認した。

この男のこういう話題への無関心さには、助かっている。

淡白な性格が淋しくもあるけれど、船での生活は他のクルーも関わってくることだから、これくらいがちょうど良い。

チッ、と舌打ちして不服そうにそっぽを向いたゾロへ勝ち誇った笑みを浮かべる。

本日一番の重傷者はもしかして、この男かもしれない。


「船長は船長であぁだしなー……なぁゾロー、ここはおれ様とルフィとおめェでひとつ、妖精の会でもつくるか?おれ様がリーダーで!」

「アホかッ!開き直ってんじゃねェ!!」

「むぐっ?なんの話だー?」


ごくり、最後の一口を飲み込んで、ようやくルフィがこちら側に意識を向けた。

素知らぬ顔をして、サンジくんから飲み物を受け取る。

終息を告げた戦場で、これ以上怪我人なんて、出ないはずだった。

くだらない話でも、酒の肴にくらいはなった。

誰が何をぶち込もうとも、あとはもう飲んで騒いでの宴のはずだった……のに。


「てめェは色気より食い気だな」

「おれは野菜より肉が好きだぞ」

「食いもんの好みを聞いてんじゃねェよ」

「なんだ、食いもんの話じゃねェのか」

「女と寝たことはあんのかって話だ。まァ期待なんてしてねェが……あァおいフランキー、そこのアイスピックとってくれ」

「スーパー任せろ」


これ以上叩いてもルフィに埃なんて出ないと踏んだのか、サンジくんは見事に素通りしてくれた。

いっそ聞いていないふりをして、グラスの縁を噛む。

その瞬間、パチリ、ルフィと視線がつながった。

あんた、余計なこと言ったら殺すわよ?

睨みをきかせてそうテレパシーを送ると、どう受け取ったのか、ルフィは「にしっ!」と満面の笑みになった。



「あるぞ!女と寝たこと!」

「へェそうか…………あ?」

「昨日も寝たぞ?なぁナミ!」

「ちょ、……あんたね!!」

「なんだよ?昨日ロビンが見張りだったから、ヤッた後一緒に寝たじゃねェか」

「……っ!!バッ、」

「「「………………」」」



ほんの些細な油断が、命取り。


海賊は、いつも何かと戦っているものなのだから。



「あ、おれ、肉よりもナミが好きだなー!」

「……っ!!あッ、あんたもう黙って…!!」

「だってよ、ナミが一番うめェんだ!!」


慌てて口を塞いだところで、時既に遅し。


まさか最後の最後に、こんなに大きな砲弾が自分のところに飛んでくるなんて。



「……あら、大スクープね」



何も知らないトナカイの頭を撫でながら、サディストなお姉さまが微笑んだ。





流れ弾注意!






「はァァァ!?てめェが、な、ナミさんと……!!?」
「へェ、ちゃっかりヤることヤッてんじゃねェか」
「なんだよー、じゃあ妖精の会はおれとゾロだけってことか?」
「おうおう!男じゃねェかルフィ!」
「そうですか、ルフィさんとナミさんが…今日はおふたりを祝しての宴ということですね!サンジさん、お赤飯、炊いてください」
「祝すか!!炊かねェよ!!」
「んん?おまえらなんで騒いでんだ?」
「あんたのせいよ!!」
「さぁ、何から話してもらおうかしら?夜はまだまだ長いものね……ふふふ」
「ッ!!」
(いちばんの重傷者、私!!)



END

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