過去拍手御礼novels3

□まさかの告白
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まさか、ここでこの人に会おうとは。


突き当たりを曲がったところだったのよ。その男と鉢合わせたのは。


もしも遠くに見えていたならそうね、そっとその場を離れて見なかったことにするんでしょうけど。

なんせかわいらしい女の子に腕なんか組まれていて、とってもイイ雰囲気だったから。

でも、至近距離でバッチリ目が合って、無視なんてできないじゃない。一応顔見知りだし、ルフィがお世話になってるし。


あーあ、ついてない。私って間が悪い。

いかに他人行儀な挨拶をするか考えながら、笑顔をつくろうとしたときだった。


「おお、ここにいたのかよい」

「……は?え?」

「デートの途中だったもんな、ほら、行くぞい」


「いいところに来た!」という表情になったその男に、がしっと肩を掴まれた。

「ちょ、ちょっと…!」という声が、目の前の女の子と重なる。


「その女誰よ!?」と、私よりも先に疑問をぶつけた彼女を前に、男は私の肩を力強く引き寄せた。

そして髪の間から探りあてた耳元で、妖しく言ってのけたのだ。




「こいつはおれの女だよい」





ーー−




「ホント信じらんないわ」


がぶり、この店で一番人気だというパフェを頬張って、向かいの男を睨み付ける。

物騒なドクロのマークを胸にしたその男は、コーヒー片手に人の良い笑みを浮かべた。


「急に悪かったねい。機嫌なおせよい」

「逆ナンしてきた女の子を追い払うためにこの私を利用するなんて、良い度胸してるわよ」

「いやー、他のやつらに見られたら面倒だからねい。困ってたところ、たまたまおめェが通りかかってくれて助かったよい」

「去り際のあの子の顔見た?私のことすっごい睨んでたわよ!」

「そうだねい。あれは確かに恐ろしかった」


何がおかしいのか、苦情を訴える私とはまるで違った表情で、ははは。なんて呑気に笑っている。

……もうっ、なんなのよ。


「こうなったら私を女避けにつかったお詫びとして、それなりのものを奢ってもらわないと気がすまないわ」

「だから、奢ってやってんじゃねェかよい。うめェだろい?うちのコックのお墨付きの店だ」

「違うわよ。パフェだけじゃなくて、モノよモノ。高価なやつ」

「あァ、いいぞい。指輪のひとつくらい買ってやる」

「な、……」

「食い終わったら、そのへんの宝石屋にでも入ってみるかい?」


なによその余裕……


顔色ひとつ変えるどころかニコニコと返されてしまい、私の方が狼狽えた。

傷も飾り気もない長い指が、コーヒーカップを口元に運んでいる。



「ねぇ、あんたってさ……」

「なんだい?」

「実は女の敵?」

「……どこからその流れになったんだい?」


チャラチャラしていて手の早い男が多い海賊の世界で、誠実な印象が私の目を引いていた。

エースたち後輩にも慕われて、実力と信頼のある男。勇敢な上、頭もキレる。


あぁ、この男が恋に落ちる女性は、きっと誰も敵わぬような、とても素敵な人なんだわ。


そんなことをぼんやり考えていた。年の差と同じくらい、遠くの世界にその姿を見て。

でも、今私の目の前にいるのは、普段の凛々しい顔を解した気さくな男だ。


「だって、女慣れしてそうじゃない」

「良い歳して女の一人もまともに扱えねェ男よりマシだろい。おれはおめェの倍近く生きてんだぞい」

「そうだけどー、なんかイメージと違うのよねー…」

「へェ、おめェ、おれにどんなイメージもってたんだよい」

「そうねー、白髭海賊団のマルコ隊長っていったら強くて賢くて、エースと違って女になんて現抜かさない、お堅いイメージよ」

「こう見えておれは硬派だぞい」

「いやまぁ、あんなにかわいい女の子の誘いを断っちゃうくらいだから、そうとも言えるけど……」


別にこの男が硬派だろうが軟派だろうが、どうだってかまわない。

かまわない、と思っているにも関わらず、このひっかかり具合はなんだろう。

ぱくり、ぱくり、口の中に入れるたび、しゅわっと溶けていく生クリーム。

だって、そうよ、信義な男の口が、私のことをあんなふうに呼ぶなんて、想像もつかなかったから。



“こいつはおれの女だよい”




あの言葉に、たまらなくトキめいてしまった自分が憎い。



「勘違いされて困るような女とは、一緒に歩いてやれねェからよい」

「へぇ……そうなの。あんなにかわいい子でも勘違いされたくないなんて、やっぱり白髭の隊長さんともなると理想が高いのね」

「いくら見てくれがよかろうと、噂されたくねェ女とは、ふたりで茶もできねェな」

「へぇ、認められた女じゃないとお茶にも誘ってもらえないのね。やっぱりモテる男の言うことは、…………」


違うのね。そう皮肉ろうとして、パフェグラスに突っ込んだスプーンをぴたりと止めた。

向かいに座った男は、私を前に悠々とコーヒーを啜っている。

午後の日差しが降り注ぐカフェテラス。この状況を「お茶」と言わずしてなんと言うのだろう。



「おめェとなら、噂されてみてェもんだ」

「………………」

「いくら顔見知りでも、相手がおめェじゃなけりゃあ、あの場であんな真似しねェだろうよい」

「……ど、どういう、意味よ…」

「要は、一緒に過ごす口実が欲しかった」

「………………」

「それに、ずっと言ってみたかったんだよい」



こいつは、おれの女だって。



「…………うそ、何、言って…」


狐につままれたように放心した私の口元へ、そっと長い指が伸びてくる。

唇の横のクリームを優しく掬うと、男はそれを自分の舌でペロリと舐めとった。



「今日の、礼と言っちゃなんだが……」

「………………」

「この先おめェに近寄ってくる変な輩がいたら、今度はおれが、追い払ってやろうと思う……」

「………………」

「おれの女だ、手ェ出すな……とでも言ってな」

「っ!」

「どうだい?………おめェさえ、嫌じゃなけりゃあ…」



おれがずっと、守ってやりたい。



ぎゅっと握られた手から、急に全身が火に包まれたように熱くなっていく。

やはり彼は、根っからの硬派なのだろう。私はこの時初めて、自分を見つめる誠実な瞳に気がついた。


まさか、まさか、


だって、この男が恋に落ちるのは、私みたいな小娘じゃなくて、


どんな人も手の届かぬような、とんでもなく素敵なレディのはずなのに。




「おれは、一目見たときから、…………おめェの強くて気高い瞳に惚れてんだ」


「…!!」




まさかの告白





まさか、あなたも私を見てくれていたなんて。





END

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