過去拍手御礼novels3

□side-Zoro
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「コレクション」みたいなものかもしれない。

女は、モノを集めるのが好きだから。

あいつにないものをおれに求めて、おれにないものをあいつに求める。

どちらも手に入れなければきっと、満足なんてできないだろう。

わがままなあの女が、どちらか一方を選ぶ日など、永遠に訪れない。



「……オイ」

「……っ!」


青々とした蜜柑の葉の上を、鋭い風が跳ねていく。

ナミは、その中で静止画のように随分長く立ち尽くしていた。


「昨日はずいぶんお楽しみだったみてェだな」

「………………」

「あの野郎、やっぱりただの欲求不満だったんじゃねェか」

「………………」


何も言わない華奢な背中を抱き締めて、潰して壊してしまいたい。

そうしなければ、おれの存在など、そのうちに忘れ去られてしまうだろう。

そうなる前に、何かしらの布石を残してやるくらいの意地やプライドがないわけではなかったし、相手にぶつけなければ消化できない時もある。


「日に2人も相手すんのは大変だったろ」

「…………」

「それとも、2人じゃ満足できねェか?」

「……あんたっ、」


いきり立つ小さな拳を捕らえれば、振り向いたナミはうっすらと目の下を赤くしていた。

今さら何だと、思われても仕方がない。

おれは確かに、「おまえに男がいようと構わねェ」と言ったのだから。

そんなふうに白々しく嘯かなければ、近づくことすらできはしない。



「なんならおれが今から相手になるぜ?」

「…………ゃ、」

「コックと、どっちがいいか比べてみたらどうだ?」

「っ、触らないで…!!」


横に振り払われた手が、空を切った。昨夜、あの男に触り、触られたであろう身体を、おれには許さない。



この、女は。



おれの本当の気持ちを知ることは、ないだろう。



きっと、一生。





「黙れ……いつもみてェにおれの下でよがってみせろよ」

「っ、嫌っ、……もう、やめるの…あんたとは!」


そうして、コレクションのうちのひとつに逃げられそうになったなら。

当然のように、おれを切り捨てる。


「……っ、ふざけんな……!」

「やめてっ!誰かに見られる…!」

「あいつには情があって、おれにはねェってか!?」

「ゾっ、……んッ…!」


さわりと音を立てた葉の一枚が、足元にひらりと舞った。

立木に押し付けるようにして唇で言葉を塞ぐと、ナミはまるであの日のようにひどく抵抗した。

違うのは、この口づけからはもう、何も生まれないということだろうか。






「あー…取り込み中悪いな」

「……っ!?サンジくん……!!」

「フランキーが進路のことで呼んでるぜ?……ナミさん」


そう言いながらも、視線はおれに向けたまま、男は億劫そうにライターの蓋を開け閉めしている。


「そういうのは裏でやれ。昨日てめェでそう言ってただろう」

「………………」

「おれの目の黒いうちはな…」


あァ、やっぱり、こいつは気づいてやがったか。

どこか無感情な男の目を見て、そう確信した。

ナミはおれの胸を押しのけると前すら見ずに階段を駆け下りて、消えた。


ーー−


「ナミさんの、どこに惚れた?」


だらりと甲板に座ってそう言うと、やつはやっと煙草に火を近づけた。

2人分ほどスペースを空けて同じ方向に腰を落とす。相手の出方があまりに予想外で、答える気にもならない。

さっさとお得意の足やら侮蔑やらを投げてくれれば、こんな面倒なことを考えなくて済むというのに。


「………………」

「顔か?てめェはもっとおとなしめがタイプなのかと思ってたが」

「………………」

「あァ、そうか、やっぱりあのナイスバディか?てめェも女にムラッときたりすんだな、意外だぜ」

「………………」

「おれはなーー」


おれは、そう呟いて吐き出された煙が、風に乗って散る。

さっきから手のひらが汗ばんでいるのはきっと、この気候のせいだ。


「おれは、……彼女の、わがままなところが好きだぜ」

「…………は?」

「わがままで傲慢で高飛車で、あれも欲しい、これも欲しいってな、どうしようもなく欲張りなところが愛しいじゃねェか」

「……やっぱおまえ、変わってんな」

「昨日彼女に……カマをかけた」

「……なに?」

「てめェのことだよ」

「………………」


ギリッと歯の軋む音がしたが、互いに目を合わせることはないのでわからない。

わからない。いつだって、何度考えたってそうだろう。

この男が何を考えているのかも、ナミがどんな気持ちでいるのかも、そして、ナミを自分のものにする方法も。

おれにはずっと、答えを導き出すことができないのだ。


「おれはなゾロ、彼女から身を引いたわけじゃねェ」

「………」

「彼女に幻滅したわけでも、嫌気がさしたわけでもねェ。てめェとどうこうっていきさつも、今となっちゃどうでもいい……ただ、」


ただ、“他に好きな男がいてもいい”なんて綺麗事が、言えねェだけだ。


「何、言ってやがる……あいつは、てめェを手放したりしねェ…」

「てめェ藻、海の藻屑となれ。散り散りに散りやがれ」

「んだと!?」

「確かめもしねェであきらめるなら、それはそれで結構だ。おれにとっちゃ都合がいい」

「…………だが、あいつが選ぶのは…」


男は音も立てず、おれの言葉を遮るように立ち上がる。

髪に隠れて見えない表情から、何かを悟ることはできない。


「ナミさんはおれに深い情があるからな……そりゃあ傷つけたくねェと思ってる……それなのに、」

「………………」

「てめェを手放すことの方が、怖ェんだろ……」

「…………」

「出会ったときからそうだ。今も相変わらず、欲張りだ……」

「…………」

「欲張りで……愛しいよ」



そんなこと、どっちも叶えるなんて、無理なのに。


紫煙が風に散らされて消えるように、儚いものかもしれないけれど。

見苦しくも、おれはまだ、この甘い苦しみの夢から覚めたくないと思っているのだ。



Continued...

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