過去拍手御礼novels2
□7日目の崩壊
1ページ/1ページ
「もしかしてナミさん、あいつと喧嘩でもしたのかい?」
「………なによ、藪から棒に」
サンジくんってわかりやすい。
へらへらと期待した表情を浮かべているあたり、イエスの解答を心待ちにしているのだろう。
「だってさナミすわん、あの野郎いつも以上におれに突っかかってくるんだぜ?もう鬱陶しいのなんのって!あ、もしかして既に別れちまってるとか!?だとしたらナミさんのプリンスにはおれが…!」
「喧嘩なんてしてないわよ、残念だけど」
なぁんだそっか……とあからさまに肩を落とした彼は私にカラフルなドリンクを手渡すと、
芝生甲板で寝転がるゾロを仰ぎ見た。
「…… だとしたら、なんでマリモの野郎はあんなにささくれ立ってんだ?遅れて来た反抗期か?」
「……知りたい?」
「訳を知ってるのかい?」
私の悪い笑みに不可解そうに眉を寄せるサンジくんを手招きして、ブロンドから覗く耳にそっと口を寄せた。
「禁欲中なのよ、あいつ」
「きっ…………!!」
耳打ちしたその単語に大きな反応を示し、数度瞬きをして落ち着きを取り戻したサンジくんは、
ポツリ、「なるほどそれで……」と呟いたかと思うと次の瞬間にはお腹を抱えて笑い出した。
笑えないってのよ。
「あいつ本当底なしなんだから。それで自重させてるの」
「ははっ、いや、おかしくって…!ちなみに期間は?」
「10日間。今7日目よ」
「な、7日…!自分でするのもなし!?」
「当たり前じゃない」
「うわ!けっこう辛いぜ……けど、そんな鬼畜なナミさんも、好きだーー!!」
「はいはい」
「はっはーん、それでマリモのやつ、あの仏頂面に拍車がかかって…」
ひーひーと涙が出るほどはらわたを捩らせているサンジくんには、
きっと男ならではの我慢とか、辛さとかいうものがわかるのだろう。
人の不幸は蜜の味とよく言うが、「晩飯は精のつく料理でもつくってやるか……ぷぷっ」と心底楽しんでいる様子のサンジくんにとっては
ゾロの不幸はこれ以上ない美味しいおやつというとこだ。
少し不憫にも思えるが、仕方がない。
毎日毎日求められる私の身体は、あの性欲バカの体力にはついていけないのだから。
ーー−−
「…あ、お風呂?あんたで最後だから、流しといてー」
「…………おう」
やたらとへらへらしたサンジくんがつくった、やたらと肉食系の晩御飯をいただいた後、
お風呂に入って測量室のベンチで本を読んでいた。
いつもならゾロと甲板でお酒を飲んだり人目を盗んで情事に及んだりするのだが、
律儀なゾロは意図して私の傍に近づくことを避けているようだ。
それでもやはり狭い船内、はたと鉢合わせてしまうことはあるわけで、
浴室の通路になる測量室に顔を出したゾロは、私を見るなりまかり間違いでもしたかのように顔を強張らせた。
「…………どうしたの?」
「………………」
「……なに?なに突っ立ってんの?私に用事?」
「………………」
梯子に腕をかけたままこちらを見る思いつめたような視線を、鼻にもひっかけない軽さであしらった。
それが気に食わなかったのか、何も言わずにこちらに歩いてきたゾロはベンチの背もたれに手をついて突然私にキスをしてきた。
「……んっ、……ちょ、なんなの急に……」
「別に……キスはいいんだろ?」
「そ、そうだけど……んッ!」
わざと音を立てるように唇を吸い上げる。
撫で付けては離れ、なぞっては捩り込んでくる舌は、舌同士でキスをしているようでもある。
いつの間にか私の足を跨ぐようにしてベンチに膝をついていたゾロのキスによって
頭は硬い壁に密着し、身体には体重をかけられて身動きがとれなくなっていた。
「…………なァ…」
「っ、はぁ、……なんなのよ、重い……」
「どうにかしてくれ……」
「………………」
「出ちまいそうなんだよ……今にも…………」
私の身体を自分の身体で強くベンチに縫い付けたゾロの吐息が、
荒く、そして熱く、首筋に落ちてくる。
「そ、そんな気分になるならキスしなきゃいいでしょ!?」
「うるせェ!てめェ人の気も知らねェで!」
「わかるわけないじゃない!自制のきかない狼の気持ちなんて!」
「我慢の限界だっつってんだよ!一発…いや三発ヤらせろ!」
な……!!
なんて横暴……!!
「やっ!やめてよ!」
「む り だ ッ!あきらめておれに抱かれろ!」
完全に理性を断ったのか服の下を這う手の動きには早急に欲を満たしたいという強引さが感じ取れる。
加えて私の手を無理矢理自分の足の付け根にあてがって、
これ以上ないほどに硬くなったものを扱かせては「んっ」「はぁッ」と吐息を漏らす。
声をあげても身体を捩って抵抗しても、まるでお構い無しな独りよがりの行為。
しかし盛った剣士の理性を呼び戻すのなんて、簡単だ。
私のたった一言に、こいつは弱い。
「……あんた、約束のひとつも守れないの?」
「っ!!」
「あと3日我慢すればいいだけの話じゃない。それともなに?そんな簡単なこともできないわけ?」
「…〜ッ!!」
胸を鷲塚んでいた手はぴくりと神妙な動きを最後に停止して、
喉の奥で声にもならない唸りを漏らしながら、
ゾロはショートしたロボットさながら私の肩に力なく顔を伏せた。
「……そのままそこで反省しなさい?普段ところ構わずなあんたが悪いのよ」
「……うるせェ。もとはと言えばおまえのせいだぞ」
「はぁ?なんで私が悪いのよ」
もどかしげな動きで自分のモノを私の手ごとぎゅっと握ったゾロは、
さらに苛立たしく私の肩に歯を立てながら呟いた。
「おれの前で……コックなんかとなれ合ってんじゃねェよ……」
「………………」
「頭に血が上んだよ……おまえら見てると……」
「……ふーん、じゃあ……あんたの前じゃなかったらいいの?」
「っ、んなわけねェだろッ……!!!」
素肌に指が食い込むほど強い怒りと欲求が、再び私に向いた。
きつく身体を押さえこんで隅々まで支配しようと荒々しく手のひらが這い回る。
たまにこうして、いじめてみたくなる。
こいつが、あまりに呑気で、バカで、鈍感なくせに……
私のことを、今にも壊れそうなくらいに振り回すものだから。
同じように、今にも壊れるくらいに、
私を求めて狂えばいいって。
「……やめて。今犯すなら、もう一生、あんたとはしないわよ」
「……ッ、」
ギリギリと、ゾロの深爪が私の乳房と手の甲に突き刺さる。
喉に熱気を詰まらせて、懇願するように肩にまとわりつく牙の痛みに、
私はやっと満足する。
「……まっ、あと3日、せいぜいがんばってー」
「解禁したときおまえ、死んじまうぞ」
充足感にほくそ笑みながら軽やかに言ったはずなのに、間髪入れずに返ってきた言葉に今度は私が固まった。
「…………どういう意味よ」
「容赦できねェっつってんだ。……身体、壊れるぞ」
この期に及んでまだ、私を翻弄しようとする勝ち気な態度。
そうはさせない。
壊れるのは、あんたの方よ。
「……いやよ!冗談じゃないわ!」
「今ならまだ加減してやれるぜ?」
「約束破る気!?」
「おまえから求めさせてやる。そしたら約束なんて関係ねェだろ」
私の手首を握りしめていた大きな手を振り払ったところで、動きを止めた。
なんて言ったの、こいつ。
私から求めさせるですって……?
「な、なに言って……ぅあッ!」
「どうした?急にエロい声出して…もうその気になったか…?」
「バカっ!ちが……っ、んんっ…」
胸の先端と内腿に器用な動きで指先を滑らせて、途端に腰を浮かした私にゾロはゆっくりと目を細めた。
大きな口で耳から鎖骨に吸い付きながら、
さっきまでの余裕の無さが嘘のように、焦らして煽ってくる指は止まらない。
まって……
このままじゃ、マズイ……
押し返す腕にも力が入らなくなってきたころ、ゾロが慣れた手つきで私の下着をずり下ろし大きく足を開かせた。
「……すげェ濡れてるぜ……エロい身体……」
「やっ、見ないで…!!」
「見られて興奮してんだろ?ココがいいか…?それともナカか……?」
「やっ、はぁっ……やめてっ」
愛液を絡めるように指先で突起や入り口をくすぐられ、私の思考が飛びかける。
甘美な波が押し寄せて、全てを拐っていってしまいそうになる。
「腰揺らして急かしてんのか?いいぜ、素直に言えたら天国まで連れてってやるよ……」
「ちがうっ、……放して、触ん、ないでっ、」
「……何が欲しい……?言わなきゃ一生このままだぞ……」
「や、ゾロっ、やだ……待ってよ!」
「待って……?“待てない”の……間違いだろ?」
「…や、ちが……っ」
滲んだ涙を唇で拭うなんて普段は見せない優しい仕草が不覚にも、心地好い。
口づけも囁きも、スプーンを離れぬほど濃密な蜜の味がする。
「なァ……ナミ……」
「ふ、……っ、も、どいて…」
「おまえのかわいい声でねだってみろ……」
「………………」
「“挿れてください”って…………」
悔しい。
この7日間、
7日間をかけて、
焦らして、壊して、狂わせて……
欲望を剥き出しにするこの男を、
勝ち誇った目で、見下していたのに。
「いやっ……言わな、…い……」
「…………へェ、そうか、けどなァ……」
「な、……なによ……」
「おれはおまえが根を上げるまで、やめてやらねェぞ……」
「…っ!!……っ、やあッ!!」
全てを支配する甘く艶やかな挑発の瞳が、
私の身体と心に宿る、組み木の一片を取り去った。
「今だろうが3日後だろうが…………壊れるのは、“おまえ”だ」
7日目の崩壊
「もう限界だろうが、言えよ、ほら、」
「っ、や、言わないっ!」
「いい加減あきらめろ。楽にしてやっから」
「…〜ッ!やだ、やだぁ!」
「……じゃあもっとイイことしてやるよ。どこまで耐えきれるか、見物だな」
「っ!!!」
((もう限界……!!))
END