過去拍手御礼novels2

□小悪魔中毒
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「……………………」



なにをやってんだ。



「あ、エース!久しぶりね!」


「ナミー!サッチさんにも酒ついでくれェ!」


「こっちにも頼む!美人についでもらう酒は格別だからなァ!」


「あらやだ、ほめたって何も出ないわよ?」


「……………………」


こんな真っ昼間から、なにをやってんだ、こいつらは。



「なにって、ナミが来たんで歓迎してんだよい」


見りゃわかんだろい。そんな表情でおれを見たマルコに人差し指をピシャリと向けた。


「見りゃわかるわッ!!おれが聞いてんのはなんでおれ抜きでやってんだってことだ!!」


「……おめェが隊務でいなかったからだろい。……ごくろうさん」


だァァァッ!!ズルいじゃねェか!!

すっげェ楽しそうだし!!

…………じゃなくて!!


「ナミおまえ!自分の男を差し置いて何を堂々と他の男と酒飲んでんだよ!」


「はぁ?…………私がいつあんたの女になったのよ?」


ぬけぬけとそんなことを言って、ナミはフルーツカクテルに手を伸ばした。


「お、おお、エースおまえってば自意識過剰男か!」

「くははっ!ナミに恋するあまりとうとう頭おかしくなっちまったのかァ?」


ゴチンッ。

つむじに石がぶつかったような衝撃が駆け巡る。

オイオイオイオイ!

長年かけて口説き落としてこの前やっとおれのものになっただろ!

あの甘い夜を忘れたとは言わせねェぞ!!

おれは肩を怒らせナミに詰め寄った。



「……お、オイッ!この前しただろうが、おれと!そ、そ、そのっ、……ベッドイン!!」


「…………こんな真っ昼間からなにを口走ってんだよい」


ぱくり、あの柔らかい唇と舌でオレンジを味わいながら、

ナミはわなわなと憤慨するおれを鼻にも引っかけずに言った。


「だからなに?私エースの女になるなんて一言も言ってないけど?」


ドスッ。

直径5メートルはあろうかという大岩がのし掛かり、おれの身体はぺしゃんこに潰された。


えぇぇぇッ!!?

勘違い男かおれは!!?


放心するおれを見て若いクルーたちが「おれも遊ばれてェ〜!」などとほざいている。

“遊ばれた”言うな!!



「ねぇ、ところでサッチ隊長」

「おう!どうしたナミ!おれとも遊んじゃう!?」

「今うちの船お金がなくて……隊長さんの弟の船ってことで、少し援助してもらえないかしら?」


ナミは服の襟をつまみながらわざと中を見せるようにサッチに擦り寄った。

オイオイオイッ!!

サッチに向かって援助って言葉が怪しすぎんだよ!年の差考えろ!!


「うおっ…!いいぜいいぜ!サッチさん援助しちゃう!!おい4番隊!宝物庫からお宝見繕ってこいや!」

「あはっ!ありがとサッチ!」


ぎゅっと胸を押し当てられて、サッチはでろでろに鼻の下を伸ばした。

むくむくと、真っ赤な炎が身体を包む。


……もう我慢できねェ。




「…………おまえ、ちょっとこっち来い」


周りの男共を掻き分け引きずるようにナミの腕を引く。


「え?……きゃっ!なによいきなり…!」

「おいおいどこ行くんだよエース」

「ナミを置いてけー」

「おめェら構うな、痴話喧嘩だろい」


くそ……!

こっちは今さらなかったことになんてできねェぞ……!









「おれの女になるって言ってくれ」


「……は、はぁ?」


連れ込んだ自室で真っ直ぐ見つめると、ナミは大きく目を見開いた。

その反応に、もしかしておれの方が的外れなことを言っているのかと錯覚しそうになるが、

どう冷静に考えても、態度を改めるべきなのはナミの方だ。


「……だから、おれの女になって、他の男にあんな真似しねェって言ってくれ」


おれのものにしたら、男に媚びるようなあの危なっかしい色仕掛けも、

やめてくれると思ってた。

一度触れ合ってしまったら、独占したい気持ちはますます大きくなって…

今さら後になんて、引けるはずもない。


ところがナミは頷くどころかふいっと首を横にして呆れたように腕を組んだ。



「………一度寝たくらいで、束縛しようとしないで」


「……っ、」


頭にカッと血が集まって、気づいたときにはその身体をベッドに捩じ伏せていた。


「やっ、いたっ…」

「じゃあ何度寝ればおれの女になる!!?」

「ちょ、ちょっと、」

「一度でだめなら何度だ!?答えろナミっ!!!」

「そういう問題じゃ…」


大切にしてきたものが、一気に崩れる音がする。

プライドも、想いも、希望も、憧れも。



「おまえっ……誰にでも身体許すのか……!!」


か細い手首がギリギリと軋む。

鬼気迫る表情のおれを見上げ、ナミは変わらぬ調子で言った。


「それは……違うわ……」

「………………」

「エースだから、受け入れたのよ?」

「………………」

「エースだから、してもいいって思ったの……」



本当におまえは、

いけない女だよ。

そうやってまたおれを、

どん底から引っ張り上げて、

昂らせていくんだから…………



「じゃあもう……おれでいいじゃねェか……」

「悪いけど私、誰の女にもなるつもりはないの」

「……な、なんでっ、見てらんねェんだよ!おまえ、やたら男に取りつくから、危なくて……!あんなやり方続けてたら……」

「平気よ……男から逃げるのなんて簡単なんだから。……だから邪魔しないで」


おれが好きになった強気な瞳が、今は憎い。

だけど、どうしても引けなくて、おれはナミの手首を頭の上でひとつにまとめると強行手段に出た。


「……じゃあこうしようぜ」

「っ、なにす…」

「あんなやり方で男に近づいても、危なくねェって証拠を見せてくれ」

「………………」

「おれから逃げ切れたらおまえの勝ち、宴に戻って色仕掛けでもなんでもすりゃあいいさ。ただし逃げられなかったら……」


おれの女になって縛られろ。


そう口にするなりナミのシャツを一気にたくしあげた。


「……っ!やっ、エースっ、」

「ほら、どうした…簡単なんだろ?逃げねェのか?」

「ちょ、ちょっと、放して!!」

「そんな言葉が通用すると思ってんのか?」


冷たく見下ろし下着を首まで引き上げると、目眩がしそうなほど綺麗な胸が現れた。


「っ、やぁっ、エースっ!」

「…………は、ナミ、」


やべ、

嫌がってんのもそそる……

……って変態かおれは。


「おねがいやめてっ」

「襲ってる男にそんな目向けたって煽るだけだぞ……」


息切れして上下に動く胸に顔を埋めていく。

片方の先を舌でねっとりと、もう片方を指の腹で刺激するとナミは腰を揺らして感じ始めた。


「は、…あ、やぁっ、エース…」

「強姦魔に感じてんのかよ…淫乱が……」

「ち、ちが…う……」

「じゃあなんでこんなに勃ってんだ」

「……エースだからっ、」

「………………」

「エースにされて、きもち、よくて……」

「………………」

「あっ、……もっと、して…………エース」

「……っ、」


くそ……っ、

拒んだかと思えば、煽って…

これでもかっていうくらい男心をくすぐって、

おれを狂わせて、どうしたい……


「ん、……あっ、あぁっ、エース、エースっ、」

「はぁ……ナミ、…」


くらくらくらするような甘ったるい声に、勝ち負けよりも行為そのものに意識がそれていく。

手首を解放しても、ナミは自らおれの背中にすがりついてさらなる愛撫を要求した。


「あっ、エースっ、……キス、して……」


「…………あァ…」


誘われるがまま舌を絡めて情熱的な口づけを交わす。

ナミはおれの腰に足をまとわりつかせ、胸を撫でられる度に吐息を吐きながら下半身を擦り寄せてくる。

他の女では感じることのできない興奮に、脳が自分の熱で溶けていく。


「んんっ、……エース……」

「…はっ、……ナミ…」

「エースの、してあげる…」

「……っ!」


いやらしい手つきでおれの腰をまさぐると、ナミはチロリと赤い舌を見せた。

その挑発的な仕草に身震いしたおれを、縺れるように組み敷くと、

ナミはおれの首から胸、腹に舌を這わせてベルトに手をかけズボンと下着を一気に下ろした。


「すごい……ぴくぴくしてる……」

「っ、いいから、はやく……!」


刺激を待ちきれず焦れたおれを見て、ナミは妖艶に微笑んだ。


「私の舌だけ感じてて……エース……」


返事の代わりに大きく息を吐き、目を閉じる。

待ち望んだ快感が与えられると思うと、興奮が一気に高まっていく。


「………………」


「………………」


今か今かと張りつめる己、

しかしいつまで経ってもそこには変化がなくて、

加えて足の重みが退いたことに違和感を覚えて目を開けた。




「私の勝ちね」



「!!!?」



そこにはニンマリと口元を緩ませたナミが

扉を開けながらひらひらと手を振っていた。


「じゃ、先に甲板に行ってるわー」


「んな……っ!!!!」


「バイバーイ」


「おっ!オイッ!!待て……!!!」


引き止めようと慌ててベッドから転がり落ちるが、中途半端に下ろされた服が足を縺れさせる。

そうこうしているうちにナミはくすくすと笑いながら扉を閉めた。


や、


やられた……!!!


情けない格好のまま、頭を抱える。

担がれたことよりも、その気になっていたのがおれだけだったことにひどくショックを受けた。


いつもそう。

どこまでが本心で、どこからが嘘なのかわからない。

もしかしたら、おれに向ける何もかもが、ひとつ残らず嘘なのか……?




ーー−−



「ねぇマルコ、後で一緒に街に降りない?」


「……おれにたかるつもりだろい、おめェ」


「あら、連れて歩くのが私じゃ不満?」


「そんなわけねェだろい」まんざらでもなくそう言ったマルコに、ナミはニコリと笑って擦り寄った。


「おうエース!痴話喧嘩はすんだかァ?」


「……うるせェ、酒くせェ、リーゼント邪魔」


「くはッ!うざい奴の三拍子かそりゃ!!サッチさん傷ついた!!」


サッチに八つ当たりして、どかりと腰を下ろす。


もう、勝手にしろ。

どうせおれが止めたところで、結局こうなんだろ。

どうこうしたって、おれのことは遊びだったんだ。


魔性の女め。



「エース」


「…………なに」


愛嬌のある笑みを浮かべて隣にやってきたナミを冷たくあしらう。

来んな来んな、あっち行け。

おまえの手なんてわかってんだぞ。

機嫌取って、都合のいいときだけ使うんだろ。



「どうして私が、危険だってわかってて男に媚びうるか、教えてあげるわ」


「………………」


なんだよ、そんなににこにこして。

騙そうったってそうはいかねェぞ。

おれはもう、おまえなんかな、

おまえなんかな……



少し背筋を伸ばしておれの耳元に唇を寄せたナミは、

内緒話をするみたいに囁いた。





「エースが守ってくれるって、信じてるから」





あやふやな中にただひとつ、

本気とも嘘ともとれるそんな言葉におれの胸が鳴ることだけは、確かなこと。


突き落としては抱きしめて、弄んでは飴をしゃぶらせ、


惚れた弱味を利用して、悪魔みたいに洗脳する、


つくづくも、狡い女。


大人しく捕まえさせてはくれないくせに、その手のひらの上からは、


決しておれを解放しない。


信じてしまう自分も、希望を抱く心も、



愚かだと、解ってはいるのだが、



解っては、いるのだが…………






小悪魔中毒







おれはおまえをやめられない。






「……守ってやるに決まってんだろ?」
「ふふ、ありがとエース」
(くそ…!またおれはこの小悪魔に…!)

「なぁマルコよ、ナミがおれらに甘えんのってエースの前だけだよなー?」
「あァ、気を引きてェんだろい。健気でかわいいじゃねェかよい」
「くぅぅっ、羨ましいぜ!」





END

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