過去拍手御礼novels2

□発火
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せっかく浮上した意識は背中の温もりのきもちよさに、目を開けることなく沈んでしまいそうだった。


少しだけ速い自分の呼吸のリズムを彼に合わせると、

なんだかひとつになっているみたいでますます私の頭をぼんやりさせた。

散々愛し合ってひとつになっていた数時間前とはまた違う安らぎに包まれる。

口元だけを綻ばせ、抱きしめてくれている手にそっと自分の手を重ねる。

そんな私の微動に反応したのかお腹に置かれた大きな手がぴくりと動き、

次に首のすぐ後ろから鼻にかかった声がやってきた。


「……んー?……なみぃ……?」


「……エース……まだ、ねむい……」


もつれる舌で素直な気持ちを言葉にする。

もうちょっとゆっくりしてましょう。

頭の中だけで呟いて、声に出したつもりになる。

それが聞こえているのかいないのか、エースは逞しい身体をもぞりと動かして「ねみィ…」と呟いた。


「…………っ、んっ、」


そのときわずか力の入ったエースの指先が私の素肌を掠めたのがくすぐったくて思わず身を捩る。

するとぴたりと動きを止めたエースは、同じ場所にゆっくりと指先を這わせてきた。


「……ふっ、ふふ、ちょ、……エースっ、」


「………………」


刺激に慣れていない起き抜けの身体を、繊細に動き回る指先はまるで細い筆先のように翻弄する。

開かない瞳の横に皺をつくって覚束ない身体でシーツを擦らせながら抗おうとすると、

エースはますます指の動きを顕著にした。


「ちょっ、……あはっ、あははっ、エーっ、ス、やめてっ、」


くすぐったい……!


「………………」


脇腹でもぞもぞと動く手を払いのけようとしていると、

エースはその手の動きも止めず、私の身体の下にもう片方の腕を滑り込ませて、さらには足まで絡ませがっしりと自分の胸に固定した。


「や、やだっ、ちょっとまって…!きゃ、あははっ、ふふっ、」


「………………」


しまった、悪戯心か、それともS心か、この男の加虐的なポイントに火をつけてしまったと知ったときにはもう後の祭り。

身体の下に回った手まで腹や脇腹を這い出して、私は半ばパニックに陥った。


「やだっ、やぁ…!エースっ、あはははっ、も、だめだって…!くす、…くすぐったい!」


「………………」


沈みかけていた意識は身体の感覚と共に一気に浮かびあがって、

弱いポイントをひたすら不規則に動く指にわーきゃー言いながら、くすぐり地獄からの脱出を試みる。

直接素肌に送られてくる刺激というものは、この上なく強い。

身を捩っても叫んでも止むことのない指先に、息も絶え絶え抵抗する。

エースは私の肩に鼻先を押しあて、ひたすらにその鬼畜ぶりを発揮している。


「きゃははっ、まって、まってっ、エースっ!やめっ、…あはははっ、」


「………………」


「っ、も、…お、怒るわよ…!やだって、言って…きゃーっ!あははっ、」


「………………」


止めるどころかついには耳に息を吹き掛けながら、脇腹から上下左右に展開していく指に、

陽気な笑い声を漏らしながらも若干の怒りを覚える。

力が入りっぱなしの頬の筋肉は強ばって、腹筋も背筋も痛くなって、

呼吸と心臓は正常に動いてくれなくなって、目にはじわりと涙がにじむ。


苦しいんだってばホント……!


「やーっ!やめてっ、ほんと、おねが、…あはははっ、やだ、やだぁ…!」


「………………」


端から見ると裸の男女がじゃれあっているようにしか見えないし、エースもそうなのかもしれないが、

私からしてみたら生死にかかわる問題だ。

このままいくと呼吸が止まる。

笑い声と、やめてくれという懇願の声と、やめないと怒るわよという憤慨の声を上げながら、

エースの胸の中でひたすらもがき苦しんでいると、

ぴたりと脇腹の動きが止まった。


「はぁ、……はぁ、……も、エー……きゃっ!」


「………………」


安堵に胸を撫で下ろしたのもつかの間、

私を仰向けにするとその上にまたがって身動きを封じたエースは再び両手で脇腹をくすぐり始めた。


「やーーッ!!まって!!ホントっ、やめてぇ!死んじゃうっ!死んじゃうぅっ…!!」


「………………」


なにが彼をそうさせているのかはわからない。

とにかく何かが彼の心を刺激してしまったのだろう。

真っ裸なのを気にする余裕も恥じらう余裕もなく髪を振り乱す。

やめてやめて、むりむり、苦しい、

言えば言うほど、もがけばもがくほど、コチョコチョする指先は悪魔の爪みたいに私を侵す。

人でなし、獣、魔王、と半ば八つ当たりをしながらひーひーとお腹を捩らせていると、

そんな私をずっと上から見下ろしていたエースの髪の毛が、鎖骨に触れた。


「やっ…!あっ、ちょ、……エースっ、」


「………………」


鋭い感覚に思わず目を開けると、

エースが私の胸の先端を口に含んで舌で転がしている。

その上脇腹のくすぐりは止まることもなくて、

襲ってくるわけのわからない身体への挑発に、何もかもが取り乱された。


「んっ、ひゃっ…!エースっ!まって、まって、息、…できなっ、」


「………………」


「やぁっ、あっ…!はぁ、…おねがっ…!もっ、げんかい……っ!!」


すると、ぷつり、脇腹への刺激がおさまった。

今まで私を苦しめていたその手が、優しく胴を上下に撫でる。


「はぁ……はぁ、……っ、エース……」


「………………」


胸の先を舐めていたエースが顔を上げ、私を見つめる。

ゆっくりと近づいてきた唇はまだ息の整わない私の唇と重なった。


「んっ、……はぁ、ちょ、まって……」


「はぁ、…………ナミっ、」


「んぁ、……エース……」


腹から上がってきた両手が激しく上下する胸を撫で、湿った先をつまむ。

きつく唇に吸い付いて舌を絡めたエースはその舌で私の唇を舐めるとそこから離れずに息を吐いた。






「おまえ…………ほんっと、かわいいな……」


「………………」


「かわいくて……もう、たまんねっ……」


「っ、」


言い終わる前に唇を合わせて舌で中をかき回しながら私を見つめるエースと、目が合った。

細められた漆黒の瞳が翻弄される私を痛いくらいに射抜く。

胸に、首に、腹に、腰に、太股に、

縦横無尽に手を這わせながら、キスの合間にエースは呟く。



「…………帰したくねェ……」


「…………エースっ、」


「もう、ここにいろよ、ずっと…………」


「…………エース……」


「なァ…………もっかいしよう……?」



その言葉に、上気していた私の顔はさらに赤くなった。


「あっ、……あんなにしたのに……!?」


「足りねェよ」


「だ、だって、」


「ほら、集中しろ」


「っ、あぁっ、」



耳をぺろりと舌で撫でられさっきよりも上擦った声が出る。


くすぐりから解放されても身体を愛する指先はやっぱり甘く、くすぐったくて身悶えをおこした。




「……おまえさ、」


「……あっ、な、に、」


「何回おれを欲情させれば気がすむんだ?」


「っ!し、知らな…っ!」


「こんなことされんの……自分のせいだってわかってんのか?ほんとに……」


「……………え?」



惚けた顔で瞬きをする私に、エースは困ったような顔で笑った。







「おまえがおれを、燃やしてるんだ」







溶けない、ロウソク、








本能に、発火。










「ん〜、ナミー……」
「……ん、エース…?……って、やばっ!もう帰んなきゃ…!」
「だめ。もっかい」
「えぇぇぇっ!?」
(かわいいおまえが悪い)
(こ、この底なし…!)






END

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