過去拍手御礼novels2

□side-Nami
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視界の端に映ったストライプのシャツは、そうだ、私の恋人の愛用だ。


きっと疲労で薬飲んで寝てるってチョッパーから聞いて、わざわざ様子見に来てくれたんだわ。


靄のかかった頭でそう結論付けて、私を背にしてベッドに座る細身の身体に手を伸ばした。



「…………ん、サンジくん……」


「………………」



弱っているときって何故か人肌が恋しくなるじゃない?

こういうとき、無条件で甘えさせてくれる相手が欲しくなる。


手探りでシャツを引っ張った私に気づいて、彼が身体を反転させた。

持ち上がらない瞼を下ろして喉で甘えた声を出し、抱きしめてくれるよう催促する。



はやくはやく、


病み上がりの私はさみしがり屋なんだから。



「…………んっ、…ふっ、」


「………………」


いつもみたいにふわりと抱きしめてくれるのかと思っていたら、

ギシリとベッドが軋むと同時に突然唇に熱いキス。

戸惑いながらも満更ではなく首に手を回した私の中に、彼は舌を入れてきた。


サンジくん………

手、冷たぁ…………。

どうしちゃったんだろう、心配の言葉もかけずにいきなりキスなんて。

まぁ最近ふたりでゆっくりできなかったから、いろいろ溜まってるのかもしれないけど。

煙草の匂いもしないし。

煙草の、匂いも………






キスが、



違う…………





眠気を押し退けて咄嗟に瞼を上げると、

想像していたのとは違うグレーとブルーの混ざったような色の瞳が私を見つめていた。




「や……ッ!!!?」


「………………っ、」


突き飛ばされた私の足元で眉を寄せた男を凝視した。

ところ狭しと飾られた刺繍、鋭い目付きを強調する猟奇的な隈、


すごく見覚えがある……


けど、



「サンジくんじゃない………!」


「…………あ?」


「なんであんたがここにいるのよ!!?」


「……同盟船に出入りしてなにが悪い」


そうだった……。

昨日からこの船に泊まってるんだった、この男。


でも、だって、

それにしてもいろいろおかしい!!



「こ、ここ女部屋……!」


「……おまえんとこの船医に様子をみてくるよう頼まれた」


警戒心の強いうちの船医をいつの間に手懐けたのか、

心外だとばかりに細い眉を寄せた男に頭を抱えた。


「…………信じらんない……早く出てって……」


「……オイ、そっちから誘っといてそりゃねェだろ」


「誘ってない!!そもそもあんたがそんなシャツ着てるから……!」


「あァこれか?その、“サンジくん”とやらに借りた。少し小せェが……」


悠長に服の襟をつまんでみせる男に目眩を覚えた。

うかつだった。いくら服が同じで細身の体型が似てるからって、

濃厚なキスするまで気がつかないなんて……!


「……相手を確かめなかったことは、私も悪かったわ……だからお願い、さっさと出てって……」


「へェ……あんた、あいつの女だったのか」


ニヤニヤと口の端をつり上げて舐めるように見てくる男を睨む。

ルフィを助けてくれたり、意外と話のわかるやつだと思っていたから、

別に特別嫌っていたわけではなかったのに、やっぱり得体の知れない男だ。


「……そうよ、だから困るの。サンジくんが戻ってくる前にここから出てって」


「見るからに強気な女のくせに、自分の男には甘えん坊か……くくっ、」


「…!違うわよ!!さっきのは、たまたま……!」


「たまたま甘えたい気分だった……ってか?欲求不満ならおれが相手してやるよ……」


かっと頭に血がのぼる。

そもそも私、あのときサンジくんの名前を呼んだはずなのに、

それを無視してキスしたりして、どういうつもりよ!?


「あんたっ、やっぱり頭おかしい……チョッパーに伝えて、二度と他の医者を寄越さないでって!」


「あァ、生意気な口が聞けるくらい元気だったと伝えておく」


私の苛立ちなんて意に介さない愉しげな瞳のまま、男がベッドを鳴らして近づいてきた。

なにかがヤバいセンサーの反応に、一も二もなくベッドを飛び降りようと試みたが、

気づいたときには両手首を枕の横に拘束されていた。


「ちょ……!いっ、…………!!」


「叫ぶな。……斬り刻まれてェか」


「………………」


私の口を片手で塞いだ男が目配せしたベッドの脇には長い刀が置かれていた。

いくら普段大人しかろうが相手は政府も手を焼く狂気の男。

蛇に睨まれた蛙さながら大人しく頷いた私の口から、男はゆっくりと手を放した。


「さて……おれを煽った責任を取ってもらおうか……」


「ちょ、ちょっと待ってトラファルガーくん……さっきも言ったけど、私にはサンジくんが、」


「そんなのそっちの都合だろうが。おれには関係ねェ」


「は、はぁ!?私には関係あるの!ふざけてないで本当にどいて!!」


「断る。おれの船には女がいねェんだ……同盟相手のかわいい女と仲良くしてェと思うのは当然だろう……?」


羞恥を煽るように私の胸に視線を当てた男の目はギラリと光って、まるで知能を持った飢えた獣だ。

こんな狂気の男でなければふらりと惹き寄せられてしまいそうな妖しい笑みが、私の威勢の良さを消していく。


「だっ、だいたいあんたがサンジくんの服なんて着てるから、勘違いしちゃっただけで、なんで私が責任なんかっ、」


「コレが気に入らねェなら脱いでやるよ」


言うなりシャツのボタンを外し出した男に、私の背中には冷や汗が伝った。

解放された手で目の前の身体を思い切り押し退けるが、足で動きを封じられて逃げ出すこともできない。

もがく私を薄く笑いながら眺めていた男は、一番下までボタンを外し終わると首筋に顔を埋めるように覆いかぶさった。


「……っ、やっ…………んんっ!」


「うるせェ…強姦魔じゃねェんだ。叫ぶな」


「んっ、ん〜っ!」


「おとなしくしてりゃあ最高にきもちよくしてやるよ」


叫ぼうとした口に指を突っ込まれて涙目になる私の首に小さなキスをたくさん落として、

男は無理やり襲っているとは思えないほど優しい手つきで脇腹を撫でた。


「っ、んんっ、やめ……」


「……おまえ、もうあいつじゃ感じられねェんだろ?」


「……………な、に、」


「おまえのあいつを見る目、冷めきってるぜ?甘いだけの台詞にも、表面上の優しさにも、もううんざりなんだろ……」


「…………違うっ、やめてっ、」


「体裁のいい生温けェだけの愛情に浸ってるより、狂うくらいただ激しく、無心に求められてみてェ……違うか?」


「…………い、いやっ、放してっ、サンジくん……ッ!」


「あの男なら………今ごろ別の女抱いてるぜ?」


「え…………?」



耳を疑うような台詞に全ての動きを止めると、男は私の頬に唇を押し当てながら冷静な口調で言った。


「……街に……ナンパしに行くとはしゃいでいた……おまえの異変にも気づかずに」


「………………」


「………まァ、信じるかはおまえ次第だが……」


「………………」



いかにもあり得そうで苦笑したかったけど、口は笑ってくれなかった。

知らなかったわけじゃないけれど、今さらそれを確信したところで、

怒りも悲しみも、何も感じなかった。



「…………かわいそうな女……」


「……っ、うるさいっ、ほっといて……」


「さっさと捨てろ。そんな男……」


「………………」


「別にいいだろ。今おまえには……おれがいる……」


「………………」


黙りこんだ私の唇を撫でた男は服と下着をめくり上げ、濡れた指先で慣らすように胸の先端を愛撫した。



「おれなら満たしてやれる……あいつで埋まらねェおまえの、身体と、心…………」


「……ん、……あぁっ……!」




弱っているときって何故か人肌が恋しくなるじゃない?


こういうとき、無条件で甘えさせてくれる相手が欲しくなる。


たとえ同情でも、ただの遊びでも別にいい。


はやくはやく、


病み上がりの私はさみしがり屋なんだから。



いつだって、温もりが、恋しいの。


誰からも、気づかれることのなかった胸の穴。



誰か、埋めてよ、



私の隙間を。








デッドスペース










「トラファルガーくん……もう少しここにいて……?」
「くくっ、最初と言ってることが違うぞ」
「……あんたの、せいよ」
「……あァ、責任なら取ってやる」
(早く……あんな男やめて、おれにしろ)






Continued…

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