過去拍手御礼novels2

□7日目の忠誠
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「反省してるなら、ちゃんと態度で示しなさいよ」



もっともな台詞を投げられて、早7日。


おれは主人に叱られた飼い犬さながら眉を下げ、彼女の姿を盗み見る。


今日も見目麗しいマイハニーはやけに胸元の空いたキャミソールと、

股下5センチほどの極短ショートパンツを身にまとい、カウンターで優雅に新聞を読んでいる。


目の前で皿洗いをしながら「かまってオーラ」を出すおれには一瞥もくれず、だ。


「…………ナミさん……」


「んー?なぁにー?」


「目ェ疲れねェ?かっ、肩もみでもしましょうか?」


「……ううん、平気よ。ありがと」



…………ですよね。

見え見えですよね、おれの下心なんて。


カチャリとまた一枚水切りかごに皿が増えていく。


もとはと言えば7日前の島で、おれがナンパなんてしてたからいけねェんだけど。

いや、いつもならそれでもぐーのパンチか踵落としで済むはずが、

あのときおれの口が「ナミさんジェラシー?」なんて余計なこと言っちまったからいけねェんだ。

本当はマリモとふたりで出掛けてたナミさんに、おれの方がジェラシーだったのに。



「……ナミさん寒くねェ?上着着ねェと風邪ひいちまうよ?」



そんなこんなで「10日間禁欲」を強いられたおれは、

なんとも悩ましい目の前の白い肌から居心地悪く目を逸らした。


だいたいなァ、同じ船で生活してるっつーのに、大好きなナミさんに触れねェなんて酷すぎるぜ。

ところ構わず艶かしく動く剥き出しの肌を前にお預けなんて、年頃の男子にとって拷問以外のなにものでもねェ。

おまけに「もし約束破ったら今後一切私には触れないと思いなさい」という脅迫つき。

そんなことになっちまった日にゃ、どっかの魔の海域よりも暗い海を、おれはさ迷うことになる。


………………でも、


くそっ、触りてェ……!


ひとり悶々としながらゴシゴシッと油汚れに苛立ちをぶつけていたときだった。


「………………」


「……?ナミさん?紅茶のおかわりならおれが、……」


徐に新聞を置いて立ち上がったナミさんはキッチンを出ていくのかと思いきや、

シンクと向き合うおれのところまでスタスタと歩いてきて、背中にむぎゅっとくっついた。



「……上着取りに行くの面倒なのよ。サンジくんであったまってるわ」


なななっ……!

なにを……!!!


「だっ、だめです…!い、いやだめじゃねェ!!すげェいい!!すっげェいいけどッ…!!いや、でも、ちょ、まっ、」


「気にしないで皿洗い続けていいわよー」


軽やかに語尾を伸ばしたナミさんの手が、おれの腰をするすると前まで辿ってくる。

それだけで下腹部がズキズキして、スポンジを持つ手に力が入った。


「っ、な、ナミさん、上着ならおれの貸すからっ、」


「サンジくん手濡れてるじゃない。いいの。これで十分あったかいから」


いやいやいやいや…!!

こっちが熱くて困るんです!!


「いや、でもナミさん……やっぱ待ってくれ。おれの貸すから、て、手を……」


「手を……?なぁに?」


「っ、」


細い指先がエプロンの下にもぐり込んで足の付け根のきわどい部分を撫でたとき、ようやくおれは理解した。


わ、わざとやってらっしゃる……!!!


確かにおれはナミさんに触りたくてしょうがねェ。

けど禁欲を強いられている今、欲望を掻き立てられるのは非常に困る!!


「まっ、ストップ……!!それ以上はまずいですナミさん…!」


「なにがー?」


そろそろと足と下腹部の間を行き来する手に、思わず腰がぴくりと反応する。

おれはこんないたずらっ子なナミさんも大好きだ。

ドSな彼女にもセクシャルな魅力を感じる。

……ってそんな魅力感じてる場合じゃねェ!!

感じるな!!おれの身体!!


「だ、だからその、……我慢できなくなっちまうからさ……」


「なにを?」


「や、やだなァ、わかってるでしょ…?」


下半身から意識を遠ざけようとひきつった笑みのまま無理矢理手を動かしていると、

下腹部を撫でていた細い手がゆっくりと身体の中心に向かってきた。


「これのこと?」


「っ!!!」


ズボンの上からきゅっとそれを握られて、大袈裟に身体が揺れる。

ナミさんの手を伝うように、そこがドクドクと激しく脈を打っているのがわかる。


「………へぇ、もうこんなになってるの?」


「っ、待って、ナミさんマジでやめてくれ。……………ヤバいから」


きゅっきゅっと不規則に動くナミさんの手が、おれの身体中に熱をのぼらせる。

気を抜いたらすぐにでもイってしまいそうで、咄嗟に腹に力を入れた。


「ほんとに自分でもしてないみたいね。……なんかいつもの倍は敏感だわ」


倍どころじゃねェんだよ!!


「わ、わかったなら、放してくれるかい?そのまま握られてたら…………そのうち出ちまう…」


エプロンの下でもごもごしていた手が、ぴたりと止まった。


「……嘘でしょ?だって握ってるだけよ?」


「あのねナミさん……ずっと勃ってたら、何もしなくてもイっちまうんだよ」


ましてや最近は我慢しすぎているせいか何もないのに不意に反応したり、朝なんて起きたら出ちまってねェかって冷や汗もんなんだ。

「へぇー、そうなんだー」なんてのんびり呟いたナミさんは、あろうことか止めていた手を上下に動かし始めた。


「っ!!くっ、……ナミさんっ、だめだってば…!!」


「え?なに?」


惚けてる君もかわいいけど……!!

……って違ェ!!


「……て、手だよ手っ!一旦停止してください……!」


「なんで?」


「だからっ、出ちま……っ、ぁ、」


横の筋や根元まで器用に刺激され、身悶えする。

このときには既に皿洗い作業の手なんて止まっていて、

水音の止まないシンクに崩れるように腕を引っ掛ける。

このまま頭から冷たい水でも被ってしまおうか。


「……サンジくんだって自分で腰動かしてるじゃない」


「っ、だって、ナミさん、ずりィよ……こんなのっ、我慢できるわけ…」


「ふーん……ま、いいけど」


いくら人間が他の生物よりも知能が高いと言えど、所詮身体は獣だ。

ナミさんの手の動きに合わせて、おれの腰は刺激を催促するように揺れる。


…………やべェ。


…………すげェきもちいい。


止まんねェ。


…………出してェ。


出してェ、出してェ、出してェッ……




あ、



イきそ、………………








『もし約束破ったら今後一切私には触れないと思いなさい』








「っ!!!」


「わっ!?ちょっとサンジくん……!?」


ナミさんが後ろにいることも忘れて勢いよくその場にしゃがみこんだ。


シンク下の開き棚に頭を擦り付け、迫り来る射精感を必死にやりすごす。

歯を噛みしめすぎて、くわえていた煙草が真っ二つに噛みきれた。




「………………はァッ、……あっぶねッ、本気でイっちまうとこだった……」



泡だらけの腕でシンクの端をつかみ、細い煙を上げる煙草を靴の底で踏みつける。

背中を丸めたまま荒くなった呼吸を整えていると、

真後ろから涼しい声が聞こえてきた。


「ふーん、ちゃんと我慢できるのねー」


「な、ナミさんさ、おれのこといじめて楽しい……?」


「うん、すっごく」


「…………そ、そっか、それならいいんだ…」


おっと危ねェ……暴君ハバネロかと思っちまった。

そんな激辛な君も好きだけど。

いいんだ、いいんだよ。

ナミさんが楽しければ、おれはいいんだ。

ううっ、しくしく……


尻尾も耳もずーんと下げてしょんぼりした犬みたいに、おれは深く項垂れた。



「ま、でもその調子じゃあと3日なんてもたなそうね」


もしかしてあと3日も、こんな拷問が続くのだろうか。

いつからそんなにドSになったんだ、おれのプリンセスは。

もしかしてロビンちゃんにいろいろ仕込まれ……

い、いや考えるのはよそう。下半身に毒だ。

そんなことを考えていたら今度はナミさんがおれの背中に寄りかかり、

剥き出しのうなじに唇をあててきた。

やっとおさまった熱があっという間に最燃してくるのを感じながら、目を閉じる。


きもちいいか?きもちいいさ。

なんせ好きな子の唇だもんな。そりゃあ正常時でも反応しちまう。

いくら制裁とはいえ、ナミさんからこんなことしてくれるなんて、めったにないぜ?

このまま溺れちまえよ、楽になれる。






……………………でも、





「ごめん、ナミさん……………………やめてくれ」



強めに拒絶の意を示すと、ナミさんの動きがぴたりと止んだ。


「…………サンジくん?」


「おれ、………もうすげェ限界。ほんとは今すぐ出してェ……けど、」


「………………」




『もし約束破ったら今後一切私には触れないと思いなさい』




ゆっくり振り返ると、目を丸くした愛しい彼女がそこにいて、おれの頬は自然と緩んだ。




「君に二度と触れなくなるなんて…………死んでもごめんだ」


「……………………」



それくらいなら、死んでも耐えてみせる。あと3日。

そう決意して腰を上げようとすると、再び背中が温もりに包まれた。




「サンジくん…………かわいい」


「……なっ、ナミさん、かわいいって……」


「私が言ったこと、忠実に守ろうとしてるの?」


「…………………」



そうだよ。おれは君の忠犬……いや恋の奴隷だ。


逆らえるわけねェだろ。




本気で惚れてんだから。





「サンジくん……」


「…………はい、ナミさん…」


「…………あ、あのね、」


「……うん?どうしたの……?」


少し首を後ろに向けると、おれの背中に顔を埋めたナミさんの耳の先が、

赤く火照っているのが目に入った。




「私が………我慢できなくなっちゃったみたい……」


「………………へ?」


「……いっ、1週間もサンジくんに触ってもらえなくて…………」




さみしいの。




「……………ナミさ、」


「たっ、たまにはご主人様の言いつけ破ったって、いいんだからね……?」


「…………………」


「心の広い私が、それくらい……見逃してあげるわよ……」




…………だから早く、


私にキスしなさいよ。





君の言葉は、瞳は、仕草は全部、


ハバネロどころかまるで砂糖でできた蟻地獄のように、


逃れられない甘い誘惑。


潤んだ瞳でおれを見つめてくるご主人様が、


“私に逆らえ”と、言うのであれば……




「…………目を閉じてくださいますか、おれの、お姫様……………」







7日目の忠誠







どんな命令にも、従いましょう。






「ナミさん、キスだけでいいの!?他には他には!?」
「…………察しなさいよ」
「そっ、そっか!そうだね!……じゃあ、部屋行こ?ね?」
「………………」
(やべェ、こんな可愛いこと言われたら今度こそもたねェ!)
(ほんとに従順なんだから……まぁ、そこが好きなんだけど…)







END

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