過去拍手御礼novels2

□副作用
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知らないふりをしていたわけじゃない。

もともとが、互いの欲求を埋め合うだけの関係だったから。

おれに抱かれながらどこのどいつを想っていようが、関係ない。そう思っていた。

言うことを聞きさえすれば、あとはどこで何をしていようがいっこうに構わなかったし、

こっちだって、縛られるつもりは微塵もなかったのだから。



「オイ、しっかり歩きやがれ」


「ん〜っ、歩いてるわよ〜……」


部屋の扉を開けたところで面倒になって、ふらふらとよろける女を正面から抱き上げ邪魔な刀は床に捨てた。

細い手足を首と腰に絡ませるよう促して、空いた両手でハリのある尻を撫で回しながら下着をずらしていく。

ベッドに向かう間に交わし合う戯れのような口付けが、嫌味なほどにいかがわしい音を立てている。

雪崩れるようにスプリングを軋ませれば、これからなすべきことは、ただひとつ。


「…………エロいカオ」


「ふ、んー………」


「寝たらバラす」


酒で赤らんだその頬に艶やかな髪を絡み付かせ、まともな返事もできずにいる女。

好きにしてくれと言わんばかりの醜態を晒しているそいつの、投げ出された手首をぺろりと舐めた。


「……んっ、ふ……ぅぅんっ、」

「痛くされたくねェなら起きてろ」

「いつも、……やさしくなんてないくせに……あっ…!」

「生意気な口聞く暇があったらイイ声でも出して誘ってみやがれ」


風呂上がりに貸したシャツの上に舌を這わせ乳首を探り当てると、歯の先で甘噛みするように刺激する。

下着をつけていないそこが唾液で濡れてぷっくらと透けはじめると、ナミはようやく薄目を開けておれを見た。


「あっ、……んんっ、……」

「くくっ、……相変わらず具合のイイ身体だなァ」

「は、あァんっ…!ねっ、ローっ、」

「あ?……どうした…」

「はぁッ、あ、……意地悪、しないで…」

「だから、なんだ?言わなきゃわからねェよ」


布ごしに胸の先端を食みながら上目遣いで先を促すと、ナミは欲望に揺れる瞳のままおれの頭をかき抱いた。


「…………してっ、」

「……どこに?何を……?」


惚けたふりをして眉を上げると、ナミはおれに濡らされた先端をねだるような指使いで擦った。


「っ、……こ、ここ…あんたの舌で……直接、舐めてよ…」

「…………やらしい女…」


もう我慢できなくなったのか?そう言ってボタンに手をかけ一気に脱がせていく。


こいつの理性のタガを外すのは酒、

それを知って限界まで飲ませるのが、おれのやり方。

だって、いいだろう?

普段はつれない態度の跳ねっ返りが、電光の下に惜しげもなくその身を晒して、素直に欲を口にする。

世の男が頭の中で思いやって慰めているこいつの恥態は、いつだっておれの目の前に、手の中に。


……あァもっと、

貪るように快楽を求めて、狂えばいい。

ひたすら欲望にまみれて、狂えばいい。

熱に忠実に溶かされて、狂えばいい。


「あっ…!ふ、んんっ!あ、あぁッ、」

「へェ…そんなにイイか?こんなに勃たせて」

「あ、イイっ、もっと、……きもちよく、してっ?」


長い睫毛に守られた瞳が誘うように赤みを帯びた。

衝動的に下半身に重みをかけると、それに応えるようにナミの脚が腰に絡み付く。

互いの性器を服ごしに擦り合わせ、引き寄せられた胸に卑猥な音を立てて吸いつくと、

ナミは発情した猫のようにたまらない嬌声を上げた。


「はっ、まだ挿れてもねェのに腰揺らしてんじゃねェよ」

「あァァ、んっ、早く、……」

「急かすな。今みてやる……」


重みを増した脱げかけの下着を片手で引っ張り下ろし、腿の裏を掴んでまるで力の入っていない脚を大きく開かせる。

いちばん大事な部分が不埒な視線にかかってなお、ナミは貪欲に快感を求めている。

濡れた舌さえ滑るほど浸っているそこにしゃぶりつくと、おれの頭や肩に置かれたナミの指に力が入って、1分もしないうちに一度目の痙攣が訪れた。


「あぁっ、……あァァッ………!」

「……こんなにすぐイッちまうとは、欲求不満だったのか?」

「ん、……きもち、……いー…」

「寝るんじゃねェよ。こっちはまだ一滴も出しちゃいねェぞ」

「んー……」


じんわり汗をかいて気だるく横たわる裸体を見下ろしながら、服を脱ぎ捨てた。

おれは、紳士でもなければ偽善者でもないから、

酔いと眠気に負けそうな女にさえも、容赦はできない。


「はァ…………ナミ…」

「んっ、………あっ、んんっ、」


円を描くように両方の胸を撫でながら、半開きの唇の間に舌を差し込み、中をなぶる。

腰だけで入り口を探り当て液を絡めるように往き来すると、ナミが、おれの身体にぎゅっと強く抱きついた。

気をよくさせるそんな仕草に口元を持ち上げ、今にも入ってしまいそうな位置にじりりと捻り寄ると、

火照った耳元に、そっとやさしくキスを落とした。



「………………ナミ…」



…………合図の、つもりで。



「ん、………………




………………ゾロ…」



「……………………」



知らないふりをしていたわけじゃない。

もともとが、互いの欲求を埋め合うだけの関係だったから。

おれに抱かれながらどこのどいつを想っていようが、関係ない。そう思っていた。

言うことを聞きさえすれば、あとはどこで何をしていようがいっこうに構わなかったし、

こっちだって、縛られるつもりは微塵もなかったのだから…………




「……………ぁ、」


「………………………」


「…………ロー、ちがっ、…」


ろれつが回らないまでに酔っていたさっきの正体の無さはどこへやら。

ナミは自分の失言に気がついた途端、至極冷静に目を見開き、一気に顔を青くした。

真上から無言で眺めていたおれの口元が、ナイフの刃の形に歪んだのがよほど恐ろしかったのか、

その喉をごくりと鳴らして、反射的にこの腕から逃れようとした。


「…………………どこへ行く…」

「……っ、ごめんっ、帰る……!」

「なぜだ?これからがイイところだろう……?」


カタカタと震える手首を顔の横に貼り付けると、ナミは血の気の引いた顔でおれを見上げた。


「やっ、……やめてっ、許して…!」

「くくっ、何を怯えてる?……まだなにも言ってねェ」

「ち、違うのよっ、さっきのは…!」


…………身体だけの、満足感。


こいつには、それさえあれば他はいらない。

本物の恋人のように抱きしめて、キスをして、身体を愛してくれる相手がいればいい。


……………あの男の、代わりに。


「………おれの愛撫で、あの男に抱かれてる気分にはなれたか?…あァ?」

「……ろ、ローっ、怒らないで……」

「生意気な口は聞くなと、さっきも言ったはずだが……そんなに痛くされてェか…」


能力で刀を傍らに移動させると、ナミはいよいよ色を失って激しく抵抗しだした。

息切れして上下するふたつの胸、何も身につけず男のモノがあてがわれている下半身、

あまりにも無防備で、力でも、言葉でも、捩じ伏せることは簡単なのに、

壊れかけのオモチャで遊ぶ虚しい子供みたいに、何一つ、欲しいままになりはしない。


「は、放して…!お願い!悪気なんてないわよ…!」

「黙れ。ぬけぬけと他の男の名前なんざ呼びやがって……せっかくやさしくしてやろうと思ってたのになァ、今夜は」

「っ、べ、別に、あんたは私の男でもないんだから、私が誰の名前呼ぼうが自由でしょ!」

「片想いか…?」

「…………っ、」


開き直って逆ねじを食わせた挙げ句、核心をつくおれの一言で言葉に詰まったナミに、ニヤリと意地悪く笑ってみせた。


「好きな男想像しながら他の男でイくなんざ、自慰と一緒じゃねェか」

「……ーーッ!!」

「くくっ、……まァ、あいつに抱いてもらえるように、せいぜい頑張れよ」


皮膚を全身の血で真っ赤に染めて、ナミは瞳いっぱいに涙を浮かべた。

戦慄いて放心している唇に2、3度、事も無げに口づけを落とす。

いかにも勝ち誇ったような得意顔をして、してやったりと鼻高にせせら笑って……


「……あんたには、関係ない……っ」


4度目の口づけに顔を背けられたとき、腹の底は愉快と真逆の感情で埋め尽くされた。


「……あァ、おれはてめェの男でもねェからな。他所で誰とヤっていようが、誰に惚れていようが、知らねェよ」

「………だったらもういいでしょ……放して」

「だがな、肝に命じておけ…………」


身体の下に腕を回して捕らえると、油断していたそこに、自身を一気に押し込めた。


「っ!やぁぁッ……!」


「おれに抱かれた以上、おまえはもう、後戻りなんてできねェよ……!」


知らないふりをしていたわけじゃない。

おれに抱かれながら、他の誰かを想っていることなんて、最初から気づいていた。

負け惜しみなどではなく、欲求を満たせれば、別にそれでも構わなかった。

他所でのこいつが誰のものであろうとも、支障はないはずだった……


………………なのに。


「あぁぁっ、……だめっ、ロー…!」

「っ、ほざけ、てめェのカラダはもう、おれじゃねェと感じねェ…!」

「やっ、だめっ、あっ、あぁぁっ…!」

「くっ、…またイくか?他の男のことなんざ、考える暇もねェだろうがっ、あァ?!」


…………なのに、


身体以上の全てのものさえ、己のものにしたいだなんて。



あァおれは、


こいつが欲しい………




「もっ、……やぁッ…!ローっ、ロー…!」


「っ、なァ、忘れるな……」


「っ、んっ、だめっ、もうっ、」


「いずれ、その想いが、報われる日がきたところでっ、」


「……はっ、あ、あぁ……イ…く……!」


「その男の腕に抱かれながら、おまえが呼ぶのは…………おれの、名だ…っ!」


「っ、あぁぁっ…!ロー……ッ!!」




よく効く薬ほど、リスクが高いって知ってるか?


最も身体に効くものは、最も危険なものでもあるんだぜ?


このおれが、おまえにとって一番効果のある薬だと言うのなら、


このししむらの、芯の芯まで欲しがって、狂えばいい。



………………狂わせたい。




副作用





おまえはいずれ、おれを求めて止まなくなる。





END

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