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□神の手
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生かすも殺すも、この手のままに。
「神の手」
「…………それはいったい、どこで拾ってきたんです?」
自分の姿を見つけるのも自分の企みを見つけるのも、こいつがピカイチだということに異存はない。
観察力、洞察力、分析力、そしてそれらを駆使した推察力は船の中でも群を抜いて長けている。
おれの次に。
「どこだと思う……?」
今日も今日とてしっかり持ち場について見張りをしていたペンギンは、おれが今歩いてきた陸の方に視線を向けた。
考えてやがるのか。
馬鹿みたいに真面目な奴だな。
「少なくとも道端には落ちていないでしょうね……全身土まみれになっているところからすると、反対側の森ですか?」
「三角だな」
持ち前の賢明さで弾き出された答えに赤ペンをつけ、
武器磨きの最中に居眠りしている馬鹿みたいに不真面目なシャチを甲板から引きずり下ろした。
「……森の中のどこか、ということですか」
「あァ、崖下の木の枝に引っ掛かってやがった」
ふぎゃっ!という声の主の代わりに甲板へ降り立つと、ペンギンはため息を噛んだような渋い顔を見せる。
わざとその顔をおれに晒して「面倒ごとを持ち込むな」と発破をかけているわけだが、
クルーのそんな表情を見るのも嫌いではないということには、さすがのこいつも気づいていないのだろうか。
気づいていたとして、おれの悪戯心を煽るためにあえて見せている、あるいは面倒ごとを喜に転じているのであれば……
「なるほど、採集してきたというわけですか。傷を癒して飼うつもりですね?」
賭け事でイカサマをするやつみたいにニタリと浮かべた一瞬の笑みを、見逃さなかった。
「正解だ」
おれの採点に納得がいったのかペンギンはそれ以上何も言わずに海原へと視線を飛ばす。
悪人が、拾ったものを海軍に届ける……なんて善人ぶった行いをしようとも、
悪人は、悪人というだけで、善人ぶることも許されない。
そもそも海軍がこいつに懸けている金なんてたかだか知れてるだろうし、
首を取ろうが取るまいが、騒ぎ立てるのはあの破天荒な麦わらの男とその一味だ。
知ってたか、
一船の船長たるもの人を見る目がなくては怪物みたいなこの海を、渡ってなんていけやしない。
そこで滞りなくおれの意を尊重するペンギンも、
馬鹿みたいな身体の強さで船によじ登ってきたあそこのシャチも、
奴らが奴らでいられるのは、
この船の船長が、他でもないおれだから。
「価値なら全部、おれが見出だしてやる……」
生殺与奪の権を握るこの手で
おまえがおまえでいられる価値を……
汚れた手足、血の滲む額、絡まった長い髪、破れた衣服から覗く陶器のような柔肌、
全てがぼろぼろの、
まるで微動だにしない人形のようなそいつに命を吹き込むため、
手術室へと続く暗い通路に足音を響かせた。