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□鼓膜を揺らすその音色
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「……なぁマリモ、おまえ夏休みも部活で忙しいんだよな?」


「…は?…………まァ……」


「おし、だったらナミさんたちとの旅行メンバーからは外しておくぞー」


「!?ちょっとまて!!!」










「鼓膜を揺らすその音色」











なんだよその話、初耳だ。



「別に無理して来る必要はねェ。むしろ来んな」


「てめェあからさますぎだろ!!!」


返ってきたばかりの成績表やこれから始まる夏休みの話でガヤガヤと盛り上がる教室、

おれの隣で目を細めた金髪は、チッとひとつ舌打ちした。


「心配無用だ。ナミさんにはちゃんとおれがついててさしあげるんだからよ」


「アホか!逆に不安だ!!」


ナミと公認の仲になってからというもの、

こいつのおれに対する風当たりの強さはもはやハリケーンだ。

油断も隙もあったもんじゃねェ。



「ったくてめェいつまでも調子乗っておれのナミさんの彼氏面してんじゃねェよ」

「彼氏だよッ!!しかもてめェのじゃねェ!!」

「早く別れろ」

「別れるかッ!」

「あっ!ビビちゃんも誘っちゃおっかなァ〜!」

「てめェ話聞けッッ!!」


金髪から覗く片目をハートにして「ナミさんの水着〜!」などとほざいて浮かれているそいつを白い目で睨む。

付き合って3ヶ月以上は経つというのに、ナミがおれのものだということをまだ理解できていないアホ共が多すぎる。

最近のおれたちは恋人繋ぎも放課後デートもすっかり板について、

あんな宣言をしたからか、いつの間にか学校では有名なカップルになりつつあるというのに……。


「……現実を見やがれ、現実を。エロ眉毛」


「あァ?何言ってんだクソマリモ、おれの瞳にはナミさんしか映らねェんだよ、バーカ」


「……………………」


ナミが、周りの男にどんな目で見られてるかなんて考えたくもねェ。

男子高校生の興味をひくものなんて、かわいい女の裸か『one piece』の最新刊くらいだ。

かく言うおれも、ただの幼なじみだった頃からキスをするような関係になってまで、

気になるのはナミの白い足やブラウスを押し上げる胸や、年々女っぽさを増す身体だ。

もちろんそれだけとは言わない。

瞳、性格、声、仕草、全て含めて惹かれてる。


だけど最近は、もう……



「……オイ、なに仏教面に拍車かけてんだ。レディたちが怖がってんだろ」


「……うるせェ。ダーツ」


「さてはてめェ……欲求不満か?」


「っ、」


軽くむせて隣に目をやると、評判には相じぬエセ王子がこれでもかというくらい口元をニヤつかせていた。


「くっ……あははっ!焦んなマリモくん!ナミさんにも、選ぶ権利ってもんがある!」


「うるせェ!なにをだよッ!!ほっとけ!!」


くそ。あながち外れてねェ気がしてムカつく。

つーか絶対ェ一瞬ナミのそういうとこ想像しただろ。ムカつく。

なかなかキスから先に進ませてくれねェからってなんだ!!

いいんだよ!!あいつはもう、おれのものなんだから!!

この前の剣道の大会だってわざわざ応援にきてくれたり、

あいつの休みの日はおれが独占してんだよ。

今日だってこれから一緒に帰る予定だしな…!

彼女だぞ、彼女、おれの、

カ ノ ジ ョ !!!


……だけど、最近は、もう…………



「ま、せいぜい悩め、少年よ」


「死ね。エロ眉毛」


「ナミさんの水着姿を拝むまでは死ねねェよ」


「……………………」



最近はもう、こんな戯れ言にだっていちいちはらわたが煮えくりかえる。

見るな、そんな目で見んじゃねェ。

ナミとキスをする度に、ナミの寝顔を見る度に、ナミが擦り寄ってくる度に、

欲にまみれた感情でいっぱいになる自分のことを棚に上げて、

どんなやつだろうが男の目には触れさせたくねェ、

教師や、街中ですれ違う他人でも……

そう思ってしまう。


こんな支配欲求はおかしいのか?

まだおれに、ナミが自分のものだという自信がないから、

他のやつらを圧制したくなるのか?


だとしたら、ナミの全てを自分のものにすれば、


針のむしろにいるようなこのジレンマは、


なくなるのか……?
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