novels3

□鼓膜を揺らすその音色
2ページ/7ページ






「ナミすわんビビちゅわん、クッキー食べる〜?今朝焼いてきたんだ〜!」


「美味しそー…!ありがとサンジくん」


「いただきますね!サンジさん」


「あっ!ずりー!おれにもくれよサンジ!」


「おれにもくれ!そして席を交代しろ!そっちの方がナミに近ェ!」


「てめェら兄弟の分はねェよ!レディ限定だ!そしてナミさんのうなじを隙間からチラ見できるこの席は、死んでも譲らん!」


「……あんたね…」


「エースさん、私の席と交代しますか?ナミさんの隣だし…」


「ホントか!?いやー悪いな!」


「いいのよビビ、ほっときなさい?」


「そうだぜビビちゃん、あの野郎と代わるくらいならおれがビビちゃんを膝に乗せてナミさんの隣に…」


「サンジくん…?」


「じょ、冗談ですよナミさん」


いや、百歩譲って女子ふたりが並んで座るのはわかる。

だがおれを差し置いてナミの隣に座ろうとするか?普通…

……まァ、普通じゃねェから仕方ねェか。



「お!ウソップなんだそれ!?おもしろそーだなァ!」


「これか?これは『馬レースゲーム』だ!こうやって紙に描いた馬に割り箸をつけてだな、後ろのやつから順にじゃんけんして勝つ度に前に渡して、一番最初に前の席に到着した組みの勝…」


「おいおい馬がリアルすぎて子供の遊びに見えねェぞ、ウソップ」


「ってサンジ!注目ポイントそこかよ!」


「とにかくやろーぜー!」


「やめとけルフィ、4列しかねェんだ。てめェらの騒がしさにレディたちを巻き込むな」


…………てめェもたいがい騒がしいだろうが。


新幹線の窓に映る、のどかな風景にため息をもらす。

修学旅行のバスレクか。



「…………うるせェ連中だな」



肘かけに頬杖をついて小難しそうな本をパラパラめくっていた男が、初めて口を開いた。

こいつを見るのは二度目だが、いつ見ても、隈がすげェ。

どんだけ寝不足だ。


「…………つーかてめェはなんでここにいんだよ」


「ここしか空いてなかったからだ」


「席の話じゃねェッ!なんでこの旅行に無関係のてめェが紛れ込んでんだってことだよ!!」


窮屈そうに足を組みかえながら、こちらにはチラリとも視線をやらずに言った言葉は

まるでおれを小バカにしているようだった。


「ナミからの、お誘いだ」


はぁぁぁ!?

どういうことだ!!?


鬼の形相をして振り返ると、渦中の人物はカラフルなクッキーをかじりながら「なに?」という顔で首を傾げた。


「なに?……じゃねェよ!誘ったってどういうことだ!」


「……あぁ、ローのこと?最初にローから旅行に誘われたのよ。でも時期がこっちと重なってたから、どうせならローがこっちに合流すればいいんじゃないかと思って」


んな……!!?

旅行に誘われただと!?

そんな強者がいたとは……!!

未だ後ろでナミナミと騒いでいる連中がかわいく思える。


「おまえ……まだこんな男と連絡取り合ってたのかよ……」


「だってロー、お金持ちだし」


「………………」


あなどれねェ。

なにがって、本人とおれの前で平然と言ってのけるナミもだが、

そんなことを言われても平然と読書を続けているこの男もだ。


「ゾロも食べる?あんたはクッキーって柄じゃないからこっちね」


「………………食う」


深いため息と共にペタリと自分の席に居直ると、椅子の隙間からにゅっと腕が出てきた。

その手につままれていた好物のサラミに、ぱくりと食いつく。

手で取ると思っていたのか驚いて引っ込めようとした手首を掴み、

最後の一口と共に細い指を口にくわえて舌を這わせた。

離す瞬間、ちゅっという小さな音が立って、

おれの胸は熱くなった。



「っ、ちょ、ちょっと!な、なっ、なにしてんのよ!!」


「あ?……好物だったから、つい……な」


「っ!!!」


ドンッという衝撃が背中に走ってナミが椅子の背を蹴ったのだとわかった。

たぶん、今真っ赤なはずだ。

見なくても、わかる。



「…………あんたか」


「あ……?」


気づくと隣の席の男が初めて本から視線を剥がし、おれを見ていた。


「方向音痴で筋肉バカの“カレシ”とやらは、あんたのことか」


「……まて、そうだが……なんかいろいろ間違ってねェか?その情報…」


そんなことまで喋ってんのかよ、ナミのやつ…

つーか彼氏って情報だけでいいだろ。


「…………まァ、ナミをものにするのに男がいようがいまいが差し支えはない」



「おれは差し支えんだよ!!!」


こいつやっぱあなどれねェ!!


それ以上何も喋らず再び本に視線を置いたそいつにか、


それともらこれからの旅のことを思ってか、


急に痛くなってきた頭を抱えながら、のどかな外の風景に意識を戻した。



ーー−



ほどなくして目的地についたおれたちは荷物を旅館に預けて近くの海水浴場へと足を運んだ。


「青い海!白い砂浜!そして輝く水着の美女たち!!!」


などとお決まりの台詞を吐きながら眉毛の巻きの部分までハートにしたアホを横目に、Tシャツを脱ぐ。


「意外と人少ないわね……穴場じゃない」


「…………ナミ、それ塗ってやるからこっち来い」


どっかのエロ眉毛がビビの水着姿を誉めちぎっているうちにと呼ぶと、

ナミは「自分から使われるなんて珍しいこともあるのね」とうつ伏せに寝た。


細いのに、さわり心地のいい柔肌を食い入るように見つめる。

やべェ……

こんなの、絶対ェ他の男に触らせられねェ。


「……っ、くすぐったい!」


「………………」


背中の紐の下に指を入れて塗ると、きゃははと無邪気に肩を揺らしている。

……いつもこうだ。

何度か迫ったり、押し倒したことはあるが、

瞳に涙をためて「待って」と言われるか、自覚なく軽くかわされてしまうのがオチ。


隙だらけのくせに、おれ以外の男まで無意識に煽っていたりするのがまた、気にくわねェ。



おればっかりが盛ってて、余裕がねェみてェだ……
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ