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□シンデレラストーリー
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「ねぇ、あんたの誕生日っていつ?」



さりげなく聞いて、さりげなく事を進めようと思ってた。

この船に仲間入りしたときにはサンジくんの誕生日は終わってて、

なにかと慌ただしい中ウソップの誕生日はみんなでお祝いした。

それからビビとお別れして、ロビンが船に乗り、そういえばルフィの誕生日っていつなんだろうって。


早めに聞いて、早めにプレゼントとか考えて、準備しなくちゃ。

だってやっぱり喜ばせたいじゃない。好きな人を。



「なんだナミー?どうしたんだ急に?」


「いいからほら、いつなのよ?」


自分の腕をあぐらにして甲板に寝そべるルフィの頭の方にしゃがんで覗きこむと、

くりくりした瞳が不思議そうに私を見上げる。


あぁもう……かわいいな。


「んー、おれの誕生日は5月5日だぞ!」


「ふーん、5月5日なのね」


「おう!」



メモメモ……っと。

その覚えやすい日にちを頭の中にしっかりインプットして、そこから準備日数を計算する。

プレゼントを買うなら最低2〜3週間前の島で調達しておかないと、いつ島に着けるかわかんないからね。



よし、5月5日ね。



「……………………」


「……んん?どーしたナミ?すげー皺寄ってんぞ?」


「…………ごがつ、いつか………?」


「おう!おれの誕生日は5月5日だ!」


……………………。


赤まるをつけた頭の中のカレンダーの位置に、驚愕した。



「はあああああッッ!!!?」


「えぇぇぇっ!?なんだっ!?どうしたナミ!!?」


「ごっ、5月5日って…………!!!」




今日じゃない……!!!





ーー−




「ったくそうならそうと早く言いやがれくそゴム」


「だってよサンジぃー、知らなかったんだ、おれ」


「ルフィ自分の誕生日知らなかったのか?」


「違うのよチョッパー、こいつは“今日が何日か”を知らなかったのよ」


はぁ。とキッチンのテーブルに頬杖をつくと、

私と同じく呆れ顔のサンジくんが冷蔵庫からいつもより多めの食材を取りだした。


「こっちにだって準備ってもんがあんだ。前の島で食料調達できてたからよかったものの……てめェルフィ、たまたま誕生日を聞いてくれたナミさんに感謝しやがれ」


「おうっ!ありがとォーうっ!ナミ!」


突然舞い込んできた宴の口実に、ししっ。と歯を見せたルフィは両手を足の間についてご機嫌だ。

かわいいな、もう……

かわいくて、憎たらしい。


「そういやおれのときも祝ってもらったがよ、全員の誕生日知らねェよなァ」


誕生日の数日前に自己申告をしたウソップを、ぜひとも見習ってほしい。


「そう言われればそうだな……おし、この機会にコックのおれが責任もってクルーの誕生日を把握しておくか。まずナミさん!7月3日!」


「そうよ」


「ロビンちゃん!2月6日!」


「あら、言ったかしら?」


「以上!」


「「えぇぇぇッ!!??」」


不満げなウソップたちの声をスルーして「ロビンちゃんは終わっちまったけど、ナミさんの誕生日にはスペシャルなご馳走用意するからね〜!」

とハートを飛ばしたサンジくんが、恨めしい。

だって、コックさんなんてご馳走つくるってだけで「プレゼント」になるじゃない。


「恥ずかしながらサンジくーん!ここにもクルーがいますけどー!」


「うぜェ。野郎なんざ知るか。第一おまえの誕生日は祝ってやっただろうが、鼻」


「サンジっ、サンジぃ〜!おれ、おれ12月24日だぁ!」


「そうかチョッパー、その日は鹿鍋にでもするか」


「ぎゃああああッ!!」


「おれは酒があればいい」


「てめェの誕生日なんざ知りたくもねェ!藻!!」


「あァ!?」


「ふふ、今夜はいつも以上に賑やかになりそうね」


ぎゃあぎゃあ騒がしいキッチンで着々と宴の準備が進められていく様子を、

ルフィは待ちきれない面持ちでにこにこと眺めていた。



ーー−



「仕方がないわよ航海士さん、誰も知らなかったのだから」


確かにそうなんだけど、

ロビンにそう慰められても私の残念さは止まらなくて、

予定通り行われている宴を抜け出して、蜜柑の木に独り言を呟く。


「もう少し早く聞いておけばね……」


少し前まで大きな島に停泊していたというのに。

そう悔やんでも既にここは海の真ん中、

目ぼしいものを調達できるようなお店もなければ、ルフィが喜ぶようなアイデアも浮かばない。


甲板でサンジくんの料理を食べながらウソップたちと騒ぐルフィはとても楽しそうで、

きっとプレゼントのことなんてなんにも考えてないんだろうけど、

それでも私が自分で考えて、準備して、お祝いしてあげたかったな……。


来年こそは……いや、できればクリスマスにでも……!


そう意気込んでコップのお酒を一気に煽ったときだった。



「なにしてんだー?」


「ルフィ……!」


帽子に手を当てながらルフィが蜜柑畑にのぼってきて、

いまだ騒がしい宴の喧騒をバックに、私の頬は赤らんだ。


「なんかおまえ、元気ねェなー?腹でも痛ェのか?」


暗闇で黒目を大きくしたルフィが覗きこんできて、心臓がピリピリしだす。

だめだ。ルフィの誕生日なんだから、ちゃんと笑わなくちゃ。


「ううん、なんでもないの。……ちょっとね、あんたにプレゼント用意してあげられなかったなーって…」


来年は楽しみにしてて!


素直にそう言って微笑み返すと、ルフィはきょとんとした顔になった。


「なんだおまえ、そんなこと気にしてたのか?そんなのいいからよ!楽しくいこうぜ!」


あ……


どうしよう。


好きだな…………


にかッと笑って頭を撫でられて、またひとつルフィを好きになっていく。


「……うん、でも、何かしてあげたかったの。私が……」


もごもごと言って目を逸らすと、ルフィは思いついたように声を高くした。


「おし!じゃあナミの誕生日におれがプレゼントやるよ!だから元気だせ!」


「……な、なに、それ!元も子もない!」


自信満々な笑みにつられてくすくす笑うと、

ルフィはさらに目を細めた。


「ナミは何がほしいんだ?高ェもんはだめだぞ!」



いつでも変わらない明るさ、

真っ直ぐ前だけを見つめる眼差し、

誰とでも打ち解け合うことができる心の深さ、

傷ついても立ち上がり、全てを守ってくれる強さ……



私が、欲しいものは……




「勇気…………」


「ん?」


「あんたの勇気と……根性が、欲しいわ……」



伝える勇気が欲しい。


あんたの全部が大好きだって。


どうしようもなく、大好きなんだって。


胸の中に留めておくにはもったいないくらい、私は、あんたのことが……



「……………」


「…………なーんてねっ。本当は宝石でしょー、洋服でしょー、靴でしょー、あ、水着も欲しいわね!それから……」


もうっ、

余計なことはぽんぽん出てくるのに、

どうしていつも、肝心なときに大事な言葉が出てこないのよ。

私の意気地無し……!



「やるよ」


「え……?」


少し低い声が私に向かってきて顔を上げると、ルフィが真剣な瞳で私を見つめていた。


「やるよ…!今すぐ!おれの勇気!」


「へ……?」


そう言うなり大股で一歩後ろに下がったルフィは、すぅーーっと大きく息を吸い込んだ。





「ナミーーーッ!!!」


「…………!?」


突然大声で名前を呼ばれびっくりして固まる私を見つめ、

ルフィはにこりと笑ったまま再び大きく息を吸い、

一拍の間を置いて夜空が破けるほどの声で言った。







「好きだぞーーーッ!!!」




甲板がどよめいた。

目を見開いた私は口を半開きにさせた後、ようやく驚きの声を出した。



「はっ、………はぁぁぁッ!?」


「だいっ好きだーーッ!!!」


「ちょっ!ちょっと…!」


「すんげェ好きだぞーーッ!!!」


「ちょ、まっ……!」


「ちゅーーしてェ、……んぐッ!!?」



ボッと顔から熱を発したまま、とんでもないことを口にしかけたその口を塞ぐ。

ちょ、

ちょっとまって……!!


「まっ、ちょ、あん、あんたねっ…!!」


「なんだよー!ナミが欲しいって言うからやったんだろ!おれの勇気!」


「ゆ、……」


「あーーっ、キンチョーしたっ!」


しししっ。とイタズラを成功させた子供みたいに笑うルフィを見て、私の顔はいよいよ湯気を発し始めた。


「…うっ、うそっ!全然緊張感ないじゃない!」


「ホントだよ!すんげェ勇気出したぞおれは!」


「うそうそうそ!そんなっ、だって、すっ、……好き、とか……」


「ホントだぞ!!それもホントだッ…!!」



ホントにおまえが好きなんだ!ナミの笑った顔が大好きだ!!



「っ、」



甲板のざわめきと、波の音と、風の音と、自分の心臓の音と、


それから、麦わら帽子を揺らして笑うルフィが愛しくて、


じわり、目の奥が熱くなる。



「ルフィ………」


「おう!元気になったかナミっ!?」


あんたがくれた勇気をつかって、私、今から、


お返しするから。


ちゃんと、


受け取って。






「私っ、……私も……!世界中の誰よりも、ルフィが大好きよ……!!」




照れくさくてはにかむ私を、


ルフィは満面の笑みで大きく包み込んでくれた。





ねぇルフィ、


私、ルフィに着いてきたこと、後悔してない。


ルフィを信じて、よかったよ。


ついこの前まで、人生まっ暗闇だったのにね。


不思議よね。


これから先、たとえどんなに辛いことが待っていようと、


私たち、あんたがいればなんだって乗り越えていけそうよ。



いつか、必ず、


王は王でも、“海の王様”にしてあげる。


約束よ、キャプテン。



見渡す限りの、大きな青。


ここには、


仲間がいて、


笑顔があって、


温かくって、


夢がある。



この船に乗ってから、私ずっと、


宝石みたいにキラキラした未来しか、想像できないの。



ここには、豪華な装飾品も、高級食材も、財宝も、ドレスも、ないけどさ、


それでもいいの。


力強いその手が、もっともっと素敵な場所へ、


きっと私を連れていってくれるから。



毎日が、空腹と、危険と、恐怖と、痛みと隣り合わせの、



“海賊”のはずなのに、




もしかして、


私って、




世界一幸せなお姫様?






シンデレラストーリー






とびきりの冒険へと、導く背中。





「だァァァ!あの野郎抜け駆けしやがって!!」
「誕生日だしなァ……今夜は死ぬほど飲ませて潰すか。ルフィのやつ」
「……おっと、気が合うじゃねェかマリモのくせに」
「おおおいっ!顔が怖ェよ!」
「へェー!誕生日ってああやって叫ぶものなんだなっ!」
「ふふ、誕生日なんですもの。船長さんに彼女とふたりきりの時間をプレゼントしてあげましょう?」








Happybirthday,Luffy♪
Your smile is our happiness!

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