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□シャドウ
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目覚めて最初に見たものは、派手な装飾が施された重厚な造りの扉だった。
しかし広く囲まれた空間の中ソファで足を組む男が目に入り、
ここが扉の外側ではないということがわかる。
「……やっとお目覚めかい?気分はどうだ?あるいは夢から覚めねェ方がよかったかな?フフッ……」
「………………」
重い身体を起こせば自分は柔らかいベッドの上にいて、だだっ広い部屋の中には私とその男のふたりだけ。
記憶が飛ぶ前と同じ愉しそうな表情で私を眺める男は薄褐色の酒を片手に全身をソファに預けている。
「ここか?ここはおれの別荘だ……ようこそ、歓迎しよう。泥棒猫、ナミ……」
「…………招いてもらって悪いんだけど、門限に遅れる前に帰らなくちゃいけないの」
「面倒な船だ。ここならそんなもんに縛られることもねェ。仲間も、危険な旅も……何一つ不自由はさせねェ。…………ここにいろ、ナミ……」
「気安く名前呼ばないで」
「おー怖ェ。……だが、つれねェ女も強気な女も好きだぜおれは……従順にしてみたくなる……」
崩れることのない笑みに眉を寄せ、この危機的な状況で冷静に頭を動かす。
私がこれまで同じような連中に何度拐われてきたと思ってるの。
まったく、かわいいって罪よね。
自嘲するように苦笑いを浮かべながら、そっとベッドから立ち上がる。
どういうつもりなのか、身体は自由だ。
「………枷もつけられてないってことは、帰ってもいいってことよね?」
「やってみるといい。何事も、挑戦は大事だぜ……フフッ」
窓の外は地面よりも木の枝が近く見える。
少なくとも一階ではない。
となれば出口はひとつ……
私は男の脇のテーブルまで一気に駆けて、無造作に置かれていたクリマタクトを手に取りすぐさま扉に向かった。
ガチャリ。
嘘でしょ……鍵が開いてる…………
予想外の扉の軽さに一瞬戸惑いはしたものの、前に進むしかないと踏んだ私は一気に扉を開けようと腕に力を込めた。そのとき、
「……っ!?……やぁッ!!」
「残念だ、もう少しだったのになァ……」
後ろから巻き付いた腕がずるずると私の身体を部屋の中へ引きずり戻していく。
一瞬見えた逃げ道はすぐに閉ざされた。
「放してッ!触んないで!!」
「フッフッフッ、あきらめきれねェならまたやってみるといい。ほら、放してやる……」
「……っ、」
ふわり、拘束していた腕は呆気なく離れ、その勢いで前のめりになりながらももつれる足を前へ進める。
ところが再び手を伸ばした扉の前にふわりと男が舞い現れた。
「そう簡単にはいかねェがなァ……」
「……!ちょ…!やだ……!!」
今度は抱きしめるように正面から身体を拘束され、またずるずると部屋の中心に追いやられる。
オモチャで遊ぶように私の身体を扱いながら、その顔はご機嫌に笑っている。
「いいねェ…!まるで仔猫と戯れてるようだぜ!もっとおれと遊ぼうか、なァ……ナミ……」
「……っ、ふざけんじゃ、ないわよ…!放して……!!」
「あァ、放してやろう、おまえの望み通り……ほら、行きたきゃ行け……」
再び男の両手が大きく開かれて、私の身体は自由になった。
おちょくられていることに腹立ちながらも、必死に足を扉に向ける。
今度こそ、ノブに手が触れようとしたとき、私の身体は意に反して固まった。
「…………あんた、なに、したの……」
「………………なにも……?」
ゆったりとソファに戻って足を組んだ男の方を、私の身体が勝手に向く。
すぐそこに扉があるのに一歩一歩、足が部屋の中に戻っていく。
「……っ、能力者……」
「珍しくもねェだろう?おまえの船にもいるはずだ……たとえばそう、あのゴムの小僧……」
「………………」
「どうした?もう挑戦はすんだのか?それならおれと楽しいことをしようじゃねェか…………仔猫チャン……」
男の目の前で立ち止まった足を動かそうとするが、固定されているみたいにびくともしない。
この男はさほどバカではなさそうだし、なんせ七武海のひとりだ。
いつもより、少しだけヤバいかも……
「……なに、する気よ……私に指一本でも触れてみなさいよ……あんたのその顔ボッコボコになるわよ」
「問題ねェさ。おまえは今に自らおれを誘ってくる……たとえばそう、服を脱いで肌を晒してみてェと身体が勝手に動くはずだぜ」
「なっ、なにふざけたこと…………」
男の人差し指が持ち上がると同時に、私は自らの服に手をかけていた。