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□ふたつめの役職は
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彼女の前ではいつも紳士でいたかった。



だけどその甘い誘惑の前ではそんな皮なんてすぐに剥がされて


俺はひとりの男に成り下がる。







「ふたつめの役職は」







「ごめん…ナミさん……」


「…ん…サンジ…くんっ」





扉ひとつ隔てた芝生甲板では酔いつぶれ、騒ぎ疲れて眠る野郎共。



熱気の立ち込める薄暗いこの部屋で

俺は目の前の熱い身体を夢中で抱いた。








sideサンジ--------




宴会好きなこの船のコックである俺は

昼過ぎからフル稼働で料理を仕込んだ。

ただでさえ食べ盛りな野郎共の胃袋、
さらに戦闘後の宴は豪快だ。



エニエス・ロビーでの死闘を経て
仲間奪還と仲間帰還、それから新しい船大工の歓迎を祝したそれで

ひとり、またひとりと倒れるように眠っていくクルーたち。


騒ぎの中心のお子様たちが潰れ、
ロビンちゃんは部屋で休むと言って戻り、
フランキーとブルックも雑魚寝を始め、見張りのゾロがトレーニングルームに消えた後


酒の強いナミさんと
給仕のためにほとんど飲んでいなかった俺だけが

いくつか転がる野郎の間で酒を酌み交わしていた。






「でも、サンジくんが上から落っこちてきたときは本当にびっくりしたわ。一瞬誰かわからなかったもの」


体操座りの膝の上に乗せた右手でグラスを転がしながら言う。


「あぁ、あの能力は予想外だったぜ。ナミさんにはかっこ悪ぃとこ見せちまったな」


残りのつまみをひとつの皿にまとめて彼女の目の前に置いた。


「全く女に甘いんだから…」


「心配してくれたの?嬉しーなー!」


「バカ!呆れてんのよ」


いつもの調子でする会話も
夜中に起きているのが二人だということで嫌でも意識してしまう。


ちょっとはあの秘書に嫉妬してくれてんのかな?とか

なんだかんだで俺の体を気にかけてくれるんだよなとか

プラスにプラスに考えてしまい、頬が緩む。


まぁ特別な間柄でない以上、それは仲間の俺に向けられた感情だってことくらいわかってんだけど…

だけどその

つんとして酒を煽る表情とか

短パンから覗く長い足とか

夜風が揺らすさらさらの髪の毛とか


直視してしまったら
その可愛い全部をひとつ残らず俺のもんにしちまいたくなるから



ナミさんと二人きりになったときは

料理を取り分け酒を注ぎ、へらへら笑って自分の特別なこの感情を誤魔化すことに徹する。


感情通りに動いてしまったら何をするかわからねぇ。


情けねぇけど、彼女の前ではいつでも紳士な俺でいたかった。
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