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□甘い痺れにご注意を
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「そんなに深刻なの?」


「あぁ…って、え!?」



今まさに頭の中で想っていた人が

船の縁に背中を預けて俺の隣でおもむろに聞いてきた。



「なによ?そんなに驚いた顔して。
…明日には次の島に着くから、食料調達ならそこでできるわよ」


「え?…食料?」


「参った…って、備蓄の心配してたんじゃないの?」


あれ、声に出てたのか…。


「あぁ…そうそう。
最近魚も釣れねぇから困ってて。でも明日買い出しできるなら問題ねぇか」


海に向けていた体をナミさんと同じように甲板に向けると

ルフィとチョッパーがブランコで遊んでいて

喧騒にも関わらずマリモは相変わらず熟睡している。



「そう、じゃあ明日は買い出しよろしくねーコックさん」


「…ナミさん」


そのままひらひらとふられた手を掴んで引きとめた。


また、ピリって。




「なに?」


「今日…ロビンちゃんが見張りだろ?
夜、部屋に行ってもいいかな?」


ほんの少しだけ眉をひそめて何でもないように聞き返された。



「なにか用事?」


「用事っていうか…一緒にいたいなぁって。だめ?」


「だめ」



即答ですか…


強気な声のまま俺の手をすり抜けた後ろ姿の彼女は言う。



「そんなの理由にならないわ」



なんでだよ?

だって俺ら、そういう仲じゃねぇの…?




「…じゃあ、何か美味しい夜食持っていくよ。それならいい?」



見張りは9人で回すから、今日を逃せば9日後。

このチャンスをどうしても逃したくなかった。



「…それならいいけど」


「よかった。じゃあ夜ね」


心の中でガッツポーズをして蜜柑畑にのぼっていくナミさんを見送った。




あの夜から

ナミさんと両想いになれたのだと浮かれていた俺は

幾度となく二人きりになれるチャンスを狙っている。

だけどナミさんはそんな俺にはお構い無しで

今の調子でするりと俺のもとから離れていく。



まるであの日のことなんてキレイさっぱり忘れてるみたいに

甘い雰囲気もなければ恋人同士の馴れ合いもなく

今までの関係となんら変わりない日々だ。



ただひとつ変わったのは、

今以上の進展を望むのに、ナミさんの気持ちが解らず焦っている俺のこの心。



もちろんその場のノリや出来心ではなく

真剣に好きだからそういうことをしたんだって

真面目に訴えているにも関わらず

流されたり笑って誤魔化される。



しかしナミさんのあの時の表情…


あれは恋する乙女の顔だったと思うんだよな…確実に。


自惚れとか言われても仕方ねぇけど、

振られてもいねぇこんな状態じゃ
なんとも期待しちまって仕方ねぇ。



何より一瞬でも手に入れてしまった彼女を手放すことなんて

絶対にできない。



俺にとってはもう何もかも手遅れなんだ…。
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