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□羽なんかいらない
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いつでも手の届くところに居てくれ。



勝手に飛んでいったりするな。




自由が欲しいのなら、



お前の望む先に



俺が連れて行ってやる。








「羽なんかいらない」









ゾロは心に決めていた。



今度会ったら絶対に放してやるもんか。

どんな敵に襲われたって必ず守り抜いてみせる。


引き離されたって何度でも追いかける。

会えなかった時間の分、お前の存在を一番近くで感じていたい…。





だからこの2年、ナミが空島で過ごしていたことを知り、少しだけ不安になったのだ。







「ねぇ…あんたも楽しみ?人魚の楽園」




出航して間もなく、安定した大きな海流に乗ったサニー号の上で

遠くなっていく上空を腕組みをして眺めるゾロにナミは問うた。


「まぁ…深海一万メートルがどんなところか…興味はある」

どうしてそんなことを聞くのだろう。

離れ離れだった恋人同士の久しぶりの再会にしては味気ない。

だからと言って、涙を流して欲しいとか、手を取り合って喜びを分かち合いたいとか

そんな気恥ずかしいことは望んでいない。


だけどあまりにも自然に、互いに今日という日を待ち望んでいたことがまるで嘘のように

すんなり溶け込む彼女との言葉のやり取りに、ゾロは不思議な感覚を覚えた。



「ケイミーたちに、会えるといいわね」


甲板の縁に両手を添えて
船の真横を泳いでいく白い小魚たちを追うその瞳は

自分が知っている昔のそれより少しばかり色味を増して
海底の揺れる光を反射する。


伸ばした髪が艶めくように綺麗なことも

わずかに色素の抜けた肌も

さらけ出された身体の滑るような線も


こうやって側で話をするまで目の当たりすることのなかったその形が

彼女が一段と大人の女性に近付いていることを実感させるばかりで


その魅力を引き出した2年間は、ナミにとってどのようなものだったのかと

彼女が飛ばされたという空島に想いを馳せた。



後ろ姿のナミにおもむろに近付いたゾロは

懐かしい恋人の香りに胸を締め付けられる。

伸ばした指で長い髪を上から下に鋤いて
妙にオープンで華奢な肩甲骨が見えるようにその束を両肩に分けた。



「…?」


すぐ船の真ん中ではそれぞれの土産話に花を咲かせるクルーたち。

ゾロが人前で明確な意思を持って自分に触れることは珍しい。

ナミの胸は期待に膨らみ

今すぐにでもその腕に抱き締められたい、
ゾロの匂いや感触や温もりを全身で感じたいという衝動にかられたが


幸か不幸かそんな思考は
真面目な顔とは不釣り合いな突拍子もない彼の台詞に急ブレーキをかけた。






「無ぇ……」




「へ…?何が?」






「羽……」
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