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□鉄の掟
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彼女には手を出さない。



鉄の掟だったその暗黙を




あいつは破った。









「鉄の掟」








sideサンジ---------




最初におかしいと思ったのはグランドラインに入る前だった。



俺が麦わらの一味に加わって理解したことはひとつ、


ナミさんに手を出してはいけない。


それは彼女以外、野郎しかいないこの船で絶対の規律のようなもの。


狭い船の上、魅力的な彼女を欲しいと思う心は誰しも少なからず持っていたはずだが



例えば二人きりの空間をなるべく避けるとか

必要以上に馴れ馴れしくしないとか


互いに牽制し合って船の秩序を守っている。

そんな雰囲気を

ルフィやマリモ、ウソップまでもが一様に漂わせていたもんだから


仲間になった以上、
ひとまずその暗黙のルールに従った。




だけどいつからだろう

いつの間にかナミさんは

あの腹巻き野郎の側にいることが多くなり

二人で晩酌をする回数が増え、

マリモがナミさんの頬や髪に優しく触れる瞬間を頻繁に目にするようになった。







「ちょっとルフィ、こっちに飛ばすなっ!!何度言ったらわかるのよ!!」


「ふぁみ、おへぇもふぇ!」


「ルフィー、おめぇはちっとは落ち着いて食えねぇのかよ」


「あ、ウソップそれいらねぇならもらうぞ!」


「だぁーッ!人の皿から取るんじゃねぇっ!!」



一見変わらぬいつもの食卓も

ここ最近、ナミさんの隣の席は必ずと言っていいほどマリモがキープしている。

すました顔で俺の作ったリゾットを口に運ぶそいつを

キッチンに寄りかかって煙草をふかしながら観察する。




「ナミ」


「あ、はい」


「サンキュ」


マリモの空のコップにナミさんがお茶をついで渡すという一連の動作だけでも

恋人同士の意志疎通を匂わせて

現にコップを挟んで触れた指先を名残惜しそうに離す仕草が俺の頭を貶める。





船のため

仲間のため

みんなの夢のためと

人が大人しく身を引いていれば




無作法に規律を破りやがって……。



二人が恋人同士だという確証はないが

マリモの気持ちは完全にナミさんにあって

ナミさんもそれに応えているように見える。





こんなことなら始めから全力で奪いに行くべきだった。



まだ間に合うだろうか。



頼むからクソマリモ、てめぇの想いはまだ伝えてくれるなよ。


こんなのフェアじゃねぇ。




もしナミさんの気持ちに俺が入り込む隙があるならば


割って入ってでも俺のものにしてみせる。


灰皿に煙草を強く押し付けて
熱くなる指を水道の水で一気に冷やした。
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