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□耽美的な微笑み
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その女の挑発的な眼差しが




ハートを射抜いた。










「耽美的な微笑み」










「ねぇねぇキャプテン、今日出航するんじゃなかったの!?」


「………」





飲み明けの気だるい昼下がり


俺がつくってやった二日酔い専用ドリンクで見事に回復したベポが


ふさふさの両手をぐーにして俺に迫る。




「船長が出航予定ずらすなんて珍しいっすね」



「あぁ…昨日は麦わら屋の一件で、十分に物資を揃えられなかっただろう?」



まぁ確かにそうっすねー

とシャチ。




「じゃあほら、今から買い出し行きますよ?船長も」



ペンギンに腕を掴まれてしぶしぶ立ち上がった俺は

立て掛けてあった刀を手に取ったところで、はたと考えた。





「…わざわざ俺が同行しなくても、お前らだけで行けばいい」



「ダーメっ!キャプテンじゃないとわかんない医療品とかあるんだから!!」




ペンギンよりも強い力でがっしり腕を持った白熊が、

引きずるようにして俺を外へ連れ出した。








昨日と同じ道を辿り、必要物資を買い込んでベポに持たせる。


ちょうど昨日の酒場の前を通りがかったとき



見覚えのある明るい髪色が向こうから歩いてきて

意識せずとも眉間に皺が寄る。






「あ、あれ麦わらのとこのコック?」


「ほんとだ!おーいっ!」


「よせ」




愛想良く手を振るペンギンを制止したが

おかしな眉を俺と同じようにひそめたそいつは真っ直ぐこちらに近付いてくる。







「……」



「オイオイ待て」




無視して通りすぎようとしたがやはりそうはいかない。




まったく面倒でかなわない。




そいつに聞こえるように大きなため息を一度つき



心底不機嫌な顔を向ける。





「なんだ?あんたに用はない」



「そっちがなくても俺はある」




煙草をくわえ、俺の前に立ちふさがるそいつの両手の紙袋には

今にも溢れそうな大量の食材。


そういやコックと言っていたか…






「下っぱは物資調達も大変なんだな」


「クルーの命を預かる仕事だ。食材は自分で選ぶ」




麦わら屋一味はこういうのばかりだな。

自分の仕事が好きでたまらない。


船医も然り、航海士も然り、もちろん船長も…




「そうか、じゃあ俺たちはこれで。
行くぞお前ら」



「待てっつってんだろうが」





踏み出した俺の行く手を


黒い足が阻んだ。
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