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□私の相槌コックさん
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あのね、それでね……







うんうん……













「私の相槌コックさん」










「でね、その海軍をルフィが---」



「へぇー、それで??」







真っ白なカップを藍色の小花が縁取って
それと平行に注がれた残り少ない半透明な液体が私の手の中で時折踊る。


息をするたびに意識できたローズの香りは今や鼻孔を侵して発信源さえわからない。

熱々のポットから誘われた湯気を立てるティは
今や口内よりも低い温度となってお喋りな私の舌に一休みを要求した。




これで2杯目だ……。







「サンジくんってさぁ……」



「なになに??」



「私の話ちゃんと聴いてる?」







向かいの席で肩肘ついてトレードマークの煙草を人差し指と中指の間で持て余し

まるで孫を見るおじいちゃんみたいに目尻を下げて

スライムみたいにふにゃっと溶けてしまいそうないつもの笑顔で私を見ていた彼は


今しがたの言葉の意味がまるで理解できないというふうに小首を傾げた。







「…もちろん、ちゃんと聴いてるよ?
ルフィの奴が天然で海軍を出し抜いた話だろう?」



「そうなんだけど……」




そうなんだけど…




飼い主を待つ仔犬みたいな純粋な瞳をチラリと盗み見て

中身の無くなったカップにもう一度視線を戻した。





「聴いてばかりで飽きないの?」





今度はさっきと反対側に首を傾けて、煙草の灰を灰皿に落としながら一言。






「全然?」




「……」





聞いた私が馬鹿だった。

ここでサンジくんが「実はその話退屈だなぁと思ってたんだよね」とか
「気が済んだらおしまいにしてくれる?」とか
「ナミさんのテンションにはついていけないや」なんて言うはずがないのだ。
そんなこと、天地がひっくり返っても有り得っこない。






「あ、おかわり淹れるね」



「うん……」






3杯目の液体が小花に新たな色を加えて休憩していた私の舌を蘇らせる。


そうしてまたいつものように


にこやかに煙草をふかしながら、
とりとめもない話に相槌を打つサンジくん。
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