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□中編
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この手を糸も簡単にすり抜けていく

思い通りにならない女。



無理矢理にでも掴んだら


その全てを俺のものにできるのだろうか。









「仮船長の命令」










「明日から午前中はクルーの指導、午後はその都度指示を出す」


「……」




唇を突き上げたまま黙って俺の後を着いてくる女。



案内をさせたベポが一人でいるのを不信に思って聞いてみれば


ペンギンたちの部屋にいると言う。

行ってみると案の定、あの有り様だ。





「入れ」


「……」




こいつがこの部屋で寝たくないのはまぁわかるが

気に入らないのはペンギンの反抗的な態度だ。


今まで忠実に俺に尽くしてきたあいつにしてはらしくねぇ。




「もう寝ろ。ベッドを使っていい。俺は少しやることがある」



読みかけの医学書を手に取り椅子に座ると
しばらく突っ立っていた女は布団を頭からかぶってベッドに横になった。




……ここまで俺になつかない女は初めてだ。


たいがいは何もしなくても鬱陶しいくらいに寄ってくる。

そうでなくても数秒見つめて低い声で名前を囁いて腰を撫でれば頬を染めてすり寄ってくる。


女はそういうものだろう?



俺の船に欲しいのはこいつの知識や航海術。

だが俺が欲しいのはこいつ自身。




強情な気まぐれ女はどうやったらこの手に堕ちる?





「……ん」



女の身動ぎでシーツが擦れて
その音で本から視線を離した。



くるまった布団越しに規則正しく上下する肩の形が見て取れる。


そろそろ寝るか……。




完全にベッドを占領している女の身体を奥に押しやって後ろから腰に手を回した。



形の良い身体のラインがツナギの上からでもわかる。


このまま抱いてしまってもいいのだが

あいにく寝込みを襲うのは趣味じゃない。


この可愛くない気まぐれ女を手懐ける。


すぐにでも、自分から求めてくるようにさせてやる。



女の髪に顔を埋めて息を吸うと蜜柑の香りが漂って


華奢な背中に自分の胸を密着させるように腕の中に包み込み、

狭いベッドの上で一人、その甘い誘惑に笑みを溢した。
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