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□Heat!
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“燃えるような恋”とはよく言ったものだ。
潮風が吹きさらす夜のメリー号の甲板で
目の前の彼はまさに、燃えている。
「Heat!」
世界広しと言えど自らの情熱を文字通り、身体を燃やすことによって表現できるのは彼くらいなものだろう。
短パンから覗く鍛え上げられた筋肉質な両足を広げて肩を怒らせ仁王立ち。
さらけ出された上半身のところどころからメラメラと炎を上げ
暗い夜の海の真ん中に明かりを灯す。
人間が進化の過程で他の動物よりも優位に立てたのは
二足歩行により自由になった両手で火を操ることができるようになったからだとか。
されども私たち一般人は火を扱うことはできても
身体を火に変えることもできなければ皮膚に火が燃え移ろうものなら熱いどころでは済むまい。
つまり普通の人間にとって彼の能力は恐怖である。
その証拠に本来ならば間髪入れずに制止にかかるサンジくんも今のところ口以外、出せるところがないという現状。
「俺はナミに会いに来たんだっ!!!」
「だったら余計二人きりにさせてたまるかクソ野郎!!!」
美味しいお酒と料理を囲んでも仲良く団欒とはいかないらしい。
燃え上がる炎に照らされたロビンの顔はご機嫌に微笑むばかり。
ルフィは相変わらず食べ物に夢中だし
それを横目にため息をつくゾロの後ろに隠れたチョッパーは恐怖でおののいている。
「いい加減ナミに触らせろぉぉッ!!!」
「な…っ!!?ナミさんをエロい目で見ていいのは俺だけだッ!!」
「いやサンジ、そういう問題か…って、ぅおおおいっ!!メリー号が燃えるーッッ!!」
水!水!と悲鳴を上げるウソップ。
彼は感情の高ぶりに比例して炎化するのだろうか。
今にも火柱を上げそうな炎がアルコールに引火しないよう、
数本のロビンの手がエースの近くにあった瓶を
料理をはさんだ向かいに座る私たちの元に手際よく運んだ。
「情熱的なのね、彼」
「暑苦しいだけよ」
周りに集まってきた瓶の中から好みのものを選んで腕に抱き、
聞こえの良いロビンの言葉にため息をつく。
「おうっ!俺のナミに対する想いは熱いんだ!!」
「はいはいありがとお兄さん」
普段サンジくんにしかしないような返しも恒例になってきた今日この頃。
アラバスタで初対面を果たして以来、船長の兄であるこの男は
麦わら海賊団の行く先々にひょっこり現れては「弟が世話になって」と丁寧な挨拶を施し
その礼儀正しさと気さくな人柄に
始めは歓迎していた面々だが
その笑顔や眼差しが徐々に私に集中するようになって
決して勘づきの良くない幾人かのクルーでさえ
彼が頻繁にこの船に足を運ぶ目的を悟り
それでもやはり邪険にはできない愛されるべき性格を持つその男の
もはや隠すこともなくなった想いに今まさに
頭を悩ませているところなのだ。