黒バス家族シリーズ
□一日が始まる
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東の空から朝日が昇って光がさしこむ。暖かい陽光に誘われて、とある六つの家族の一日が始まる。
ある家では、パンケーキの甘い香りが漂っていた。
「うっし、完成っと」
作っていたのは、この家の大黒柱かつ日曜料理人の火神大我。ちょうど良い焼き加減に、彼は思わず笑みをこぼす。さて、そろそろ全員を起こさないと…と思った大我は、ダイニングテーブルに焼き上がったパンケーキを置いて、廊下に続くドアの方に振り向いた。そこには既に、眠そうに瞼をこする水色がいた。
「おはよう、テツナ」
「…おはよ、ございます。大我くん…」
まだパジャマ姿の妻・テツナを見て、大我は破顔する。自分達が高校生の頃は、振り返ればそこにいるテツナに、何度も驚いていた。慣れとは恐ろしいなと思いながら、大我は寝癖だらけの水色の髪をすいてやる。
「ぼっさぼさだな」
「うるさいですよ…」
口ではキツめな言葉を吐くくせに、テツナは大我の大きな手に猫のようにすりよる。そんなところがまた愛らしい。
「久しぶりに、髪でもといてやろうか?」
普段のテツナなら断るのだが、
「……お願いします」
今日の彼女は甘えただったらしい。大我は緩く笑うと、ブラシを取りに行った。
また、ある家では違う意味で一家の大黒柱な、黄瀬幸緒が既に朝ご飯を作り終えて、ストレッチをしていた。中学の頃から続けてきたそれは、最早日課になっていて、最近はそれに参加する人物が増えた。
「おはようッス、幸さん」
「はよ。涼太」
夫であり、世間で知らない人はいないであろう人気タレント、黄瀬涼太がリラックスした装いでリビングに出てくる。幸緒が小さく笑うと、涼太は彼女の背中に手を添えた。
「押すッスよ、幸さん」
「さんきゅ」
ほとんど足を開ききって、幸緒は涼太に押されるまま、ぺたんと地面に胸まで付けた。
「…幸さんの柔らかさには、俺けっこう感謝してるッス」
「何のことだ?」
「独り言ッスよ」
一通りストレッチを終えて、今度は幸緒が涼太の背中を押す。
「お前、昨日は遅かったんだから、もう少し寝てても良いんじゃねぇか?」
「んー…寝るにしたって、幸さんのストレッチした方がよく寝れるんスよね。それに、」
「それに?」
変に言葉を切った涼太に、幸緒は程よく背中を押してやりながら尋ねた。
「夫婦の交流にもなるっしょ。幸さんの方からたくさん触ってくれるし」
「ほう。そーか、そー…かっ!!」
「あだっ!?幸さ…押しすぎ…!」
「知るか!バカ涼太!!」
夫の背中を踏みつけながら、幸緒はそんなに自分から触っていなかったかと考えていた。
二つの家の近くの、目に優しい色をした外壁の家の夫婦の寝室では、夫である緑間真太郎が、左手の指のテーピングを巻き直していた。腰掛けているベッドの上の布団が、モゾモゾと動くのを察知した真太郎は身構える。そして、
「おっはよー!真ちゃん!!」
弾丸のように飛び付いてきた妻、和美を軽く受け止めた。
「あちゃー。読まれてたか」
「当たり前だ。お前と何年連れ添ってきたと思っているのだよ」
「うわ、その発言って地味に男前なんだけど」
朝から楽しげに笑う和美を見て、真太郎は、はぁ…と息を吐きながら、和美をもう一度寝かせる。
「真ちゃん?」
「…今朝は、俺が作ってやるのだよ。寝ていろ」
「ん?あぁ…昨日は久しぶりだったから、激しかったしねぇ」
「…うるさいのだよ」
くつくつと笑う和美の頭を、真太郎はわしゃわしゃと撫でる。
「でも、真ちゃん料理苦手っしょ?」
「俺を誰だと思っているのだよ」
「私の旦那様で天才様の真ちゃん!ということは、料理出来るようになったの?」
「簡単なものならな。お前がいない時もあるのだから、覚えるのも当然なのだよ」
「おぉ、真ちゃんが成長した!」
ニコニコ笑って歓声をあげた和美。それに対して真太郎は、心なしか嬉しそうにしながら、メガネを直す。
「じゃあ、成長した真ちゃんの勇姿を私に見せてよ」
手を伸ばしてきた和美に応えてやって、真太郎は彼女を軽々と持ち上げたのであった。
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