黒バス家族シリーズ

□一日が始まる
1ページ/4ページ




東の空から朝日が昇って光がさしこむ。暖かい陽光に誘われて、とある六つの家族の一日が始まる。









ある家では、パンケーキの甘い香りが漂っていた。



「うっし、完成っと」



作っていたのは、この家の大黒柱かつ日曜料理人の火神大我。ちょうど良い焼き加減に、彼は思わず笑みをこぼす。さて、そろそろ全員を起こさないと…と思った大我は、ダイニングテーブルに焼き上がったパンケーキを置いて、廊下に続くドアの方に振り向いた。そこには既に、眠そうに瞼をこする水色がいた。



「おはよう、テツナ」

「…おはよ、ございます。大我くん…」



まだパジャマ姿の妻・テツナを見て、大我は破顔する。自分達が高校生の頃は、振り返ればそこにいるテツナに、何度も驚いていた。慣れとは恐ろしいなと思いながら、大我は寝癖だらけの水色の髪をすいてやる。



「ぼっさぼさだな」

「うるさいですよ…」



口ではキツめな言葉を吐くくせに、テツナは大我の大きな手に猫のようにすりよる。そんなところがまた愛らしい。



「久しぶりに、髪でもといてやろうか?」



普段のテツナなら断るのだが、



「……お願いします」



今日の彼女は甘えただったらしい。大我は緩く笑うと、ブラシを取りに行った。







また、ある家では違う意味で一家の大黒柱な、黄瀬幸緒が既に朝ご飯を作り終えて、ストレッチをしていた。中学の頃から続けてきたそれは、最早日課になっていて、最近はそれに参加する人物が増えた。



「おはようッス、幸さん」

「はよ。涼太」



夫であり、世間で知らない人はいないであろう人気タレント、黄瀬涼太がリラックスした装いでリビングに出てくる。幸緒が小さく笑うと、涼太は彼女の背中に手を添えた。



「押すッスよ、幸さん」

「さんきゅ」



ほとんど足を開ききって、幸緒は涼太に押されるまま、ぺたんと地面に胸まで付けた。



「…幸さんの柔らかさには、俺けっこう感謝してるッス」

「何のことだ?」

「独り言ッスよ」



一通りストレッチを終えて、今度は幸緒が涼太の背中を押す。



「お前、昨日は遅かったんだから、もう少し寝てても良いんじゃねぇか?」

「んー…寝るにしたって、幸さんのストレッチした方がよく寝れるんスよね。それに、」

「それに?」



変に言葉を切った涼太に、幸緒は程よく背中を押してやりながら尋ねた。



「夫婦の交流にもなるっしょ。幸さんの方からたくさん触ってくれるし」

「ほう。そーか、そー…かっ!!」

「あだっ!?幸さ…押しすぎ…!」

「知るか!バカ涼太!!」



夫の背中を踏みつけながら、幸緒はそんなに自分から触っていなかったかと考えていた。








二つの家の近くの、目に優しい色をした外壁の家の夫婦の寝室では、夫である緑間真太郎が、左手の指のテーピングを巻き直していた。腰掛けているベッドの上の布団が、モゾモゾと動くのを察知した真太郎は身構える。そして、



「おっはよー!真ちゃん!!」



弾丸のように飛び付いてきた妻、和美を軽く受け止めた。



「あちゃー。読まれてたか」

「当たり前だ。お前と何年連れ添ってきたと思っているのだよ」

「うわ、その発言って地味に男前なんだけど」



朝から楽しげに笑う和美を見て、真太郎は、はぁ…と息を吐きながら、和美をもう一度寝かせる。



「真ちゃん?」

「…今朝は、俺が作ってやるのだよ。寝ていろ」

「ん?あぁ…昨日は久しぶりだったから、激しかったしねぇ」

「…うるさいのだよ」



くつくつと笑う和美の頭を、真太郎はわしゃわしゃと撫でる。



「でも、真ちゃん料理苦手っしょ?」

「俺を誰だと思っているのだよ」

「私の旦那様で天才様の真ちゃん!ということは、料理出来るようになったの?」

「簡単なものならな。お前がいない時もあるのだから、覚えるのも当然なのだよ」

「おぉ、真ちゃんが成長した!」



ニコニコ笑って歓声をあげた和美。それに対して真太郎は、心なしか嬉しそうにしながら、メガネを直す。



「じゃあ、成長した真ちゃんの勇姿を私に見せてよ」



手を伸ばしてきた和美に応えてやって、真太郎は彼女を軽々と持ち上げたのであった。









次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ