黒子のバスケBL

□雪花の襲
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ハッとした時、桜井はしんしんと降り積もる雪の中で、一本の桜の前に立っていた。冷たい雪が頬にぶつかり、水滴を拭った手には、桜の花びらがついていた。



「どこ…?何で、僕…こんな所に…」



自分は登校中だったはずだ。桜井は懸命に何があったのか思い出そうとするが、この雪が降り始めた時までしか記憶がない。東京には珍しい真っ白な雪につられるように空を見上げてから、桜の木の前にやってくるまでの間が、全くの空白になっているのだ。
ヒュウ…と風が吹いて、思考の海から戻される。悴んだ手に呼気を吹き掛けると、ひらり、また薄紅色の花弁がそこに舞い落ちた。そうだ、桜だ。と桜井は目の前の木を見上げる。満開に咲き誇る桜の花、その隙間から覗く灰色の空と白雪。狂い咲きというものを桜井は初めて見た。



「すごい……綺麗だなぁ」



吸い寄せられるように瑞々しい幹に触れる。舞い散る花びらが、その数を増した気がした。




頬を冷たいものが滑り落ちる。また雪が…と桜井は思ったが、次々と流れてくる冷たいものが、雪ではないと告げてくる。目頭が熱い、鼻の奥がツンとする。何よりも、幹に触れた瞬間から、視界が滲みぼやけていたのだ。



「っひ、く……や…う、ぁあっ……ど、してっ、こんな…!」



喉をしゃくり上げる。幾度も幾度も目元や頬を拭うがしかし、涙が止まる気配はなく、桜井は手がふやけてしまうのではないかと思った。



「あっあぁ……!ふ、ぁ…いや……っく…うぅ、」



桜井は膝をついて、自分の身体を抱き締める。呼吸が絞られていくようだった。




さくさくと、背後から雪を踏む足音が響いた。








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