リクエストlog

□ボールが繋ぐ愛
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部活をサボったりすることはなかったが、やはりのびのびと練習出来る場所には、足繁く通ってしまうものだ。弱点である体力の無さとフィジカルの無さを、平日の部活で補いながら、休日はストリートで、自分だけの武器を開拓。そんな生活を始めて、はや一月。ようやく桜井は、原石の形を感じていた。



(休憩も練習の内…)



持ってきた二本目のドリンクを飲みながら、桜井は軽くストレッチをする。休憩無しにぶっ続けで練習しすぎて、疲労で倒れて一日を無駄にしたことがあったから、休む時はしっかりと休むことを身に付けていた。



(やっと形は見えてきた………あとは練習あるのみだ)



グッと拳を握りしめる。再び立ち上がった桜井は、もう一度ボールを構えた。
その時



「お?誰かと思ったら、頑張り屋の桜井じゃん」

「…休みの日も練習か」

「あっ…せ、先輩……」



二人の男…桜井にとっては、二つも年上の先輩が、フェンスの戸から現れる。気さくな赤茶髪の男が、少し寡黙な黒髪の男が、桜井に危害を加える主犯格であると、誰が気付くであろうか。
いつか蹴られた脇腹がズキッと痛んで、持っていたボールが手から滑り落ちた。桜井は一歩だけ後退る。



「練習熱心なこって。えらいえらい」



ヘラヘラと笑う赤茶髪が、桜井の肩を掴む。少し強い力に、桜井は眉をしかめる。黒髪が、使い込まれたボールを拾いあげる。



「ボール代もバカにならないだろ?いいかげんにしたらどうだ」

「…心配していただかなくても、大丈夫です、」



ザリッ



靴と地面の擦れる音が、やけにその場に響く。赤茶髪の冷めきった目と視線が合う。



「…その耳、飾りなワケ?桜井。誰がお前の心配なんかしたよ」

「ッ、すいませ、」

「その“すいません”もだ。本当に申し訳なく感じてるならさ、部の雰囲気壊すのやめてくんないかな」



黒髪が八つ当たりするようにボールを投げ捨てて、桜井を射殺すように睨み付ける。



「…努力して何になる、帝光に勝てるとでも思っているのか?そんなワケないだろう。あんな化け物ども、勝てっこないだろうが!」



寡黙な黒髪の先輩の怒鳴り声に、桜井は一瞬震えるが、彼を睨み返した。黒髪は激昂したまま続ける。



「部員全員が割りきっているのに、何でお前だけが…!!」



ついには胸ぐらを掴まれたが、桜井は眥を決したまま口を開いた。



「……どんな化け物でも、どんな凡人でも、コートに立ったら一人の選手です。選手には、勝つために努力する権利があります!



…最善の努力を尽くすことの、何がいけないんですか!?」



無言を貫いてきた桜井が、初めて音を紡いで反論した瞬間だった。



「このっ…!!」

「言わせておけば!!」



突き飛ばされて、尻餅をつく。頭に血が昇った二人が拳を振り上げるのが見えて、桜井はギュッと目をつぶった。









だが、痛みは襲ってこなかった。









「おいおい、ケンカなんかよそでやれよ。ここは、バスケする場所だぜ?」
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